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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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巫女へ本気の力を

 竜はそれ以上千花を追いかけては来なかった。

 千花は早く終わらせるために城を走り抜け、とうとう1人、謁見の間へと着いた。


(着いた。これで、ようやく)


 イリートを倒すことができる。

 千花は早鐘を打つ心臓をぐっと抑え、ゆっくりと扉を開く。

 その男は、変わらず玉座に座っていた。


「あの竜を超えたか。巫女よ」


 静かで低い声が部屋に響く。

 千花は魔法杖を構えながら、背筋を伸ばしてイリートを見据える。


「戦う気になったということ?」

「吾輩はあのまま浄化されても良かったが、魔神様から巫女を倒せと命令があってな。上には逆らえない」


 そう言いながらもイリートは腰を上げない。

 あくまで千花が攻撃するまで待っている体勢なのだろう。


(それなら遠慮なく倒させてもらう!)


 千花は魔法杖をイリートに向け、呪文を唱えた。


「レビン!」


 イリートに向けて発動された雷は一直線にラヴァー王の体を直撃しようとする。

 だが雷はその体を貫通せず、半透明の壁に吸収される。


(防御の壁っ)


 竜人が束になっても破れなかった防御魔法。

 千花も予想はしていたが、やはり簡単な魔法では突破できなかった。


(それなら)


 千花は遠距離魔法を止め、イリートの目と鼻の先まで近づく。


(防御魔法をかけながら攻撃する)

「ビブレーション!」


 千花は防御壁の一点を集中して何度も振動をかける。

 シモンから教えてもらった壁を突破する方法だった。


『絶対に破れない防御は基本的にない。的を決めて何度も攻撃すれば』

「きっと壊れる!」


 千花の思惑通り、ヒビはすぐに入った。

 イリートは攻撃せずに黙って壁が壊れる様子を眺めていた。


(なんで攻撃してこないの?)


 千花が違和感を覚え、壁を壊した瞬間地を蹴って後ろへ引く。

 そんな姿を見てイリートはゆっくり目を閉じて口を開く。


「見事だ光の巫女。やはり魔王を倒してきただけはある。竜人が束になっても壊せなかった吾輩の壁を打ち破るとは、頭を使ったものだ」


 素直に賞賛を送ってくるイリートだが、千花の中ではずっと嫌な予感が渦巻いている。

 そしてその答えは、すぐにわかった。


「これだけの実力ならば姿を変えても本気で戦えそうだ。立ち向かえ、巫女よ」


 イリートはそう言うと自身の足元に魔法陣を展開させる。

 魔法陣はイリートの体を包み込み、人型の形を変えていく。

 徐々に骨が、肉体が変形していき、体長が長くなっていく。

 その長さは5メートル、10メートル、15メートルと長くなっていき、剥き出しになった爪は床が耐えきれずに地面にめり込んでいく。

 人の顔は赤い鱗で覆われ、瞼のない鋭利な瞳と牙は見ているだけで食い潰されてしまいそうな程に恐怖心を与えられる。


「これが、竜の姿……」


 千花は人型からドラゴンになったイリートを見て足を竦ませる。

 その体は室内に収まりきらず、天井を突き抜け、城を破壊していた。


「この姿で街に繰り出してやろう。死者が出る前に止めてみろ、巫女よ」

「ま、待って!」


 千花が魔法を出すより前にイリートは大きな翼を出現させ飛んでいく。

 もし魔力のない竜人がイリートのドラゴンに襲われたらひとたまりもない。


(早く行かないと!)


 千花は走り出そうとするがその前に立ち止まる。

 今ここで千花が走ったとしてその頃にはもう街は壊滅状態にあるのではないだろうか。

 千花が不安に駆られていると、不意に複数の足音が耳に響く。


「田上!」

「興人……」


 足音の正体は興人とヒート、それにプラムだった。

 ヒートはイリートの姿がないことと天井が壊されていることにすぐに気づき、声を上げる。


「おい娘! 魔王はまさかドラゴンになって……」

「……街を破壊しに行きました」


 千花がか細く言う中、興人とヒートは焦る。

 恐らく千花と同じように最悪の事態を想像しているのだろう。

 だがプラムだけは違った。


「ならヒート、私達がドラゴンになってこの2人を乗せていけばいい」

「なっ。プラム正気か?! 街中での竜人のドラゴン化は禁止されていて」

「今そんなこと言ってる場合? 法に縛られて国がどうなってもいいの?」


 そしてプラムは千花を睨む。


「あなたも何ぼーっとしてるの。私に啖呵切っておいてドラゴンが現れたら何もできないの?」


 プラムの叱責に千花ははっとなり、ヒートの方を見る。


「お願いします。今だけ私に協力してください」

「ヒート、俺からも頼む。この国を救わせてくれ」

「ヒート、法と国民、どっちが大事」


 興人からも頼まれ、プラムに後押しされ、ヒートはぐっと考えた後頷いた。


「我ら三賢竜、ドラゴンの姿になり魔王討伐へ乗り込みましょう。プラム、お前は女を乗せろ」

「任せて」


 そう言うとヒートとプラムはその場でドラゴンの姿となる。

 イリート──ラヴァー王の体よりは小さいが、それでも2人並べば威圧感で押し潰されそうだ。


「王子、お乗り下さい」

「急いで」


 千花と興人はそれぞれ2人の背に乗り、その鱗に掴まる。

 ドラゴンに乗ったことがない千花は、不安と緊張を混ぜながらもプラムに頼む。


「お願いします。私を、魔王の所まで連れて行って」

「……言われなくても」


 ヒートとプラムは飛び、天井から外へ出ていく。

 目指すは、火の海と化している、街中だった。

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