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光の巫女  作者: 雪桃
第2章 リースへ
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1人の方が楽?

 翌朝。

 千花は遅刻寸前で登校した。

 心では考えていなくても体は疲れていたらしい。

 風呂に入った後はほとんど寝落ちのように意識を飛ばした。


(ギリギリ間に合ったけどこれが毎日は精神的にもキツイ。慣れるまでの辛抱かな)


 全寮制のため欠席者を除いて空いている席はない。

 高校生ともなれば1週間もあれば仲のいいグループはいくつもできる。

 千花も例に漏れずグループの輪の1人として学校生活を楽しむ──はずだった。


(この1か月間安城先生の勉強漬け生活と異世界のことで頭がいっぱいだった。これは完全に友達作りを逃したやつだ)


 別に人見知りはしない性格の千花だが、周りを見ればクラスメイトが3~4人で仲良く小さな世界を作っている。

 そこに堂々と「入れて」というのは少し難しい。

 スマホのアプリで趣味などを見てから話しかけるのも手だが、生憎千花が今持っているものは最低限の連絡先が入っているだけの簡単なものだ。


(いっそのことグループワークとかで無理矢理にでも話す機会を設けてもらえれば)


 既に他力本願で友達を作ろうと考えている千花だが、そんな都合のいいことは簡単に起こらない。

 特に1年の初めでグループワークをさせないとでも言うような教師達の気遣いが余計に千花を苦しめた。


(誰とも会話せず、挨拶も交わさずに半日が過ぎるなんて)


 長野にいた頃は春子と雪奈という小学校からの幼馴染が必ずいた。

 そうでなくともクラスメイトは全員小学校からの顔見知りばかりだったため、千花が1人になることはほとんどなかったのだ。


(覚悟はしてたけど、やっぱり知らない所に1人は中々辛いものがあるなぁ)


 昼休みになり食堂は生徒の話し声で賑わっている。

 基本的に購買で買って教室で食べる生徒と食堂で食べる生徒に分かれるが、千花は静かな教室で更に1人になるのがいたたまれなく食堂に来た。

 結局1人なので虚しいがここまで来て引き返すのも面倒なので大人しく席に座ってご飯を口に入れる。

 ちなみに量は周りのことも考えて少なめにしている。

 とは言っても運動部に所属している男子と同じくらいだが。


(べ、別に友達を作るために東京に来たわけじゃないし? 魔法のことは話しちゃいけないからむしろ気が楽)


 弁解すればするほど虚しい気持ちになってくるのは何故だろうか。

 千花が悲しくなりながら更に箸を進めていると不意に遠くから女子の黄色い声が聞こえてきた。


「あ」


 千花が声のする方に顔を向けると女子集団の中に邦彦の姿が見えた。

 邦彦が微笑を浮かべながら教師陣の机の方へ歩いていく。

 その度に色めき立った女子達は頬を赤らめ、恍惚そうな表情を見せる。


(初めて中学校に来た時の女子と同じ反応だ)


 邦彦はイケメンだ。

 それも歩くだけで学校中の女子を釘付けにしてしまうほど。

 どうやら学校での評価は人当たりが良く、何でも優しく答えてくれる非の打ちどころのない教師らしい。


(そうでしょうね。見た目と上辺だけ見れば完璧人間ですからね)


 千花が女子集団を見ながら行儀悪く箸をいじっていると、不意に席に着いた邦彦と目が合った。

 食堂は決して狭くないが、その中で2人が目を合わせたのは偶然ではないと千花は思う。

 千花の存在を認識すると邦彦はまるで愛する幼子に向けるような笑みを浮かべてきた。


(は?)


 千花はその表情に軽く怒りを覚えたが、自分に向けられたと思っている近くの女子生徒達は更に黄色い歓声を上げて口々に感想を述べている。


(いや、あれは私に向けたものだ。それもボッチでいることをからかうような笑顔だ!)


 千花がその推測が自意識過剰でないことを自覚したのは放課後、リースに行ってからだった。




「安城先生、なんですかあの気持ち悪い笑顔は」

「いつの話ですか」


 昨日同様、千花は邦彦に促されてリースの世界を案内されていた。

 観光だけではない。

 王都というだけあって、すぐに迷子になってしまう千花が自分で地球に帰れるように散策しているのである。

 今は人通りの多い大通りを2人で並んで歩いている。


「昼休みです。私のこと馬鹿にしたように見たでしょう」

「馬鹿にしたなんて心外な。まるで初めての世界に降り立って心細そうにしている幼子だと思っていたんですよ」

「馬鹿にしてるじゃないですか!」


 幼子の時点で邦彦が千花を巫女候補ではなくただの友達ができない可哀想な子どもとして見ていることがわかった。

 それにいちいち反応する千花を見て邦彦はクスクスと笑う。


「大体安城先生目立ちすぎじゃないですか。そりゃ容姿はどうにもならないとは言えあんなに人がいいとどこに行っても注目の的じゃないですか」


 千花が心配するというよりも、少しいじけたような、邦彦のアラを探したいというような意地の悪い質問を口にする。

 邦彦はそれにも動じず飄々とした表情のまま返答する。


「もちろんそこは心得ていますよ。ですが人が良いと何かと便利なんですよ」

「例えば?」

「女性は優しくすれば言うことを聞いてくれます」


 邦彦の言葉と真っ黒な微笑みに千花は軽蔑に近い表情を浮かべた。


「私絶対優しくされても揺るぎませんから」

「おや残念」


 残念とも思っていない声音で返してくる邦彦に千花はこの人には口で勝てないと気づく。


「安城先生って候補者を見つける仕事はいつから続けてるんですか」

「18からなのでちょうど20年ですね。巫女の守護が弱まった時から探しています」


 相槌を打とうとして千花は驚いた顔を邦彦に勢いよく向ける。

 その際に立ち止まったため後ろの人にぶつかりよろけた。

 咄嗟に邦彦が転びそうになる千花を庇う。


「気をつけてください。まだ休憩には早いですよ」

「にじゅっ……30代だったんですか!?」

「もう後2年で40ですよ」


 千花が驚くのも無理はない。

 邦彦は容姿も声音も全てにおいて若々しい。

 教師であることから10個は離れているとは思っていたがまさかほぼ二回り離れているとは思わなかった。

 ほとぼりが冷めた頃、千花は邦彦に全体重を預けていたことを思い出した。

 邦彦は顔色も姿勢も変えずに待っている。


「お……」

「はい?」

「お父さんは絶対ぎっくり腰になるのに! 先生化け物ですか!?」


 更に驚いた千花に邦彦は笑顔を崩さないまま片方の眉を上げる。

 そのまま感心したような素振りを見せ固まっている千花の膝裏と背中に手を置き、抱きかかえた。


「はっ!?」

「さて、少し場所を変えましょうか」

「いや、下ろしてください」

「嫌です」

「化け物って言ったことそんなに嫌でした!? 謝りますから下ろしてください恥ずかしいです!」

「どうぞそのまま恥ずかしがっていてください」


 邦彦の怒りどころがわからないまま千花は数多の視線に晒されながら邦彦の言う場所へと担がれた。

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