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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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田上を信じて

 走っていき1分も満たないうちに光が見えた。

 千花が走りを緩めて光の方向へ歩いていくと、そこは今でも掃除が行き届いている興人の部屋だった。

 きっと、いつ王子が帰ってきてもいいように、三賢竜を初めとした竜人が興人を待ちかねていたのだろう。


(早く、安心させてあげないと)


 千花は抜け穴を出て部屋の中を見渡し、扉を見つけるとすぐに開ける。

 敵はいないが、代わりにシモンがそこには立っていた。


「シモンさん、無事でしたか」

「ああ、たまに危うい所はあったが、あいつら気が立っていてすぐに喧嘩を始める。こっちに気づく余裕もないみたいだったな」

「早く、魔力を戻して平和なフレイマーに戻しましょう」


 千花は決意を胸にイリートのいる謁見の間へと走る。

 王宮の構造は至ってシンプルで、謁見の間までは一直線に道が続いている。

 前回興人と来た時は敵1人いなかったが、今回は違った。


「チカ、避けろ!」

「っ!?」


 千花が先頭を切って走っていた所に急に突き当たりから何かが出現した。

 咄嗟に千花が後ろに飛びずさると、何かはその腕を大きく振りかぶり、床を貫通させる勢いで攻撃してきた。


「何これ!」

「人造の……いや、魔王が作り出した悪魔の竜だな」


 その正体は2メートルはあるだろう巨体に筋肉質な体と鋭い爪を手足に持ち、口からはみ出るくらいに鋭利な牙を剥き出しにした、瘴気を纏う竜だった。


「こんなの前はいなかったのに」

「チカが本気になったことを知った魔王が、自分の手を汚さずに倒しに来たんだろうな」


 あの時は決意が固まったら倒しに来いと言っていたが、それは簡単に浄化させてくれるという意味合いではなかったらしい。

 千花は魔法杖を構えて臨戦態勢に入るが、それをシモンは制止する。


「ここでお前の魔力を削ったらそれこそ魔王の思惑通りだ。ここは俺に任せて先に行け」

「でも」

「大丈夫だ。俺は死なないし、お前も1人でだってやれる。だから、ここまで来れたんだろ?」


 シモンの励ましに千花ははっとし、次いで強く頷いた。


「お願いします。どうか竜人達を守ってください」

「当たり前だ」


 シモンは竜を攪乱させるために煙幕を発射する。

 身動きが取れなくなった竜を横目に、千花は急いでイリートの所へと向かった。






 膝をついて礼を言う興人にヒートとマーズは反応ができなかった。

 興人は頭を下げたまま更に続ける。


「物心つくまえのこと、ここで王子として暮らしていたこと、機関に戻って全部思い出した。幼い俺を、ずっと親代わりのように大事に育ててきてくれたのは、お前達だったな」

「お、王子! 顔をお上げください。何もそこまでしてほしいわけでは」

「いや、こうでもしないと話ができないと思ったんだ。身分も何もない。俺が退屈だという馬鹿な理由で抜け道を作って、拉致されなければお前達に14年間も心配をかけさせることなく、俺の本当の父、ラヴァー王もこんな目には遭っていなかったと思う」

「それは……」


 ヒートは興人に顔を上げるよう自身も膝をつき説得しようとしたが、興人の思いは変わらない。

 短い間ではあったが、この三賢竜は赤ん坊の興人を念入りに世話し、深い愛情を込めて接してきてくれた。

 その感謝は、どれだけ謝罪と礼を述べても足りないくらいだ。


「反論も罵倒も後でいくらでも聞く。だから今は、俺の話を聞いてくれないか?」


 興人が頼むと、2人はしばし顔を合わせて困った表情を向けた後、黙って続きの言葉を待った。

 興人は礼を言い、再び立ち上がると2人に口を開いた。


「俺は14年間、光の巫女を見つけ出す機関にいた。最初は幼かったから何も仕事を割り振られなかったが、魔力も安定し、動けるようになるとトロイメアの見回りを任されることになった」


 興人は今までの生い立ちを2人に話す。

 人間のことを、もっと知ってほしかったからだ。


「人間は確かに竜人に比べて知能も魔力も劣っている。スラムがあり、喧嘩もあり、依頼を遂行できず傷だらけで帰ってきた者もいた」

「ではやはりこの国に帰って」

「だがな、それ以上に人間は立ち直る力があった。ウォシュレイの魔王に水没された時も、世界樹が凍り付いて魔力を失った時も、人間は少ない知恵と魔力を振り絞って進んできた。なんでかわかるか?」


 興人が問いかける。

 わからないと言うように2人が黙っていると、興人は更に口を開いた。


「他でもない。光の巫女が、たった1人の少女が、田上千花が、魔王という絶望を打ち砕いてくれたからだ」


 興人は三賢竜に、自分を心配して、愛してくれたこの者達に、千花という存在も愛してほしかった。


「完全に信じられないのも事実だ。あいつを混乱させて、竜人を攻撃させたのも、俺に責任がある」

「それは……っ!」

「だが今だけでいい。今だけ、田上を信じてやってほしい。あいつは必ず魔王を討伐できる。この国の、竜人の魔力を取り戻すことができる」

「確証はあるのですか?」


 マーズが冷たく返す。

 それだけ千花を信用するには証拠が必要ということだろう。


「俺が一番近くで田上の成長を見てきた。挫けそうになっても、窮地に立たされても、あいつが敗れることはなかった。だから今、4体の魔王を倒せているんだ。これが今俺がお前達に伝えられる確証だ。駄目か?」


 説得をしておきながら、興人には自信があまりなかった。

 もしここで三賢竜が敵に回ってしまえば、どれだけ千花が魔王を倒せたとしても二度と竜人の信用は勝ち取れないだろうと。

 だが興人が心の中で心配している余所で、1人、女の声が響いた。


「私は、王子の考えに賛成です」

「プラム!? お前、あの女はどうした」


 千花を問い詰めていたはずのプラムが抜け道から出てきて興人の背後に立っていた。

 その顔は決心を固めたような表情をしていた。


「三賢竜の目的は、王に代わって竜人を収めること。今ここで私達が動かなかったらそれこそ名折れじゃない」

「あの女が悪魔の仲間だという確証は……」

「それはない。だって約束したもの」


 プラムと千花の間に何があったのかはわからない。

 しかしヒートとマーズはその顔を見て何かに気づいたのだろう。

 興人に膝をつくと、その場で敬礼を見せた。


「今は、あなた様のご指示に従います」

「我々三賢竜、王族の重鎮にかけて魔王退治に協力しましょう」


 興人は目を見開いてその場で固まり、次いで一息吐いた。


(田上、ありがとう)

「ありがとうお前達。城に乗り込むぞ」

「はい!」


 興人を含めた4人は、その足で王城へと向かっていった。

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