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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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どうして助けに来てくれなかったの

 千花は暗い土の道を走り抜けていく。

 たった3つだった興人がよくここまで長い道を作り続けたと、千花は走りながら感心した。


(ここを抜ければ、興人の部屋に着く。そしたらシモンさんと合流して、魔王を……)


 千花は考えながら走る。

 魔王の顔を思い出した直後、やはり恐怖が襲ってくるが、首を横に振り、否定的な思いを払拭する。

 今の千花がやるべきことはただ1つ。

 フレイマーの竜人を救うことだ。


「私は、戦う」

「誰のために?」


 突然の女の声に千花は体を震わせてその場で身構える。

 薄暗い地中の中、どこから声がしたのか辺りを見回すと、ザクザクとした足音が前の方から聞こえてきた。


「あなたは確か」

「三賢竜が1人、プラム」


 桃色の鱗を半身に宿した竜人プラムが千花の行く先に待ち構えていた。

 彼女の表情は怒りと言うよりも、何かを確認したそうな、探るようなものだった。


「お願いします。そこを通してください。私、魔王を倒しに行きたいんです」

「魔王の手下のあなたが、魔王を倒しに行くの?」

「私は手下なんかじゃない。竜人を助けたい人間なんです」

「あの時、攻撃してきたくせに?」

「それは……」


 プラムの言葉に千花は反論ができない。

 プラムの言っていることは事実であり、それを否定することも肯定することも千花にとって不利になる。


「ねえ、あなたが悪魔を倒すというのなら、どうして早く来てくれなかったの?」

「え?」


 プラムの表情はまだ変わらない。

 伺い知れぬその顔に千花は顔を上げて首を傾げる。


「世界樹が凍りつき、魔王が魔力を奪った時、真っ先に犠牲になったのは私の父だった。父は国中の竜人から笑い者にされて、気を落として、家事もできなくなってとうとう私達にまで攻撃するようになったわ」


 プラムは身の上を語り出した。

 千花はその言葉を黙って聞く。


「私は何度も説得したわ。大丈夫、光の巫女様が助けてくれる。だからそれまで待っていようって。でも状況は変わらなかった。半年間、待っても待っても助けは来なくて、とうとう絶望した父は、食べる者も喉を通らなくなって、自分で死を選んだわ」

「え……っ」


 千花は絶句する。

 まさか近くに助けを求めていた者が、失われていたことなど気づきもしなかった。


「私、今でもあなたのことを殺したくて堪らない。いいえ、私の父の気力を奪った同族の竜人も、何もかも殺したくて堪らない。だから、あなたに問うわ。どうしてここまで時間がかかったの? 光の巫女だって言うのなら、どうして父が死ぬ前に助けに来てくれなかったの!」


 プラムの涙に、悲痛の叫びに、千花はただ立ち尽くすしかなかった。

 竜人を救うためにと、ここに来たのに、プラムは救ってくれなかったことを嘆いている。

 千花は自分の情けなさに苦しくなり、声を詰まらせる。


「……ごめんなさい」

「謝って済む問題だと……っ」


 プラムは涙顔を上げて千花に掴みかかろうと手を伸ばす。

 その手を払い除けることなく、千花は魔法杖をしまい、同じように涙を流しながらもすっと前を見据える。


「すぐに助けに来なかったのは、私が弱かったから。魔王を倒すと豪語しておきながら、誰かの指示がないと動かなかった私の責任です。あなたのお父さんを救えなかったのも、全部全部、私のせい」


 きっと、他の人からすれば千花の言葉を否定する者もいるだろう。

 プラムの父が死んだのは魔王のせいであり、千花のせいではないと。

 でも千花は違かった。


「全部私が悪い。だから私を責めてもらって構わない。だけど、1つだけお願いがあるの」


 千花はプラムの手を解き、魔法杖を取り出すと自分の胸に添えた。


「一度だけでいい。信じてください。あなたのお父さんを救うことはもう叶わないけど、せめて、今生き残っている人達だけは、救わせて」

「何を根拠に。大体、あなたが味方だからって絶対勝てるとは限らない」

「絶対はない。私が負けることも勝つこともある。だから、私は1人で戦わないの。救いたい者と一緒に、この世界を救うの」


 プラムは悔しそうにギリギリと奥歯を噛み締める。

 そこまで追い詰めた千花は、心にナイフを刺されたように痛み を感じた。


「ありがとうプラムさん。私をすぐに殺さないでくれて」

「は?」

「あなたの力なら私なんて簡単に始末できた。それでもあなたは私を信じてくれた。だから今こうして、あなたと話せてる」

「違う! 私は、あんたなんか……あんたなんか」


 その次の言葉は出なかった。

 代わりにプラムはそっぽを向き、千花が今から進むであろう道を開けた。


「行ってきますプラムさん。あなたが大好きだったはずのこの国を、取り戻しに」


 千花は涙をぐっと拭い、魔法杖を握りしめて走り出した。


「お父さん、これでいいんだよね」


 プラムは、今は亡き父に向かって、ぽつんと呟いた。

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