表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
255/277

誰もわかってくれないくせに

 城内には3人の姿はなかった。

 興人がなぜ姿を消したのか疑問に思っている中、答えはすぐに出た。


「この、悪魔が!」


 城を出た直後、千花は罵声と共に顔目がけて石を投げつけられた。

 突然のことに何が起きたかわからなかった千花と興人は目の前を見て驚愕する。

 竜人の群れが2人に対して敵意を示している。否、興人には向いていない。

 千花にのみその殺意は向いていたのである。

 そしてその先頭にはヒート、プラム、マーズがいた。


「ヒート、お前ら、何してるんだ!」

「王子よ、我々は騙されていたようです。あなた様が呼び寄せたこの女こそ、我らが魔力を奪った元凶ではありませんか」

「プラムが聞いていたのです。魔王との会話を。その女が魔王の封印を解き世界樹を凍らせたと。フレイマーの魔王はそれを機に我らの魔力を奪うようになったと」

「全部全部、そいつが悪いんじゃないか! 光の巫女を被った悪魔め!」


 竜人達は口々に「悪魔だ」「この国から消えろ」と叫びながら千花に石を投げてくる。

 興人が庇おうと大剣を振りかざすが、全て防御できるわけはなく、千花の体に傷ができていく。


「私、あなた達を助けようと」

「うるさいクソ女! お前だって悪魔の仲間じゃないか!」


 千花は額から流れる血を眺めながら魔法杖を握りしめる。

 ゼーラの一件は確かに千花にも責任があるが、それを討ち倒しのは千花だ。

 フレイマーの魔力を奪ったイリートの原因は千花だが、それも今竜人の代わりに救い出そうとしているのも千花だ。

 なのに、なのに──。


(そんなに1回過ちを犯しただけで責められなければならないの)


 千花の魔法杖を握る力が怒りでどんどん強くなっていく。

 彼らは何も知らないからこうやって呑気に1人を標的に罵ってくるのだ。

 千花が何を抱えているかも知らないまま、千花がどんな思いで今まで魔王を倒してきたかも知らないまま。


(何も知らないくせに。何も気づいてくれないくせに)

「早く消えろ! 悪魔が……」


 千花が未だ反応しないことにいら立った竜人の1人が彼女に近づき胸ぐらを掴もうとする。

 興人が止めようと手を伸ばす直前だった。

 竜人は千花の魔法によって吹き飛ばされていった。


「……さい」

「え?」

「うるさいうるさいうるさい!!」

「田上?」


 突然の千花の反撃に石を投げていた竜人も固まって怯えた表情を向けている。

 今魔法が使えない竜人にとって千花が全力を出したら簡単に全滅できるだろう。

 興人が彼女の混乱を鎮めようとするが、千花は止まらない。


「私のこと何も知らないくせに全部悪者にして! そんなに私のこと悪者扱いするならいいわよ。悪魔になってやる!」


 千花の言葉に興人は先程イリートが言っていた言葉を思い出す。

 千花が今ここでフレイマーを壊滅させてしまえばそれこそ千花は本当に悪魔になってしまう。


「田上、落ち着け。ここは俺が何とかするから」

「うるさいうるさい! みんないなくなっちゃえばいいんだ! みんな、みんな、死んじゃえば……」

「はいストップ」


 千花の魔力が暴走していることは興人にもすぐにわかった。

 感知できた竜人も悪魔の力に怯え一目散に逃げていく。

 暴走が止まらない千花の魔力に興人が大剣で気絶させようとしたその瞬間、千花の周りを竜巻が覆い、辺りを蹴散らしていった。


「田上! あっ」

「心配になって様子を見に来たら、何がどうなってんだオキト」


 竜巻によって呆然としていたヒート達も奥へと飛ばされていったらしい。

 竜巻が収まると気絶した千花と彼女を抱えているシモンを興人は見つけた。


「シモンさん……」

「とりあえず様子を見ていたが、今はここにいる場合じゃねえな。一度機関に帰るぞ」

「田上は」

「今は強制的に眠らせてる。魔力が暴走した光の巫女の力を押し戻せる程の時間も労力もないからな」


 シモンは竜人に見つからないように裏道から来たらしい。

 興人についてこいと合図をして先に進んでいってしまう。


「王子! あなたはこちらへ……」


 意識を取り戻したヒートから叫ばれている。

 興人は迷いながらも口を開く。


「俺は王族である前に光の巫女の仲間だ。先にこちらの問題を解決してからそちらへ行く」

「そんな、そんな女にこの国は任せられません! どうか王子が」


 この期に及んでそんなことを言うヒートに興人も気を悪くする。

 だがここで事を荒立ててはまた先程の二の舞だ。


「頼むからお前達だけでも信じてくれ。あの少女は、絶対に世界を救ってくれるから」


 興人はそう言うと、ヒートの制止を振り切りシモンの後をついていく。

 取り残されたフレイマーは、再び混乱を招くのみとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ