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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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諍いの止まらない市民達

 トロイメアより北東にあるフレイマーは火山に囲まれた国だった。

 毎日噴火を続ける山の麓にあるフレイマーは灼熱とも言える暑さで、竜人の薬を飲んでいなければ千花はすぐに倒れていたことだろう。


「興人はどこにいるんですか?」


 千花はフードを被り姿を隠しながらマーズに聞く。

 マーズは人間に話しかけられているのが気に食わないのだろう表情を見せながらも千花の質問に答える。


「隠れ家でご静養されているか、既に魔王討伐へ向かっているかのどちらかだ。まずは俺達も隠れ家へと向かう」


 マーズが先へ先へと進んでいくので、千花は踏み慣れない地形に置いていかれないよう必死についていく。

 でこぼことした地面ではすぐに躓いてしまいそうだ。


「向こうに見えるのがフレイマー?」


 千花が指した先には木の柵で出来たサークルがあった。

 遠目からでしか見えないが、それぞれテントが張ってあり、ゲルのような集落らしい。


「ああそうだが、ちっ、あいつら、また騒ぎを起こしてやがる」

「え?」


 マーズが舌打ちして千花のフードを目深に被せる。


「いいか、今からは迷わずに俺についてこい。少しでもはぐれたら喧嘩に巻き込まれるからな」

「どういう意味……あ、ちょっと」


 千花が聞き返そうとした矢先、マーズはそのまま崖を下ってしまう。

 いくら竜人化したとは言えそのまま滑り落ちるのが怖い千花は風魔法で自分の体を浮かせ、ゆっくりと降りる。


「おい、何魔法使ってる! ここでは魔法を使う奴は全員敵だ。もう使うなよ」

「え、先に教えてくれても」

「いいから行くぞ」


 無駄に話を聞かず、自分の思い通りに進めようとするマーズに千花は青筋を立て始める。

 だがここで感情を荒立ててはならない。

 千花1人で興人と合流できるわけがないからだ。

 フレイマーには簡単に入ることができた。

 ウェンザーズのような悪魔の警備隊も、バスラのような吸血コウモリもいない。

 その代わり、様子がおかしいことには千花もすぐに気づいた。


「おいてめえ今ぶつかってきただろ!」

「ああ? てめえこそ今のわざとだったろ!」

「何だとこの半竜が!」


「おとうさん、やめて。叩かないで」

「てめえさえいなきゃこっちは魔力なしでも生きていけんのにとんだ獄潰しが」

「いたい! ごめんなさいおとうさん!」


「これで3日目。いつになったら巫女様は来てくれるの?」

「もう諦めるしかないんだ。魔法が使えない俺達は、もう仕事にだっていけない」


 所々で起きる暴動、虐待、嘆き。

 千花が手を出そうとするとマーズがそれを制止して小声で忠告する。


「関わろうとするな。止めに入ったら最後標的にされるのは人間であるお前だ」

「で、でも……」

「これはフレイマーの問題だ。お前にやってもらうのは王子と共に魔王を討伐するのみ。それ以外に口出しするな」


 そう言われた千花は落ち込んだ様子でフードを被り下を向く。

 

(私、無関係じゃないの、マーズ)


 この問題を引き起こした元凶として、千花は胸が苦しくなる。

 一刻も早く魔王イリートを討ち倒し、竜人が全て魔力を取り戻すまではきっと、千花の心労は決して拭えないだろう。






 千花が案内されたのはフレイマーの街から少し外れた郊外にあるテントの中だった。

 中に入るとマントを脱いだ桃色の鱗を持つ竜人と青色の鱗を持つ竜人、そして──


「興人!」


 千花が中央に座る興人に駆け寄ろうとすると、マーズに首根っこを掴まれ阻止された。


「いたっ」

「王子に近づくな人間! 分不相応だぞ!」


 あくまで千花は野蛮な人間、興人は高貴な王族として扱われているらしい。

 だが今更興人に敬語を使うのも「なんか違う」と考えた千花は彼に目配せする。

 千花の視線に気づいた興人はマーズに向かって一言命令した。


「俺が王族の身分なのは認めている。だが田上は俺の戦友だ。手荒な真似はするな」

「しかし……いえ、承知致しました」


 千花にしか聞こえないように舌打ちをしたマーズを千花もにらみ返した。

 そこまで怒られる謂れはないはずだ。


「ヒート、プラム。今の魔王の状況は?」


 マーズがこの2日で起きたことを聞くが、ヒートと呼ばれた青鱗の竜人は首を横に振る。


「変わりなしだ。王子も1人で魔王の所に行かせるわけにもいかず、お前達を待っていたところだ」


 確かにマーズは元々1日もかからずに帰ってくる予定だったため、2人もここまで時間がかかるとは思っていなかったのだろう。

 非難の目がマーズに向く中、唯一興人だけは冷静に策を練っていたらしい。


「田上、この3人は全面的に俺に協力してくれるらしい。俺がやるべきことは魔王イリートの防御壁を壊すことと魔王を倒すことだ。田上はどうする」

「私も真っ向からの勝負でいいと思う。ただ……」

「ただ?」

「ううん、何でもない。決戦は明日?」


 既に日は傾いている。

 それでも喧嘩の声は止まないが、今行ったところで魔王の有利に働くだけだろう。


「ああ、明日の日の出と共に魔王城に俺達全員で乗り込む。準備をしておいてくれ」

「わかった」


 千花は興人の指示に素直に頷いた。

 そしてその姿を、三賢竜は訝し気に見つめていた。

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