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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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竜人の襲撃

 鈴ですぐにシモンを呼び出したことでギルドに帰ることができた千花は適切な処置を受けさせてもらえた。

 後頭部を殴られたため脳震盪(のうしんとう)を起こしたものの打ちどころが良かったらしく軽傷で済んだ千花はすぐに意識を取り戻した。

 簡単な任務だったのになぜ気絶するに至ったのか、そもそも興人はどこへ行ったのか邦彦とシモンに問われた千花は順番に説明した。

 とは言え千花もわからないことが多く、説明できたのは油断していたところに3人の賊に囲まれ、その強さに負けてしまったことと、興人が催眠魔法で連れ去られてしまったこと。そしてもう1つ。


「フードを取ったら顔の一部が鱗で覆われている姿を見ました」


 千花の説明に邦彦は顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 

「鱗がある種族で、田上さん達の任務地を考えるとフレイマーの竜人族である可能性が高いですね。ですが今フレイマーは魔王に支配されていて簡単には動けないはず。なぜ竜人が外へ出て日向君を狙ったのでしょう」


 状況を聞くだけでは推測もできないと言うように邦彦は首を横に振る。


「だが、拉致されたってことは少なくとも助けに行く必要はあるな。オキトのことだから多少の攻撃には耐えられるだろうが、もしフレイマーの野郎が魔王に生贄として送り込もうって言うなら話は別だろ」

「生贄!?」


 シモンの言葉に千花は最悪な想像をして青ざめる。

 これ以上仲間を失いたくないと考えている千花にとっては興人がいなくなるのはトラウマにもなりうる。


「ええ、シモンさんの言う通り早く連れ戻してあげたいところですが、そう簡単にはいきません」

「なんでだよ」

「竜人族は別種族、特に人間が国に入ってくることを酷く嫌います。神聖な土地に野蛮な種族を入れたくないという理由で」

「そんなもの今は関係ないだろ! そんなにプライドが大事なら勝手に魔王に支配されてればいいんだ」


 シモンの怒りの言葉に千花はハラハラする。

 千花は魔王討伐をする役目でリースに来ているが、相手から来るなと言われてしまえばどうしたらいいかわからなくなる。


「落ち着いてくださいシモンさん。まずは女王陛下にこのことを伝え、フレイマーへ行く許可をいただいてから」

「その必要はない」


 突然誰の声でもない低く渋い声が訓練場を響かせ、一斉に警戒心を抱く。

 訓練場の入口に立っていたのはフードを被った大柄な男だった。


(あれ、あれの姿)


 千花は見覚えがあった。

 戦いながらも敵の素性を確認するためによく観察していた千花は、その男が先刻戦った竜人ではないかと見抜く。


「安城先生、あの人が竜人だと思います」

「そうですか。わざわざ来てくださったのですね」


 邦彦は拳銃を持ちながら皮肉を述べる。

 シモンも千花を庇いながら魔法陣を展開するが、一方でフードの男はその姿を見て鼻で笑う。


「野蛮な人間が。簡単に武器を見せつけるとは、こんな者達に王子が育てられたとはなんと嘆かわしい」

「何をしに来たのですか。日向君はどこへやったのです」

「ヒューガ? ああ、王子のことか。我々が王子を拷問しているとでも思っているのか。無事に保護しているに決まっているだろう」

「さっきから王子王子って誰のこと言ってんだよ。オキトは」

「お前達の探しているオキト王子こそフレイマーのラヴァ―王のご子息である。そんなことも知らなかったのか」


 千花は衝撃的な発言に目を丸くした。

 シモンも同じだったようで、千花の代わりに感想を述べた。


「あいつ、竜人だったのか」


 千花も同じ意見だったが、思い返してみれば人間離れした体力に魔力量は竜人だと言われても納得がいく。


「日向君が王族だから連れ戻すために拉致をしたことはわかりました。ではなぜまたここに来たのです。まさか日向君を帰してくれるわけではないでしょう」

「ふん、そんなこと当たり前だ。今の俺の狙いはそこにいる女だ。王子に連れてこいと命じられれば人間であろうと案内するほかないだろう」


 やはり竜人が忌み嫌う人間の地に足を踏み入れたのは千花が目的だったようだ。


「なぜ田上さんを?」

「我々は王子に魔王討伐をしていただくよう懇願した。その際に王子が仰ったのだ。そこの女がいなければ魔王は倒せないと」


 この男の目的は魔王討伐らしい。

 そこは千花達も同じ目的なので咎めることはない。

 だが如何せんやり方が強引なのだ。


「あなたの言い分はわかりました。ですが田上さんを1人で連れて行かせることはできません。しっかりとトロイメア女王陛下の許可を得たうえで……」

「それは許さん。その女は今必要なんだ。渡さないと言うならば今ここでお前らを倒してから奪うとしよう」

「望むところだ」


 シモンが戦闘体勢に入ってしまう。

 邦彦もやむを得ないをばかりに拳銃を構えるが、千花のみ慌てながら止めに入る。


「ちょ、ちょっと待ってください! 今ここで戦ったって不毛なだけですよ?」

「だがお前を連れて行かせるわけにはいかないだろ」

「連れていかれる気はないですけど。竜人さん、少しお話しませんか?」

「何? 人間と何を話すと言うんだ」

「それは今決めるとして……興人がもし王族として認めたと言うのであればお互いに傷つけあうことは彼にとって傷つくことじゃないんですか?」

「うっ」


 竜人の手が止まる。

 千花はその隙を見て更に説得を続ける。


「私、興人の言う通り魔王討伐に行くつもりではありますよ。でも、魔王の正体も対策もできていないまま倒せと言われてもこちらが負けることは確かです。まずはあなたに魔王の素性を教えてもらって、女王から正式に魔王討伐を任命してもらって皆で戦いに行く方が絶対勝つ可能性は高くなると思います」

「そ、それは、確かに」


 今この竜人は種族のプライドで偉そうにしているが、裏を返せばそれだけ光の巫女である千花が必要であり、興人への忠誠は確かなようだ。


「そうですね。こちらも早とちりをしました。田上さん、ありがとうございます」

「い、今だけだからな。野蛮な人間と高潔な竜人が顔を合わせて話をするなど本当はあってはならないことなのだからな。今だけ許してやる」

「なんでずっと上から目線なんだよ」


 シモンだけが戦わないことに納得がいっていない様子だったが、千花が争いを好まないと言うなら従うしかない。

 全員が武器を降ろし、トロイメアの一国で竜人と人間が話し合うことになった。

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