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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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興人の本当の出自

 目を覚ました先はテントの中のようだった。

 ゲルのように広々とした茶色の天井をぼーっと眺め、興人は今何が起きているか半覚醒の状態で確認する。


「お目覚めになりましたか」


 まだ状況把握ができていない中、興人は左から声をかけられる。

 そちらに顔を向けると、フードを被った小柄な者が興人の前に立っていた。


(フード、そうだ、確か任務の途中で俺は……いや、俺達は)


 何が起きたか理解した興人は咄嗟に横たわっている体を起こし大剣を手に取ろうとして、違和感に気づく。


(俺の大剣がない。奪われたか)


 いつも手元に置いてあるはずの武器がないことに瞬時に攻撃できないことを察する。

 フードの者を睨むと、彼──否、声質からして女だろうか──は頭を下げて詫びてきた。


「申し訳ありません。こちらの話を聞いていただきたく武器は一度お預かりしております。もちろん傷1つつけてはおりませんのでご安心ください」


 拉致をしておいて安心も何もないが、興人はその態度を不思議に思う。


「……お前達は何者だ。田上……俺と一緒にいた仲間はどうした」

「1つずつご説明させていただきます。まずは、お目覚めになったので他の2人も呼んでまいりますね」


 そう言うとフードの者はテントの中から出ていく。

 このまま逃げることも可能だろうが、武器もない中もし取り囲まれたら形成はこちらが不利だ。


(田上、無事だろうか)


 一瞬しか見えなかったが、あくまで千花を襲った攻撃は峰打ちだったように思える。

 命に別状がなければいいと願っているうちに、フードを被った何者かが3人入ってきた。


「まずは手荒な真似をしてしまい申し訳ありません。深くお詫びいたします」

「謝罪はいい。さっきの質問に答えろ」


 尚も興人が警戒を崩さないでいると、3人はそれぞれ頭のフードを取った。

 その顔を見て興人は驚きの表情を見せる。


(竜人?)


 その3人はそれぞれ色とりどりの鱗を持っていた。

 1人目は顔のほとんどが青の鱗に覆われたトカゲ顔の竜人。

 2人目は左半身が桃色の鱗に覆われ、右半分はアーモンド型の目を持った竜人。

 3人目は、ほとんど人間と容貌が変わらないが、額の一部に緑色の鱗がついた竜人だった。

 それぞれが順番に、ヒート、プラム、マーズと名乗った。


「あなた様と共に居た女は気絶こそさせたものの命に別状はないようにしております。竜人が人間を討ったとなれば問題になりますので」

(田上は無事か)


 だがこの言い方だと、気絶させてそのまま放置しているに違いない。

 シモンがすぐに助けに来てくれればと祈りながら、興人は次の話に移る。


「それで、なぜ竜人が俺を連れてきた。俺に何の用がある」


 光の巫女候補者である千花が拉致されるのはまだわかるが、興人はただの冒険者──少し特殊な生い立ちではあるが、連れ去られるまでの身分ではないはずだ。

 興人がそう考えていると、ヒートが首を横に振り嘆いた。


「やはり、覚えておられないのですね。無理もありません、あなたはまだ物心もつかぬうちに故郷を離れてしまったのですから」

「どういう意味だ」


 興人の出自は14年前で途切れている。

 この3人は興人が赤子だった頃を覚えているということか。


「回りくどい説明は後にしましょう。あなたはラヴァ―王のご子息。フレイマーの王族にして第一後継者なのです」

「は?」


 興人は信じられないと言った面持ちでヒートを睨む。

 まさか拉致されたと思えば自分は王族などと言われれば誰でも同じ反応をするだろう。


「すぐにご理解いただかなくて結構です。我々もあなた様を見つけ出すのに14年もかかってしまった。それまでの苦悩を考えれば、信じられないという気持ちもおありでしょう」

「待て。その前に俺は人間だ。竜人のような鱗はないし、今までも人間として生きてきた」

「竜人は人型の者と竜型の者に分かれますが、あなた様は偶然鱗を持たない竜人だったのでしょう。それに、特徴ならまだあるはずです」

「……例えば?」

「人間が根を上げてしまうほどの体力量。幼いながらにして火属性の魔法を難なく使いこなせる才能。そして、魔王を討ち倒せる程の魔力量でございます」


 この3人は今までの興人を見ていたのだろうか。

 確かに当てはまることの方が多く、興人は二の句が告げないでいる。

 その間にもヒートは話を続ける。彼がこの3人の中ではトップの地位にいるのだろう。


「あなた様をお呼びしたのは他でもありません。我らフレイマーの王ラヴァ―が魔王イリ―トに乗っ取られ、国は壊滅の危機に瀕しております。王族であるあなた様に魔王を倒していただきたく思います」

(そんなことだろうと思った)


 今の話の流れから易々とトロイメアに帰してもらえるとは思わなかった興人は深く溜息を吐き、返答する。


「事情はわかった。だが準備はいる。まずは俺と一緒にいた田上……少女に会わせてくれ。そこから……」

「それはなりません」

「は? なんで」

「あの者は人間でしょう。たとえあなた様と親密なご関係であろうと神聖なる竜人族の郷に簡単に入ってもらっては困ります。それにあなた様へのあの態度、王族の側近として許してはおけませぬ」


 興人は昔邦彦から聞いた竜人族の特徴を思い出した。

 確か竜人族は自分達の種族に特別強い思いを持っていて、プライドが高く他の種族──特に人間を馬鹿にしている傾向がある、と。


(だからあの時田上だけ突き放したのか)

「了承していただくまでは我ら3人、梃子でも動きませぬ」


 ヒートからそう言われてしまい、興人は頭を抱えることになった。

 魔王を興人1人で倒せるわけがない。だがこの3人を説得するには骨が折れる。


「……わかった。一度フレイマーに行こう。だが、何度も言うが魔王を倒すにはあの少女の力が必要だ。だから協力を要請させろ。そうでなければ俺は魔王退治をしない」

「そんなっ。竜人族の体裁が……」

「民が苦しんでいる中、プライドがどうのこうの言っている場合か? 体裁と命、どちらが優先すべきかよく考えて行動しろ」


 興人が強く命令すると3人とも口を噤む。

 プライドが高い分目上の者に強く出られないらしい。


「……承知いたしました。あなた様の言う通り、あの少女を連れてまいりましょう。不本意ですが、今は人間に頼るしかありません」

「ああ、よろしく頼む」


 そう言うと興人は立ち上がってテントの外へ出る。

 どうやらかなり遠くまで連れてこられたらしく、すぐ目の前にはフレイマーを象徴する火山があった。


(俺が王族だというのは未だ信じられないが、捨てられた身にとって竜人でも人間でもどちらでもいい。今は、田上に協力して魔王を討伐することだけを考えよう)


 興人は大剣を受け取り、千花を迎えに行ったマーズ以外の2人と共にフレイマーへ向かった。

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