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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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3人の賊

 ある日、千花は任務に出ていた。

 今の千花には簡単な、猛獣の群れの退治だったが、光の巫女候補者ということもあって護衛に興人がついていた。

 任務の先は北東にあるフレイマーの近く。まさかギルドの依頼書にフレイマー周辺の猛獣狩りがあるとは思わず、千花は二つ返事で行くことにしたのだ。


「興人、残党はいない?」

「ああ、気配はしないな」


 興人と共にこの付近の村に損害を及ぼしている猛獣がこれ以上いないかどうか確認し、千花は帰り支度を始める。


「簡単な仕事だったね興人。やっぱり私1人でも戦えるようになったみたい」

「そうやって油断してるとすぐに襲われるぞ」


 千花と共に荷物をまとめ、興人は元来た道を戻ろうとする。

 その瞬間だった。


「──っ!」


 興人と千花を囲むように弓矢が放たれてきた。


「何!?」

「田上、構えろ。盗賊か魔物か。敵だ」


 2人が大剣と魔法杖を構えている間に敵と見られるフードを被った3人が姿を見せた。


「何者だ」

「……」


 興人が名乗りを上げるが、3人は何も話さず、代わりに魔法陣を展開してきた。

 魔法陣から繰り出される炎を避けて千花も魔法を発射する。


泥団子(マッドダンプ)!」


 泥で作った球体を1人に連発し、攪乱させる。

 その間に興人は2人を相手に大剣を振り回し、攻撃しようとする。


「っ、──」


 賊のうちの1人が何かを興人に言いかけるが、その隙を見て攻撃を仕掛けようとしてくる可能性がある。

 興人は話を聞かずに賊のフードを剥がそうとする。


「ちっ」


 だがその前にもう1人の賊が興人に魔法を当て、足下を狂わせる。


「興人……っう!?」

「田上!!」


 千花が興人の安否を確認しようと振り向いた瞬間、彼女と対峙していた賊が千花の頭を殴って気絶させようとする。


(狙いは田上か!)


 興人が千花を守ろうと走り出すと、賊が3人興人を取り囲み、背後から大剣を叩き落とした。


「えっ?」


 なぜ自分に標的を向けるのかわからなかった興人は反応が一瞬遅れ、賊の1人に催眠ガスのような魔法をかけられる。

 戦闘慣れしている興人も毒には勝てず、そのまま気絶して賊の懐に倒れ込んだ。


「お、きと……」


 気絶寸前まで追い込まれた千花だったが、最後の力を振り絞って賊の顔を見ようと風魔法を送る。

 その顔を見て、千花は驚愕の表情を見せた。


(竜の、鱗?)


 1人だけ見えたその顔は、半分が人間の顔を持ち、半分が竜の鱗のような赤い皮膚を持つ竜人族だった。

 千花に顔を見られたことを知った竜人は慌ててフードを隠し、千花を置いて2人と合流し、その場を去るのだった。


「なんで、興人を狙って」


 千花は目眩を覚える体に叱咤し、意識を取り戻すと、側にあった木に背をもたれかけさせ何かあった時に随分前に渡されたシモンを呼び出す鈴を鳴らした。


「竜人族っていうことはフレイマーの住民? もしかして、私をおびき寄せるために、興人を人質にした?」


 それならば早く助けに行かなければならないが、道もわからなければ素早く動くこともできない。

 千花はもうすぐ途切れそうになる意識を駆使し、道に傷をつける。

 そちらへ3人と興人は連れていかれたと考えれば、フレイマーはあちらなのだろう。


(早く、シモンさんと安城先生に言って、興人を助けに行かない、と……)


 そこで千花の意識は途切れた。






 フレイマー城内にある一室でその竜人は『魔力』を貪り食っていた。

 魔力を抜かれた竜人は屍のようにその場に倒れ込んで動かなかった。

 動かないその竜人の子どもらしき者はすすり泣いて男に懇願する。


「お願いします。魔力を返してください。それがないと戦いに行けないのです」


 子どもが泣きながら言うが、その男は魔力を食べながら首を横に振った。


「ダメだよ戦いなんて。皆、魔力があるからこの吾輩を倒そうとしてくるんだ。だから全部吸って食べてしまえば、誰も戦わなくて済むだろう。感謝しなさい。戦う恐怖を与えないでいるんだから」

「返して……僕達の魔力を返してよ! ラヴァー王!」


 フレイマーの城に集まる魔力を抜かれた竜人はそれぞれ力が抜けたように倒れ込んでいた。

 その中心にいるのはこのフレイマーを統治するはずの王ラヴァー。

 今は魔王という名で体を乗っ取った、イリートがフレイマーを支配していた。


 子どもの泣き声は、いつまでも続いていた。

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