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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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音沙汰のないフレイマー

 千花が降霊術を身につけてから優に3か月が経った。

 ネクロの教え方も然ることながら、千花は光の巫女候補者としてかなりの功績を上げていた。


「我は将軍ランサー。543年の戦いにて没死したものの遺してきた家族がどうなっているかわからずこの冥界を彷徨っていたところだ」


「お買い物途中にね、魔力が暴走した車が飛び込んできて何が何やらわからないうちにいつの間にか死んでしまっていたの」


「ママ、どこ……? ぼく、おうち帰りたいよ」

「ええ、帰してさしあげましょう。光の巫女様の名のもとに、あなたを成仏いたします」


 ネクロは千花が降ろした霊魂の話を1つずつ聞きながら成仏魔法をかけていった。

 成仏魔法は光属性の魔法の一種であり、悪魔への浄化とはまた違うらしい。


「さて、チカ様、お戻りください。それ以上霊と通信しては今度はあなたが連れていかれますよ」


 ネクロの言葉に千花は目を閉じ、すっと意識を戻す。

 この3か月、毎日彷徨える幽霊と交信し続けてきた結果、千花は急成長で降霊術をマスターすることができた。


「このまま光の巫女の魂と交信できないものですかね」

「私も毎日探しておりますが、未だ発見には至っておりません。それだけ奥深くに巫女様はお眠りになっているということでしょう」


 この下に光の巫女が眠っていることは確からしいが、如何せん彼女が眠りについたのは900年以上も前のこと。

 更にその理由も考えれば簡単には魔神と相対したくはないのだろう。

 道のりが長く途方に暮れる千花だが、同時に心配になっていることがある。


「あの、ネクロさん。フレイマーの魔王について、何か伝えられてないですか?」

「チカ様が何もお聞きになっていないことを私が知る由はありません」


 千花の心配事はフレイマーの魔王退治も関係していた。

 ゼーラとの戦闘があってから半年。千花がリースに来てからで言えばもう1年と3カ月が経っている。

 既に救出した七大国の中でも唯一取り残されているフレイマーの竜人族達が千花は心配でならないのだ。


(支配されて4年目。早く助けに行かないと、きっと国民は魔王に苦しめられているに違いない)

「そこまで気になるようでしたらトロイメア女王陛下に謁見を申し出てはいかがでしょうか。光の巫女候補者のチカ様ならお目通りが叶うでしょう」

「そうしてみます。今日もありがとうございました」


 千花はネクロに礼を言い、霊地の間を後にする。

 目指す先はシルヴィーのいる謁見の間だ。

 ゼーラの一件があってから、千花もすぐにシルヴィーに会えるよう、護衛の騎士には顔を知られるようになった。

 そして今回も、すぐに謁見は叶った。


「女王陛下、お久しぶりです」

「久しいなチカ。最近は光の巫女様の魂を呼び寄せようと努力していると聞いている。息災であったか」


 世界樹を凍りつかせた件では千花に対して強く敵対心を抱いていたシルヴィーに若干怯えていたものの、この調子であれば話しても大丈夫だろうと千花は少し肩の力を抜く。


「女王陛下、お聞きしたいことがあるのですが」

「許す」

「フレイマーの魔王退治は、いつ行えばいいでしょうか」


 単独行動はしないと考えた千花は魔王退治も指示なしでは動かないことに決めていた。

 1人で動いて碌な結果になった試しがないからだ。

 そして千花の言葉を聞き、シルヴィーは困ったように首を横に振った。


「それがだなチカ、フレイマーからは何も音沙汰がない。ここまでチカが魔王を倒していれば何か挑発してきそうなものだが、何一つとして反応がないのだ」

「それって、魔王がまた私なんて簡単に倒せると思ってるからでしょうか?」

「舐めているのやもしれないが、それにしてはフレイマーが静かなのが気になる。クニヒコには既にフレイマーへ偵察を寄越していることを伝えているが、騎士団は誰も帰ってこない。まるで、存在を消されているのやもしれない」


 その言葉に千花はゾッとする。

 ウォシュレイの時にも騎士は人質に取られ、千花の目の前で魚にされていった。

 あの時の二の舞がまた起きているのであれば、早く助けに行かねばならない。


「だがチカ、何度も言うが1人で行動しようとするな。指示を待て」

「……はい。承知致しました、女王陛下」


 逸る気持ちをシルヴィーに見抜かれ、千花はうっと言葉を詰まらせながら命令に頷いた。


「そうとわかればお前は引き続き訓練を行え。それ以降のことは追って伝える」

「はい。失礼します。女王陛下」


 千花はそう言うと、納得のいかない気持ちを抑えて謁見の間を出ていった。

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