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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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久しぶりの模擬戦闘

 千花の思惑通り、興人は訓練場で1人大剣を素振りしていた。

 千花が声をかけようとしても全く気配に気づかない程集中しているらしく、千花は少し意地悪をすることにした。


(前にやられたことがあるし、お返し)


 千花は入口から動かずに魔法杖を取り出し、静かに魔法陣を展開させると呪文を唱える。


「リーフカット!」


 千花の魔法陣から現れた無数の葉は鋭利な刃となり、興人へと一直線に飛んでいく。

 気づかなければ軽傷を負う魔法だが、興人は瞬時に気づいたかと思うと、炎を大剣に纏わせ全て燃やし尽くす。


(流石興人……ん?)


 千花が感心しながら見ているとそのまま炎は延長線上にいる千花へと襲いかかる。


「う、水壁(ウォーターウォール)!!」

 

 慌てて千花が水の壁を張ると、炎は寸での所で水に当たり、蒸発する。

 熱い蒸気が千花の体を覆い、さながら熱波に当たっているような感覚に千花は一気に水分を持ってかれるような気分の悪さに陥った。


「お前だったのか田上。刺客だと思った」

「あ、相変わらず容赦がないね興人」


 千花は尻餅をついたことで頭の中がフラフラと靄がかかったような錯覚を覚える。

 興人から手を貸してもらい立ち上がりながら千花は興人の言葉に違和感を抱く。


「ていうか刺客って何? 興人、盗賊に狙われでもしてたの?」

「昔な。どこの貴族だったかは覚えていないが、機関で先生に拾ってもらえるまでは刺客に狙われていた記憶がある」


 そこまで聞いて千花はある疑問を抱いた。

 興人の素性をそこまで聞いたことがないのだ。


「興人も安城先生に拾われて機関に入ったんだっけ。差し支えなければ聞いてもいい?」

「そんなに楽しい話でもないぞ。3歳の頃まではどこかの国で暮らしていたが物心がつく前によく命を狙われていたことだけは覚えてる。そこから、不運が重なって奴隷市場に売り飛ばされそうになった時に先生に救われて機関に保護されることになったんだ」

「孤児院には入れられなかったんだね」

「俺が炎魔法のみは既に修得できていることをテオドールさんが面白がって。実験体にはしないけどトロイメアの偵察部隊に入れたらどうかって。それで今ここにいる」


 リースの子どもは3つになる頃には初歩的な魔法なら使えるようになるが、興人は炎魔法のみずば抜けて使いこなせていたらしい。

 その実力を買われて今ここにいるのだと言う。


「じゃあ興人、命を狙われるってことはどこかの偉い人の息子だったんじゃない? ここにいたらまずいんじゃ」

「その言い方はやめろ。もう14年も前の話だ。いくら悲しみ深い貴族だったとしても流石に諦めてるだろ」

「そういう問題かなぁ」


 もし興人が王族だとしたら国中の一大事として混乱を招いても仕方のないことだと千花は思うが、興人はそうではないらしい。

 「それより」と興人は話を戻す。


「降霊術の特訓が終わったからここに戻ってきたんだろ? いきなり攻撃してくるってことは戦いたいってことでいいよな」


 不敵に笑う興人にやはり彼は戦闘狂の一面があると千花は呆れながらも魔法杖を取って頷いた。

 そこからシモンが任務から帰ってくる1時間半をかけて2人は手合わせを行った。

 今のところ勝率は6:4で興人が勝っていた。

 いつかは興人に圧勝できる程強くなりたいと千花は願いながら戦いに望んだ。


(それにしても、興人ってなんでこんなに疲れ知らずなんだろう。魔力も体力も、人間離れしてるというか、私が半日瞑想して疲れてるのに興人は同じ時間同じ動きをしてて汗もそんなにかいてない)


 千花は真っ向から対峙してくる興人の大剣を避けながら考え事に耽る。

 魔法を撃ちながら考え事ができるようになったのはゼーラと戦うようになって余裕ができてからだ。

 成長と言えばそうだが、物事を考えている間に次の攻撃に移されてしまうと反応が遅れることがある。

 そう、今のように。


「隙あり」

「あっ!」


 千花は魔法杖で防御を取ろうとしたが、その前に興人が大剣の柄で千花を怯ませ、杖を奪い取ってしまう。

 そのまま大剣を千花の首に押し当て、斬る直前まで押し倒した。


「勝負ありだな」

「参りました」

「やけに体が覚束なかったな」

「そりゃあ半日体をひたすら魂を取り込むために集中してたし、むしろ興人の方がなんで疲れないのか不思議なくらいだよ。どういう特訓をしたらそんなに呼吸が乱れないでいられるの」

「さあ?」


 さあって、と千花が肩をガクリと落として拍子抜けする一方で、興人は自分もわからないと言うように首を傾げる。


「俺にも原理はわからない。ただ戦っている間にどんどん体力が回復していくんだよ。最近になってからだけど、炎属性の魔法を使う度に自分でも人間離れした力が湧き出るような気がする」

「興人、本当に人間?」

「わからない。何せトロイメアで拾われたわけではないからな」


 そんな冗談を言い合いながら2人は再戦の準備をする。

 その冗談が冗談で済まなくなることがわかるのは、それから3カ月後のことだった。

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