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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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降霊術

 その日から千花は王宮内の一部にある霊地の間という所に連れてこられた。

 床には部屋全体を包む程大きな黒い魔法陣が描かれており、遮光カーテンで太陽の光は1ミリも届かないようになっている。

 中央に置かれたランタンだけが唯一部屋を照らしてくれる心もとない光のようだった。


「はじめましてチカ様。私が降霊術の担当をさせていただきます、ネクロと申します」


 ネクロと名乗ったその女性は口元を薄い布で隠し全身を真っ黒な分厚い布のワンピースで覆っている。

 その言葉遣いと声音に千花はゼーラを思い出し、少々身構えてしまう。


「は、はじめまして。よろしくお願いします」

「こちらこそ。降霊術は初めてということで、まずは瞑想を覚えていただきます。お付きの方は出て行ってもらいますようお願いします」

「えっ」


 ネクロの言葉に反応したのは千花の方だった。

 ずっと邦彦が側にいてくれると思っていた千花は突然素性の知れないネクロと2人きりにされるのが不安なのだ。

 邦彦はネクロの言葉にしばし考えた後、先程のように千花に笑みを返す。


「大丈夫です田上さん。この王宮内にあなたに危害を加える者はもういません。安心して訓練に励んでください。終わったらすぐに迎えに来るので待っていてくださいね」


 そう言うと邦彦は霊地の間を出ていった。


「……過保護ですこと」


 邦彦の言葉に若干の安心を覚えた千花だったが、ネクロの小馬鹿にしたような声音に一気に現実に引き戻される。


「なんですか?」

「あなたはこの世界を救うべく召喚された光の巫女様だと聞いています。それが、私が信用ならないという理由で大人に助けを求め、いつでも励ましてもらいながら戦わなければならない腑抜け者だと申しています」


 化けの皮が剥がれたのか、ネクロは容赦なく千花を罵倒してくる。

 千花が何も言えずに悔しみの表情を浮かべているとネクロはランタンの近くまで歩いていった。


「文句がおありでしたら降霊術で本物の光の巫女様を呼び出してからにしてくださいませ。それまでは、否が応でも私に従っていただきます。よろしいですね」

「……わかりました」


 千花も逆らうこと自体無駄だと感じたのか、ネクロに続いてランタンの前で座禅を組んだ。

 ネクロはランタンの火を操り、少し弱める。


「ここから深呼吸をしてください。そう、一切ペースを乱さないで。今日はこのまま5時間呼吸を整えてもらいます

「5時間!?」

「乱さないでと言ったはずです。本来は半日でも足りない修行ですが、あなたには門限というものがあるのでしょう? それを加味して手加減しておりますので、ご理解いただいて修行に励んでいただきますよう」


 千花は途方もない時間に唖然としながらもネクロからこれ以上叱られないように頑張って深呼吸する。


「肩の力は抜いてください。あなたが今すべきことは深く呼吸することのみ。それ以外の邪念は一切お捨てになり、心を空っぽにするのです」


 日本で言うところの座禅と一緒だと千花は考えながら、その考えすらもここでは禁止なのだと心の中で首を振り、目を閉じて深呼吸にのみ集中した。


(あら。弱音を吐くと思ったのに。肝は据わっているようですわね)


 ネクロは感心した様子で千花の後ろに立ちながら様子を窺う。

 ここから彼女が集中したら部屋を出ていくつもりでいたが、この調子ならもう外に行っても大丈夫だろう。


(まあ、魔王を4体も倒しただけの実力はある、ということですわね)


 ネクロは今まで降霊術を学んできた若者たちがすぐに根を上げる姿を見ている。

 千花がその人間達と同じでないことを祈りながら、彼女の集中が切れないように静かに外に出ていった。






 邦彦は千花と別れた後、謁見の間へ向かった。

 自身の傷の状態もそうだったが、この1週間、トロイメアも混乱しておりシルヴィーに話をつける機会が訪れなかったのだ。

 そして今ようやくシルヴィーに謁見することが叶っている。


「トロイメア女王陛下。お目にかかることができ光栄です」

「ああ。先日の世界樹での一件は見事なものだった。とは言え、手放しで褒められたものではないがな」


 シルヴィーは梨沙の封印を千花が解いてしまい、あまつさえ一度は世界を混乱させたことに大層怒りを覚えているようだった。

 たとえ千花が尻ぬぐいをしたとしてもその感情を全てなかったことにするつもりはないらしい。


「確かにチカは第4魔王を見事討ち倒し民の混乱を沈めた。だが、混乱を招いたのもまたチカ自身だ。その罪は一生償ってもらうつもりでいる」

「……重々承知しております」


 本音を言えば命がけで戦った千花の功績は一度の過ちでそこまで責められるようなことではないと邦彦は頭の片隅で思っている。

 だが、このことを国民が知れば千花へのバッシングは度を超すものがあるだろう。

 今は大人しく指示に従っている他ない。


「そもそもなぜチカは単独でフリージリアへ向かった。ウォシュレイの一件があり、我々の命令もあってあやつは一人で行動しないことを決めていたのではないか」

「それが、どうやら機関長ノーズの指示により、フリージリアへ行かなければ殺されると脅されたようで」


 そのことはリンゲツから聞いていた。

 千花がフリージリアへ向かったことに気づいたリンゲツが急いで邦彦に報告をしたから発見が遅れずに済んだのだ。


「機関長ノーズ……お前達光の巫女を見つける機関の長だということは聞いているがどのような人物なのだ」

「申し訳ありません。私も直接お目にかかったことがなく、どのような方なのか存じ上げておりません」

「お前すら会ったことがないだと」

「はい。田上さんを除けばノーズ機関長に会ったことがあるのは機関の中でも3人で」


 900年不老不死で生きているテオドールとライラック、そして魔王討伐の偵察と千花の見守り役であるリンゲツ以外にノーズに会ったことがある人物はいないはずだ。

 その言葉を聞いてシルヴィーは何やら考える素振りを見せる。


「女王陛下?」

「その者は本当に味方なのか」

「え?」

「配下に正体を明かさず、チカに無謀な行動を強要するその者は、本当にこの世界を救おうとしているのか」


 シルヴィーの言葉がなぜかやけに現実みを帯びていて、邦彦は背筋に嫌な汗が伝った。

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