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光の巫女  作者: 雪桃
第10章 フレイマー
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ようやく戻った日常

 世界樹での戦いが起きてから1週間が経った。

 千花の覚醒はその瞬間のみ有効だったらしく、興人が駆けつけてきた時には矢や魔法の攻撃のダメージを蓄積していたらしく、気を失って一時は命の危機にまで瀕していた。

 日本時間で2月も終わり、3月に入った1日目、千花は春奈に詰め寄られていた。


「ずっと心配してたんだよ千花! 2週間も体調不良で学校休むなんて、何があったの?」


 墨丘学園で唯一の友達である春奈には千花も心配をかけたと思っている。

 本当の事情を話せないまま病気で入院をしていたという嘘を吐いて千花は何とかその場をしのいだ。


「私、この後先生に呼ばれてるからまた後でね」

「え? 先生って誰のこと?」

「いや、えっと、あはは、じゃあまたね」


 昼休みになり一緒に昼食をとろうとしてくる春奈に心苦しく思いながらも千花は足早に教室を後にする。

 向かう先は1階にある進路相談室。

 防音になっていて人が3人ほどしか入らないこの空間であれば日本世界にいてもリースの話ができる。


「お待たせしました、安城先生」

「こんちには田上さん、人払いは済ませてあります」


 千花の目的の人物は邦彦だった。

 日々日本で教員をしながら魔王討伐の役割も果たしている多忙な邦彦が作ってくれた貴重な時間を無駄にしないように千花は急いでいたのだ。


「でも安城先生、昼休みじゃなくても良かったんですよ。私が聞きたいことは放課後、リースに行ってからでも」

「そうもいかないんです田上さん。あなたが知りたい内容は、トロイメアでは禁句となっているものですから」

「え? そうなんですか」

「ええ、魔神は、決してリースで口にしてはいけない最悪の悪魔です」


 そう、千花が聞きたかったのはゼラオラが口にしていた魔神イシュガルドのことだった。

 光の巫女を花嫁として迎えようとしていると聞けば千花も黙ってはいられない。

 花嫁になるどころか、悪魔の下に仕える気もないのだから、聞いておく他ないだろう。


「その、魔神って何なんですか?」


 基礎的なことを聞いておかなければ踏み込んだ話もできないと考えた千花は手短に邦彦に聞いた。

 邦彦は真剣な表情をして、参考資料になっているのであろう書籍を開いて説明してくれる。


「一説によると、魔神は姫女神と共にリースを創造した神です。姫女神が光を司っている神だとすれば、魔神は闇を司る神と呼んでいいでしょう」


 理解するまでに時間がかかる千花のために邦彦なりにわかりやすく纏めてくれているのだろう。

 千花は相槌を打ちながら次の質問に移る。


「私、ゼラオラに会った時に言われたんです。魔神は光の巫女を花嫁にするために魔王を送り込んでいるって。どうしてそんなことをするんですか」

「そこまでのことは僕にもわかりません。ただ、魔神は姫女神が生み出した光の巫女に執拗に執着をしていたことだけは確かです。そして、光の巫女を巡った戦争が、900年以上前に行われた『聖悪戦争』というものです」

「聖悪……?」

「あなたには初めて伝える言葉ですね。僕もライラックさんから又聞きした説明ですので曖昧になってしまいますがご了承ください」


 聖悪戦争。その名の通り、光の巫女の守護のもとにあったリースの種族と魔神イシュガルドが作り出した魔王率いる悪魔群の大規模な戦争のことを指すらしい。

 その戦争において命が散りゆく様を嘆いた光の巫女が魔王と戦争に参じた魔神、姫女神全てを封じ、トロイメアに自身をも閉じ込めて悲惨な事件は幕を閉じたと言う。


「じゃあ、魔王の封印を初めて行ったのは900年以上前の光の巫女が最後で、私がこの現代で倒しているってことですか?」


 光の巫女が何とか封印できたものをよく一般市民の千花が倒せているものだと考えたが、900年の間に魔王も弱体化していたことが理由に挙げられるだろうと邦彦は述べた。


「もし魔王を全員倒した暁には魔神と対峙することも考えられるでしょう。その時には、力で対処できるかはわからない。だからこそ今のうちに田上さんには真の光の巫女の魂をその体に降ろしてもらいたいのです」

「えっと、どうやって?」

「光の巫女の魂はトロイメアの王城内に眠っていると考えられています。トロイメア女王陛下には既にお伝え済みですので、今後はギルド内で訓練を行うと同時に城の内部にて降霊術を身につけましょう」


 確かに魔神に対抗できるのはあくまで光の巫女()()()である千花よりも本物の光の巫女しかいない。

 だが、簡単に言ってくれるが降霊術など今までやったこともない千花にどこまでできるか不安でしかない。

 そんな千花の感情を読み取ったのか、邦彦は1つ頷いて安心させるように微笑んだ。


「あなた1人に任せる気はありません。降霊術に詳しい者は既に手配をしていますので、その方と一緒に学びながら光の巫女を呼び寄せましょう」

「……はい。頑張ります」


 しかし千花はこの時知らなかった。

 降霊術が、どれだけ苦行を強いられるものなのか。

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