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光の巫女  作者: 雪桃
第9章 悪夢のような冬
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ゼラオラとの邂逅

 目を開けると圧巻されるほど白い雪原に出た。

 既に真夜中を越しているため真っ暗な夜空には星が舞い、何の足跡もついていない雪の床は深く盛られている。


(これが、フリージリア)


 千花は魔法杖を手に、警戒しながら辺りを見回す。

 そしてすぐに、ある階段を見つける。


「この階段、氷で出来てる」


 触ると溶けてしまうのではないかと不安になる階段だが、打って変わって強度は高く、少し乱暴に登っただけでは壊れない仕様になっている。


「もしかして、この先が」


 千花は意を決して階段を上る。

 下を見ると崖になっているため、足を竦ませないように気をつける。


(梨沙さんの記憶が正しければ、この先に)


 千花は水晶玉で見た塔を思い出す。

 吹雪の中でも目立っていた、人工的に作られた塔は、階段を上った先に見えた。


「やっぱり、あった」


 千花は進み続ける。

 本当は今にも逃げ出したいが、あれだけのモニターに国の監視が映っているのであれば、千花の行動もノーズに把握されているだろう。


(行かないと)


 殺されるという脅しは、千花に重くのしかかっている。

 千花は塔の扉を力強く押して中へ入る。

 中は更に螺旋状に階段が続いていて、見上げると床と同化している天井が見えた。


「あそこに行けばいいのね」


 千花は自分を鼓舞するように呟き、更に階段を上る。

 いつ壊れるのか、溶けるのかわからない氷を歩くのは怖いが、やはりこちらも溶けるどころか滑る様子もない。


「これが、氷で出来た塔」


 バスラにも塔はあったが、ここまで幻想的な建物は初めて見る。

 そして最後の階段に差し掛かった千花は、目の前に映った人影に息を呑む。


「ようやく現れたか、光の巫女よ」


 千花は反射的に魔法杖を取り出し魔法陣を展開させる。

 いつ攻撃されても防御ができるように、風属性の魔法で膜を張る。


「そう焦るな。光の巫女と名乗っているのならば余裕を持ったらどうだ。こちらは話をしようとしているのだ」

「本当に話だけで終わるとは微塵も思っていない」


 千花は一定の距離を取りながら、氷の椅子に腰かけるフードを被った魔王ゼラオラの問いかけに応える。

 ゼラオラは今までの魔王とは違い、千花が光の巫女だとわかっても攻撃1つ仕掛けてこない。

 むしろ本当に話をしたいがために招いたようなものだ。


「貴殿とは一度話をしたいものだった。杖を置いてこちらに来るが良い」

「杖を置く気もそっちに行く気もない。でも、話があるならそれは聞く」


 うるさいくらいに心臓が鳴っている。

 ここで倒せなければ千花はどうなってしまうのだろうか。

 その恐怖だけが今でも渦巻いているが、それよりもこのゼラオラが何を考えているのか千花には考えられない。


「良いだろう。ではそのまま尋ねよう。貴殿は、魔神の記憶を持って生まれた者か」

(魔神?)


 その言葉はどこかで聞いたことがある。

 確か、水晶玉で梨沙が一度だけ口に出したことがあった。


「その様子だと記憶にない、か。ではもう1つ。貴殿は姫女神(ひめがみ)のことを覚えているか」


 姫女神と言えば光の巫女の母のような存在であり、このリースを作った原点である。

 だがそれは文献で読んだ程度であり、ゼラオラの言う「覚えがある」には当てはまらないことがわかる。


「これも覚えていないのか。貴殿は、あくまで光の巫女の浄化を継承した者に過ぎないのだな」

「さっきから何を言っているのか何もわからない。これ以上無駄な時間を過ごすのであれば、この場で決着をつけさせてもらうわ」

「光の巫女である貴殿が必要なことだ。なぜなら貴殿は、魔神の花嫁となる神なのだからな」

「……花、嫁?」


 突然今までと関係ない言葉が出てきて千花は敵陣にいるにも関わらず目を丸くして動きを止めてしまう。

 その間にもゼラオラは話を続ける。


「我らが父である魔神イシュガルドは光の巫女を慕い、その身をもって姫女神と共にこの世界を創造した。だというのに光の巫女は魔神を拒否し、あまつさえ悪魔共々魔境デスパライアへ封印した。その怒りが、我ら魔王を生み出したのだ」


 急な神話の話に、千花は内容を半分も理解できなかった。

 理解できたのは1つ、敵は魔王だけでなくなったということだけだ。


(魔神を倒さない限り、魔王も悪魔も増え続けるだけじゃない)


 千花がまだ見ぬ魔神の憎しみを感じ取り戦慄していく中で、ゼラオラは静かに提案を持ちかけてきた。


「光の巫女よ。貴殿は強くなった。それは認めよう。そしてこれは取引だ。今からデスパライアへ赴き、魔神イシュガルドの花嫁となれ。そして、この世界を引き渡せ。さすれば……」

「そんなことできない!」


 何も理解ができない千花だが、悪魔にこの世界を渡すことだけは決してできないことだった。

 花嫁になる気もなく、勝手に取引を持ちかけられ、やはりここに来たのは間違いだったとわかった。


(きっと安城先生が気づいて増援を送ってくれるはず。それまでは)

「私はあなたを倒す! 光の巫女として、悪魔を葬る!」


 千花は杖から魔法陣を展開し、雷を生成する。雷は陣に沿って円を描き、バチバチと大きく音を立てる。


「……そうか。やはり闇にはくだらないか」

雷炎(トリノフレイム)!」


 雷を纏った炎の矢を千花は発射する。

 ゼラオラは避けることも防御を取ることもなく魔法の行方をただ見守る。


「……それでこそ、魔神が目指した光の姿だ」


 矢はゼラオラの寸でのところで何かにぶつかり弾ける。

 その何かは、光に満ちた檻だった。


「…………え?」

『感謝しよう、光の巫女。騙されてくれて、おかげでようやくこの檻から抜け出すことができた』

「まさかっ」


 千花が壊したのはゼラオラの体でも防御でもなかった。

 梨沙が、禁忌を侵してまで作った相手を永久に閉じ込める檻を、千花の手によって破壊してしまった。


『ああ、なんと自由な身であろうか』


 フードを被った男から出てきたのはカラスの形をした真っ黒な魂。魔王ゼラオラの魂だった。


「っ、イミル……きゃあっ!!」


 千花がその魂に向かって浄化を撃つ前に魂が咆哮を上げる。

 咆哮は千花を容易に吹き飛ばし、遠くまで押し出した。


『この体はもう要らぬ。我には既に強力な娘ができた。そちらへ移り住むとしよう』


 魂はそう言うと翼をはばたかせ塔を出ていく。

 千花が急いでフードの中身を確認すると、それはミイラ化した人間の姿だった。


「そんな……」


 千花が打ちひしがれそうになったその時、塔が音を立てて崩れ始めた。


「うそっ。魔王がいなくなったから!?」


 千花は杖を手に、急いで螺旋階段を駆け下りていく。 

 崩落は猛スピードで進行していき、階段も不規則に壊されていく。


(降りたら間に合わない。それならいっそ、飛んだ方がいい)

「お願い、言うことを聞いて!」


 千花はヒビが割れ、崩れかけている階段から力を込め、塔の外へと飛び出す。


「飛べーーーー!!」


 千花は魔法を体全体に集中させ、塔の外へと浮く。

 苦手だった空中魔法を修得できたが、その直後、外にあった階段を転げ落ち、そのまま意識を失った。

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