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光の巫女  作者: 雪桃
第9章 悪夢のような冬
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ゼーラの願い

 千花がゼーラと泉で出会うよりも前のこと。

 カイトがトロイメアの魔王討伐のために尽力すると決めた時からゼーラへの警戒心は国として高まっていたらしい。

 自分が捕らえられたことや魔法で攻撃してもすぐに回復したことも含め、もしゼーラに出会った時には今まで以上に戦いは困難を極めると考えたトロイメア女王・シルヴィーは、魔王として倒すことよりも捕らえて話を聞きだすことに作戦を変更していた。


「それで、私は今ここにいるわけですね」


 魔法封じの術が書かれている牢屋に入れられ、ゼーラは右腕を消失したまま優雅に石で出来たベッドに腰かけていた。

 その姿はまるで人間に閉じ込められ、拷問されるような風貌とは思えない。


「貴様が持っている情報は全て聞きだす。人間の国だからと言って拷問せぬとは限らない」


 シルヴィー自ら地下牢獄に赴きゼーラと会話をする。

 ゼーラはその浅はかな考えに小馬鹿にしたように笑いながら立ち上がりシルヴィーに近づく。

 シルヴィーについている護衛は女王を護るように前に立ちはだかる。


「女王陛下を殺すつもりはありませんわ。それに、拷問だって受ける気はありません。そもそも私、痛覚がないんですの。拷問したって無駄ですわ」

「痛覚がなくたってできる拷問はある。貴様の脳内を操ることだって簡単だ。大人しく持っている情報を引き出せ」

「ええ、もちろんですわ」


 シルヴィーは会話の節々に見えるゼーラの意外すぎる返答に拍子抜けをするばかりだ。

 舐められないようにと平静を保っているが、なぜここまで余裕そうに、しかも質問に答えるなど軽々と話しているのだろうか。


「まずは私の素性からですわね。私は第4魔王・ゼラオラが娘、ゼーラでございます。3年前、前の巫女様が檻でお父様を封じ込めてから、偵察のために作り出された悪魔でございますわ。私、まだ3歳ですから、何も知らないことばかりです。怒りやすく、すぐに口を滑らせてはお父様にお叱りを受けておりますのよ」


 呑気に自己紹介を始めるゼーラにシルヴィーは背筋から嫌な汗が流れ落ちる感覚を覚える。

 いくら顕現してまだ3年と言えど、ここまで自身の情報を簡単に話してくるとはよほど頭が悪いか、もしくは油断をさせてきているのか。


「貴様はなぜ光の巫女候補者に執着する。それも魔王の言いなりか」

「ええ。お父様は巫女様に伝えたいことがあるのですわ。もちろん殺すつもりではなく、ただお客様として招きたいという意思が見られます」

「客人として……?」


 今までそのような悪魔は誰1人としておらず、光の巫女と聞けば全員が殺しにかかってきていた。


「後は何をお話しすればよろしいでしょうか。私が知っているのはこれくらいですわ。後は、お願いごととしたらぜひフリージリアへ赴いてほしいくらいですわ。それも巫女様1人で」

「その願いを簡単に叶えるとでも?」

「だってお父様、巫女様1人を連れてこいと仰っているのですよ。部外者を連れてきたら、それこそ猛吹雪でお仲間様を凍死させてしまいますわ」

「貴様は忘れたのか。貴様の言う父は、国1つを乗っ取り、フリージリアの生物を壊滅させ、前代の巫女を殺した相手だ」

「拠点とする居場所がなかっただけですわ。それに、巫女様だってちゃんと手順を踏んでくだされば攻撃などしなかったものを、無断でお家に入られたらこちらだって嫌な顔くらい見せますわ」

「貴様らは巫女以外を殺すことに躊躇いがないのか」

「悪魔にそれを言いますか?」


 全ての質問に飄々と返してくるゼーラにシルヴィーの悪寒も更に増幅していく。

 それを悟られないように、シルヴィーは護衛を後ろに下がらせ、ゼーラと檻越しに近づいた。


「貴様の言葉を信じるか信じないかはこちらの検討次第だ。話を聞く前に倒すことも厭わん。その場合は、貴様もこの国の勢力を持って倒してやる」


 それだけ言い残すと、シルヴィーは護衛を引き連れて牢獄を後にした。

 1人残されたゼーラは、再びベッドに腰を預け、鼻歌を歌いながら目を真っ赤に光らせた。


「もう少しですわお父様。あなたの解放まで、そう遅くありません」






 謁見の間にはシルヴィーの他に、邦彦、千花、カイトが立っていた。

 ゼーラに敗れたシモンと興人は機関で治療を受けている。


「そういうわけだ、クニヒコ。お前の見解を聞きたい」

「信じてはならないでしょう。フリージリアの魔王は前代の巫女が全力をもってしても敗れた相手です。田上さんを1人で送り込むことはそれこそ我々を弄んでいる証拠にしかなりえません」


 千花は自身のことで難しい顔をしている邦彦とシルヴィーを交互に見やる。

 こういう時、どう口を出していいかわからず、ただ黙って聞くしかない。


「カイト王子、貴殿はあの女と少しばかり時を共にしたと聞いている。この提案、どう思う」

「我も同意見です。ゼーラは狡猾にこちらを操ってくる。父の名を借りて遊んでいるようにしか思えない」


 カイトもゼーラの意見には反対だった。

 悪魔との約束などカイトには二度とごめんという気持ちが含まれているのだろう。


「ふむ。チカ、お前はどうだ」

「え!?」


 まさか自分にも意見の矛先が向くと思っていなかった千花は素っ頓狂な声を出す。


「お前にも意見を聞くに決まっているだろう。当事者なのだから」


 呆れたようにツッコんでくるカイトに「そうですよね」と言わんばかりの乾いた笑いを零し、千花は考える。

 今までのゼーラは千花を誘いこそあれ、無理矢理フリージリアへ連れていこうとすることはなかった。

 あくまで客人としてもてなそうとする姿勢はあったように思える。


「私は、フリージリアに行くことも考えていました」

「なぜだ? 罠だとは思わないのか」

「シモンさん達の戦いを思い出しました。ゼーラは私みたいな浄化しか使えないような小娘、簡単に拉致しようと思えばできるんです。それなのに傷1つ自分では付けず、ただ遊びたいだけ遊んで、私の力量を試す行動が多かったように思えます。だから」

「これは罠ではないと」


 千花の代わりに邦彦が言葉を紡ぐ。

 その表情は千花を失いたくないと言ったような感情が含まれていた。


(安城先生?)

「チカの言い分はよくわかった。だが今はあちらの真意がわからない限り貴重な巫女候補者のお前を野に放つことはできない。しばし待て」

「わ、わかりました」


 シルヴィーが自分の言い分に怒らなくて良かったと千花は内心ほっとしながら、今度は勝手な真似をしないように気を付けようと誓った。

 そんな千花を、邦彦はじっと見ていた。

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