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光の巫女  作者: 雪桃
第9章 悪夢のような冬
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やることの多い巫女

 真相がわかった千花は水晶玉をテオドールに返した。

 その目は、テオドールを見ることができなかった。


「感想はどうだったぁ?」


 呑気に感想を求めてくるテオドールを、意味もなく千花は睨む。


「わかってたのに、禁忌に手を出させたんですね」

「あ、ボク責められてる? 一応止めたんだよぉこれでも。それに、教えはしたけど使おうとは言ってないからねぇ」


 またそんな屁理屈を、と反論したい千花だったが、テオドールはのらりくらりと全て返してくる。

 これ以上言い合う方が時間の無駄だと悟った千花は、次の行動を考える。


「これからどうするのぉ?」

「アイリーンさんにもう一度お話してみます。私の監視役にされているなら、呼ばれたら来るはずだから」


 恐らく機関にはもういないのだろう。

 あの言い方なら、機関自体を恨みながらも機関を頼るしかないことに更に憤りを感じているに違いない。


「それと、テオドールさん。私がこのことを知っているというのは、安城先生に言わないでもらっていいですか」

「隠し事ぉ? いいよー楽しそう」


 テオドールが楽観的な性格で今は千花も安心した。

 それ以外は何も信用できない男だが。


「ではテオドールさん、私はこれで失礼します」

「ばいばぁい。また遊ぼうねぇ」


 千花は訓練場を出た後、そのままある場所へ向かった。

 昨日の今日でアイリーンに会って「過去を見ました」とは言いづらい千花は、ある考えを持っていた。


(禁忌は浄化したって何も解決しない。でも、アイリーンさんを苦しめている心臓を止めた原因を究明することならできるはず)


 千花はあの膨大な量を保管する書庫へと足を踏み入れた。






 千花が愛川梨沙の過去を見てから早くも1週間が経った。

 その間アイリーンには一度も会わなかったが千花は気にしなかった。


「シモンさん、この2つの魔法、何だか相性が悪いんですけど」

「ああ、それはな、属性表を見ればわかるんだが」


 気まずく別れたシモンとも、千花がそれ以上踏み込まない姿勢を貫いていればシモンも今まで通り接してくれる。

 叩いたことを散々謝られれば千花も気にするなとしか言えない。


「それよりチカ、お前最近機関の書庫に入り浸っているみたいだが大丈夫か。俺の訓練だけじゃ足りないことがあるとか」


 シモンの指摘に千花はぎくりと体を固くする。


「そ、そんなことないですよ。シモンさんの訓練のおかげでここまで成長できていますし」

「そうか? 疲れが溜まってるみたいだから無理するなよ」

「もちろんです」


 正直に言えば最近の千花は学校がないことを良いことに訓練が終われば機関の書庫に入り浸っている。

 その目的を言えばシモンをまた苦しめてしまうことはわかっているため、はぐらかす以外方法はない。

 シモンが未だ訝しげに千花に言及しようとする中、千花にとって救世主が現れる。


「遅くなりました」

「おう、オキトか。こっちはもう準備ができてるぞ」


 いつも通りトロイメアの見回りをしてから訓練に来た興人のおかげでシモンの意識がそちらへ向いた。

 千花は人知れずほっと胸を撫でおろす。


(疲れてることは悟られちゃうから、せめて何をしているかは知られないようにしよう。アイリーンさんのために)


 千花はいつも通り魔法の訓練と興人との模擬訓練を行う。

 以前まではヘトヘトになるまで戦っていたものを、今では体力を温存できるようになって成長が見られる。


(安城先生も、私のこの姿を見てこの前の言葉をなかったことにしてくれればいいけど)


 アイリーンの件があっても忘れていなかった邦彦の言葉。

 シモンと話して自分の力を認めてもらうよう方向性を決めたが、中々邦彦と会う機会がない。

 早く会って話したいが、千花にはやることが多すぎる。


(アイリーンさんのこと、安城先生のこと、魔法のことに魔王のこと。私、魔王退治に来ただけだと思ってたけど、どうしてこんなに悩み事が増えていくんだろう)


 疲れも相まって千花は人知れず溜息を零す。

 それでも弱っていることを悟られないように、千花は頬を両手で叩き、やる気を見せながら訓練に臨んだ。






 そこから更に1カ月。

 日本では2月になり、冬の寒さが身を堪えるようになった。

 トロイメアに来ても四季はあるようで、どちらに来ても寒く千花は身震いしながらこの国で最も大きい自然公園へ赴いた。


(今日はシモンさんに嘘ついて訓練お休みしてもらった。ようやく、この日がやってきたもの)


 千花は誰もいない公園の中央に立ち、顔を上げ口を開く。


「アイリーンさん、出てきてください」


 千花には確信があった。

 監視役になっているアイリーンは、必ず呼びかけに応えると。

 そして、その予想は的中し、千花の背後にアイリーンは降り立った。


「久しぶりね、チカちゃん」


 アイリーンは1カ月前と変わらない、黒髪に動きやすい訓練服でやってきた。

 今思えば、その姿は梨沙であった時と変わらない。


「アイリーンさん、お話したいことがあります」

「私の過去、見たんでしょ? 愚かな選択をしたって、今でも後悔してるわ」


 自嘲気味に笑うアイリーンに千花は何も言えなくなる。

 千花も同じように自分の力を過信してウォシュレイとトロイメアを甚大な被害に巻き込んだことがある。


「アイリーンさん、私、あの後機関の書庫でたくさん魔法の勉強をしたんです。だから、簡潔に言います。あなたの心臓を動かすことができる方法を」


 千花の言葉にアイリーンは眉根を寄せる。

 その表情は疑いと言うより呆れの方が強かった。


「無理よ。私だって散々自分の心臓の氷を溶かす方法を探したわ。でもなかった」

「それがあったんです。私にしかできない、魔王の氷を溶かす方法が」

「期待させないで。心臓が止まって3年、炎で体を焼いて、心臓をナイフで刺して、死のうと試みた。それでも全部氷が邪魔をするの。これ以上私に希望を見出さないで」

「それができるんです!」

「禁忌を侵した私にこれ以上救いを求めさせないで!」


 アイリーンは悲痛に叫ぶ。

 この3年、アイリーンはきっと梨沙であることを捨てて、苦しい思いをしたのだろう。

 それを思うと千花も悲しくなるが、しかし彼女には確信があった。

 千花が強行突破に出ようとした瞬間、2人の間に鈴のような少女の声が響いた。


「お話中申し訳ございません。少しいいですか?」


 その声に千花は一気に血の気が引き、アイリーンの腕を引っ張って後ろへ飛んだ。

 その直後、先程まで立っていた部分に氷の矢が突き刺さる。


「流石です巫女様。瞬発力も申し分ないですね」

「ゼーラ!」


 そこに立っていたのは魔王の娘・ゼーラだった。

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