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光の巫女  作者: 雪桃
第9章 悪夢のような冬
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ゼーラとの遭遇

 それから3日が経ったある朝。

 千花は下駄箱に手紙が入っていることにすぐ気づいた。


(送り主は、安城先生?)


 スマホで呼べばいいものを、古典的な方法で連絡を取っている邦彦に疑問を抱きつつ、千花は中身の一文に目を通した。


『12月18日16時に泉で待っています』


 白い便箋にはたった一行そう書かれていた。

 18日と言えば今日だ。

 幸い──というよりも邦彦なら把握していそうだが──千花は終礼後特に用事がない。


(わざわざ呼び出すってことは大事な話かな。それとも風間先輩が伝えてくれたのかな)


 どちらにせよ千花の心の中では嬉しさが勝っていた。

 自分が人知れずにやけていることに気づいた千花ははっとなり誰か見ていないかと首を振る。


(べ、別に安城先生だから嬉しいってわけじゃなくて、そう。最近会えてない人と久々に話せることが楽しみっていうか)


 誰にも聞かれていないのに変な言い訳を並べる千花は、バッグに手紙をしまいつつ、教室へ向かう。

 邦彦へ話したいことは色々あるが、第一声は決まっていた。


(まずは謝ろう。勝手にウォシュレイに行ったこと。結局、私が記憶を失ってから1回もまともに話し合えてない。それから、魔法の訓練のことも話して、今後の魔王討伐のことも)


 邦彦は限りある時間の中で千花の件を優先させてくれたのだろう。

 千花は無駄な時間を作らないように、話の構想を練っていた。






 今日は運良く短時間授業の日であり、これまた嬉しいことに終礼も長引くことはなかった。

 いつも急いで仕度をする千花も、この日ばかりはゆっくり準備をして泉へ到着してもまだ15時45分だった。


(安城先生は、まだ来てないよね)


 きっと他の学年で捕まっているに違いない。

 邦彦であれば約束の時間までに絶対切り抜けてくるだろう。


(あと15分。なんでだろう。緊張してきた)


 久しぶりに会うから話し方を忘れているのだろうか。

 千花の心の中は落ち着かなくなった。


(どうしよう。ちょっと落ち着かない。少し散歩でもしてこようかな。でも寒いし)

「それなら(わたくし)とお話していますか」


 寒い中体を動かすことも億劫で、千花が悶々としていると頭上から鈴のような少女の声が耳に響いた。

 驚いて顔を上げると、そこには銀髪に赤い目をしたゴスロリとも取れる服を着た千花と同い年くらいの少女。


「ゼーラ!?」

「まあ! 名前を覚えていてくださったのですね」


 忘れないはずがない。

 バスラでのゴルベル戦、戦闘意欲を失くす千花の前に音もなく現れ、杖を直しながら手助けをしてくれた敵か味方かわからない、ゼーラと名乗る娘だった。


「ど、どこから来たの!?」

「あなたのいる所に私はいますよ」


 返答になっていない答えをもらい、千花は空いた口が塞がらなかった。

 千花がそのような状態だというのに、ゼーラは気にせず泉の前でくるくるとご機嫌に踊っている。

 よく見れば今は真冬だというのに彼女の服はノースリーブだ。

 長い手袋はしているが防寒具ではないだろう。


(この子、人間じゃないよね。ヴァンパイアに似てるけど、犬歯はないし)


 千花は呆然としながらもゼーラを観察する。

 今まで獣人、ヴァンパイア、人魚と見てきたからか、目の前の少女のことを人間でないと疑うようにもなった千花は、心なし警戒を抱く。


(私の知らない種族?)

「ところで巫女様。何をお話致しましょうか」

「え?」

「私、あれから色々勉強しましたのよ。巫女様くらいの人げ……いえ、女の子はファッションとやらが好きなのでしょう。後は、そう、可愛い物に目がないと聞きましたわ。私の服も可愛いでしょう?」


 ゼーラはあたかも勉強してきた自分が偉いと言うように自慢げに胸を張っているが、千花は別段興味がない。

 むしろ彼女が何者なのか聞きたいところだ。


「あなた、ヴァンパイアなの?」

「特にこの手袋なんて……え? いいえ、私は優良児ですわ」

「優良児?」


 千花が言葉と漢字を当てはめている間に、ゼーラは「あら?」と手を叩いて何かに気づいたようだった。


「巫女様は聞いたことありませんか? 悪魔の中にも階級があるのですよ。私はその中でも最も知能の優れた優良児ですわ」

「あなた、悪魔なの!?」


 ゼーラが丁寧に説明してくれたおかげで千花は目の前の少女が敵だとすぐに理解できた。

 それならば、杖を出して対峙するしかない。


「お待ちくださいな。私をすぐ攻撃に走る下等生物の同じにしないでくださいまし」

「悪魔は皆敵なの!」


 千花はここが地球であることも、泉の前であることも気にせず魔法をけしかける。

 だが魔法陣を出した直後、ゼーラに杖を抑えられた。


「あなたの気持ち、よくわかりますわ。巫女ですもの、私を殺めたいでしょう。でも今はお待ちください。必ず私の家へご招待いたしますから」


 千花よりも細く、白い腕だというのに魔法杖は身動きすら取れない程押さえつけられいる。


「家?」

「ええ、お父様もきっと喜びますわ。こんなに強くなった巫女様が、お相手をしてくれますもの」


 やはり戦わせることは明確らしい。

「父」と呼ばれる者はきっと魔王であることくらい千花にもわかる。


(その前に敵は倒しておく!)


 千花は手首を返しゼーラを引き寄せる。

 体勢を崩したゼーラは目を丸くしながら千花の方へ倒れていく。


(今!)

「メテオ!」


 ゼーラの心臓を貫くように尖った岩は刺される。

 だがゼーラがくすりと音を立てて笑うと、その全身が氷となった。


「っ!?」

『流石巫女様。判断がお早いこと。でも、まだですの。楽しむには場所も時間も正確ではない。また迎えに来ますので、その時はお相手を』


 吹雪のような突風が千花を襲う。

 氷が目に入らないように強く瞑っていた千花が次に目を開けた時には、氷の塊は綺麗さっぱり消えていた。

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