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光の巫女  作者: 雪桃
第8章 それぞれの思惑
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ウォシュレイへ来い

 翌日も千花は大忙しだった。

 結局トロイメアへ行っても千花が手伝えることはあまりなく──運搬系の魔法が使えない千花にとっては当然のことだが──長居しても今度はせっかく治ってきた体が悲鳴を上げるということで早々に帰らされた。


『アイリーンに会いたい? あー……そうだな。また会いに来ような』


 シモンならアイリーンの場所を知っているのではないかと聞いてみた千花だが、はぐらかされるように断られた。

 何か知っているのなら聞かせてほしかったが、シモンもこういう時は何も教えてくれない。


(皆、私の聞きたいことだけ教えてくれないんだよなぁ。別に、もう何を言われてもそんなに驚かないのに)


 流石に驚かないは言い過ぎだが、千花に言及してくる者はいない。

 なぜなら千花は今、1人で浜辺に立っているからである。


「まさかカイト王子から手紙が来るとは思わないよね」


 機関に戻った後、千花宛てに水晶玉の形をした手紙が送られてきたことをマーサが教えてくれた。

 どうやらシルヴィーから機関のイアンの元へ届き、それをマーサが受け取り、千花へ渡ったらしい。


(まどろっこしいやり方)


 少し悪態をつきながら千花は水晶玉の中身を確認した。

 曰く、ウォシュレイが女王でありカイトの実母・メイデンが意識を取り戻したとのことだ。 

 記憶を取り戻したメイデンはぜひ話せるうちに千花に会いたい、ということでウォシュレイへの出向が命じられた。


(でも言い方ってものがあると思うんだよね)


 カイトが水晶玉に残したメッセージは流石王子と呼ぶにふさわしかった。

 悪い意味で。


『巫女、お前はすぐに迷子になる。我が地上まで迎えに行くから、明日の日の出に浜辺に来い。遅れたら置いていく』


(一応私、ウォシュレイを救ったはずなんだけど)


 何も神のように崇め奉れとまではいかないまでも、少しくらい感謝の意を見せてくれても良いのではないかと千花は複雑な気持ちと夜明け前という眠気を味わいながら水晶玉に同封されていた人魚の鱗を1枚舌につける。

 ライラックが製造したという人魚化の薬は確かに便利だが、24時間陸に上がれない副作用がある。

 その点動きは鈍くなるがいつでも取り外せる人魚の鱗は便利だ。

 若干の口の違和感を抱きつつも千花はそのまま海へと入っていく。


(すごい。日の出前なのに明るい)


 レヴァイア討伐のために1人でウォシュレイへ赴いた時も感じたが、リースの海は珊瑚が溢れる綺麗な海だ。

 珊瑚自身が発光しているのか、まだ半分夜空だとは思えない程海中を見渡すことができる。


(赤、黄色、ピンク、たくさん珊瑚がある。海ってこんなに綺麗なんだ)


 千花がその美しい景色に見とれていると、不意に黄色い小さな魚が周りを泳ぎ始めた。

 まるでついてこいとでも言いたげな動きに大人しく従っていると海底へ連れていってくれるようだった。


(もしかして)


 この魚が案内してくれる場所に心当たりがある千花はそのまま疑うことなくついていく。

 すぐに激しい渦のような海流に当たり、魚は離れていくが千花は臆さず中へ入る。


(これがウォシュレイへの入口なんて、前の私、すごく運が良かったんだよね)


 ウォシュレイへ1人で行くと言った時、シモンとマーサが行き方を細かく教えてくれた。

 本来は大人でさえ迷うウォシュレイの入口まで1人でたどり着けたことは奇跡だと言っていた。

 今となっては千花も思う。


(それにしても、案内してくれるって言ってた張本人が水辺まで迎えに来ないって)


 水流に体を運ばれ、あっという間に地上の光すら届かない海底にまで着いた千花は、以前カイトと出会った岩場まで泳いでいく。

 初めて来た時はどこへ行けばいいのかすらわからず不安に駆られていたが、千花が求めていた美しい歌声はすぐに聞こえてきた。


「あー──」

「カイト王子、おはようございます」


 相変わらず崩れそうな石の塔にバランス良く座り、美声を響かせているものだと千花は感心する。

 そんな千花の存在に今気づいたらしく、カイトはなぜか鬱陶しそうに歌をやめて彼女へ視線をやった。


「なぜ歌をやめさせた。最後まで待っていろ」

「呼び出しておいて!?」


 あまりにも身勝手な言い分に堪らず千花は声を張り上げてしまう。

 だが仕方ないだろう。

 千花は眠気を抑えてわざわざウォシュレイまで出向いたというのだ。


「歌はとても綺麗ですけどせめて送ってからにしてください!」

「せっかちな女だ」


 言い方にカチンと来るが、ここでカイトに気を悪くさせると案内されないかもしれない。

 何度自分が巫女なのに、と言い聞かせたことかわからないが、千花はカイトが優雅に降りてくるのを待った。


「傷はもう治ったんですか?」

「人魚の回復力を知らないようだな。あの程度、かすり傷だ」

「いや、瘴気に体破れてましたよ……」


 強がりなのか事実なのかわからないが、カイトも痛みを訴えていないところを見ると千花の心配もいらないのだろう。


「だが、母上はまだ完治とまではいかない。騒ぎ立てるなよ」


 カイトはウォシュレイへ案内してくれながら千花へ念押しするように何度もメイデンとの接し方を教えてくる。


「あ、カイト王子!」

「カイト王子、おはようございます!」

「後ろにいるのは巫女様? お元気ですかぁ?」


 先日──半ば無理矢理──ウォシュレイに連れてこられ、もみくちゃにされた経験がある千花は一瞬ためらいながらもマイペースで活気を取り戻した人魚の民を相手にしようとする。

 その姿に痺れを切らしたカイトに引っ張られるまで、千花は人魚達に取り囲まれていた。

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