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光の巫女  作者: 雪桃
第8章 それぞれの思惑
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憩いの場

 城下町へ行く道中では怪しまれることはなかった。

 邪な考えを持っている者は串刺しにされる、と初めてリースに降り立った際邦彦に忠告されたことを思い出した千花が怪しまれないように努めて普通にしていたこともある。


(私、どこで手伝えばいいかな)


 極度の人見知りではなく、むしろ人懐こい千花でも日本人特有の遠慮の精神は根付いている。

 魔法で木材を運んだり瓦礫を撤去している民に声をかけたいが、一言目が出てこず無意識に足が動いてしまう。


(と、とりあえずギルドに行こう。シモンさんもいることだしきっと手伝うこともたくさんあるはず)


 いつもより騒がしく、人も不規則に動いている中この世界では小柄に入る千花がギルドまで抜け出るのは中々至難だったが、そこはいつもの訓練の賜物ですり抜けていった。


(あれ? ギルドも壊されてたよね?)


 トロイメアが水没した時、千花は一時ギルドに避難していたのだ。

 その際半魚人に遭遇し、散々穴を開けられながら攻撃されていたことを千花は朧げに覚えている。

 それが今はどうだろう。

 元々木製で建築されていたギルドだが、半壊されていたとは思えない程見違えたように新品の木材で建て直されていた。

 周りの家屋が未だ修理中な所を見てきた千花は、ドームのように大きいギルドの修復速度に入口で固まる。


「ど、どうして……」

「そこにいるのは、チカか?」


 あまりの光景に千花が口を閉じられないでいると、不意に横から名前を呼ばれた。

 シモンが千花に気づいてくれたのかと振り向くが、そこにいたのは冒険者の格好をしていた男女4人──クラウス率いる『疾風の狼』と名乗るパーティーの面々だった。


「お前、無事だったのか! シモンの野郎がいるのにお前の姿がなかったから心配したんだぞ」


 クラウスは豪快に笑うと千花に歩み寄り、そのこげ茶色の髪が乱れる程強く撫で回した。

 その手のひらの大きさと大らかさに安心しながらも千花は力の強さに体ごと揺さぶられる。


「く、クラウスさん達こそ全員無事で何よりです。ギルドもあっという間に元通りになってて、びっくりしてるんです」

「ああ、これね。私達みんなで頑張ったのよ」


 クラウスの後を追い千花の隣まで来たビアンカがギルドを見上げながら教えてくれる。

 相変わらずパーティーの花とも呼ぶべきその妖艶な姿に近づかれた千花はドキリとする。


「私達ね、昨日まで冒険に出てたの。誰だか知らないけど悪しき悪魔の王を倒してくれた戦士がいてね。そのおかげで依頼も増えて」


 ビアンカに魔王の話題を出された時には気づかれたのではないかと一瞬背中が冷えた。

 だがその様子に気づいた者は誰一人いなかった。


「だから私達、ウェンザーズの近くで冒険してたんだけど、急に帰還要請があったと思えばこの有様よ。もう大慌てで我が家へ行ったけど、もちろん大洪水よね」

「それは、そうですね……」


 幸い親族には会えたらしいが、それでも被害は甚大すぎた。

 魔王に対し関係がある千花は置き場のない申し訳なさを言葉に込めた。


「流石の皆も魔法で家一軒建て直すことはできなくて。とりあえずギルドに集まろうってことにしたの。そしたら他のギルドに入り浸ってる冒険者達も同じことを思ってたらしくてね。ギルドの周りにはそれは屈強な冒険者ばかり集まって。それで何を思ったか、全員でギルドを直し始めちゃったのよ」

「全員で!?」


 確かに100人は余裕で入りそうなギルドに冒険者が集まればたった1日で修復できていてもおかしくない。

 だが、他の住民は反発しなかったのだろうか。


「冒険者じゃない一般住民も、1つ憩いの場ができるならってことで優先してくれたんだよ。それに、ここを休憩所にできた分、休みながら民家を修復する手伝いもできるからむしろ効率がいいんだ」


 千花の心を読んだかのようにブルートが更に割って説明してくれる。

 落ち着いて辺りを見渡してみれば、修復されている家の周りには必ずガタイの良い冒険者のような出で立ちの男達が何人か固まっていた。


(なるほど。だからここら辺は復興してるんだ)

「まだまだここからが正念場だがよ。それで負けねえのが人間だろ。どうやらウォシュレイの魔王だってどっかしらの勇者さんが倒してくれたみたいだしよ」

「本当にね。ていうか、本来なら復興そっちのけで凱旋パレードをしてもいいくらいじゃない?」


 クラウスに続いて提案してきたカールに千花はギクリと体を強張らせる。

 まだ魔王を倒しきれていないのに、というか目立ってはいけないと何度も釘を刺されているのに凱旋パレードなどされたらそれこそ悪魔(あちら)に呪い殺されそうだ。


「そ、そうだ! 私、シモンさんを追いかけてきたんです。後アイリーンさんにも会いたくて」


 千花が苦し紛れに話題を変えると、クラウスは「それなら」とギルドの中を指した。


「シモンは中にいるぜ。お前を待ってたんだと。アイリーンは……そういやずっと会ってねえな。なあ、誰か見かけたか?」


 クラウスの問いにパーティーの面々はそれぞれ首を横に振る。


「おかしいわね。アイリーンちゃん、安全が確認できたら真っ先にギルドに来そうなのに」

「まさか津波に巻き込まれちゃったりして」

「余計なこと言うなよカール。あのアイリーンちゃんだぞ。命が大事な冒険者の野郎が先に逃がすだろうが」

「魔法が使えねえアイリーンのことだ。帰ってくるまでに不便な思いをしてるかもしれねえな。チカ、見つけたら助けてやってくれ」

「は、はいっ。皆さんありがとうございます。またどこかで」


 千花は怒涛のように話してくる面々に深々とお辞儀をして中へ駆け足で入っていく。

 アイリーンのことはとても気になるが、今はシモンと合流が優先だ。


(アイリーンさん、きっと無事だよね。だって、嫌な予感はしないもの)


 自分の勘を頼りに千花は無事を信じることにする。

 その純粋な姿を、ブロンドの髪を靡かせながら娘は黙って屋根から見下ろしていた。

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