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光の巫女  作者: 雪桃
第8章 それぞれの思惑
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聞きたかったこと

 シモンと共に2階へ赴き、ライラックの部屋を探す。

 迷うことなく進んでいくシモンに、やはりついてきてもらって正解だったと千花は思う。


(ライラックさんの部屋、どこだったっけ)


 久しぶりに自分からライラックを訪ねるとなれば、部屋も覚えていなくて当然だ。

 千花はテオドールに会わないかそわそわとしながらシモンについていく。


「シモンさん、よくわかりますね」

「2階の部屋っつったら大体ライラックにしか用がねえからな」


 言われてみれば確かにそうだ。

 後は地上に降りるためのイアンの部屋くらいだろうか。


「いいかチカ、ここがライラックの部屋だ。覚えとけよ」

「はい」


 ワープゾーンからそこまで歩かずライラックの部屋に着く。

 シモンが念押しするのは千花がどうしても会うのに緊張する彼に会わないようにするためだろう。


「ライラック、処方箋持ってきた。開けろ」


 そんな命令口調でライラックは怒らないだろうか、と千花はヒヤヒヤするが、返答はない。


「お仕事中でしょうか」

「いや……チカ、耳塞いどけ」


 シモンの言葉に何の意味があるのだろうか、と考える間に千花は耳を塞ぐのが遅れた。

 その瞬間、扉の向こうからチェーンソーの音と肉が潰される音が一気に襲ってきた。


「こんのバカテオドールーーー!! 何度仕事サボれば気が済むのよーーー!!」


 静かな廊下に響き渡るライラックの怒声に千花は肩を跳ね上がらせる。

 部屋の中にテオドールがいるという事実よりも、室内で行われている惨劇が予想できたため、血の気が引いてくる。


「こりゃあ引き返した方が良さそうだな。お前のためにも」

「で、でも薬がないと興人が」

「お前、肉片になった人間を見たいか?」


 千花の言葉を遮るようにシモンが忠告する。

 千花は断固として見たくないと訴えるように首がちぎれるのではないかという程横に振り、抵抗する。


「後10分くらいで終わるだろうし、今は放っとくぞ」

「……は、はい」


 いくら不老不死と言えど、兄妹喧嘩で肉を抉られる仲とはいかがなものかと千花は別の意味で目眩を覚えた。






 安静にしているだけでは長いが、シモンが時間をとってくれたため談笑しつつ2時間はあっという間に過ぎていた。

 点滴を取り、多少の疲労はあれど、千花はそもそもそこまで傷ついていないこともあり、すぐに回復した。


「元気とは言え、今日は絶対安静だ。今のうちにやりたいことでもまとめておけ」

「えっと、トロイメアの様子を見に行きたいのと、ウォシュレイのカイト王子達に会いたいのと……」

「誰が口に出せと言った。心の中でだよ」


 ようやく落ち着いて仕事ができると思っていたマーサはまさかの千花が報告してくるため黙るよう差し向けた。

 千花は今度は口に出さずにこれからやるべきことを指折り数える。


(今言った2つは回復次第絶対行かなきゃいけない。ギルドの人達も、女王様も、皆無事かな。後は訓練は引き続きやっていかないと。魔王は倒せたけど、記憶を失ってた分体が鈍ってたみたいだし。あ、記憶と言えばお母さんに戻ったこと報告しないと。なんであんなにすぐ受け入れられたのか、やっぱり戻ってきてもよくわからないや)


 千花の頭が1つずつ確認するように情報を引き出していく。

 たまに千花の感情も混じるが、混乱はしない。


(そうだ。ギルドと言えばアイリーンさん。アイリーンさんも魔法が使えないって言ってたし、無事だったかな……あれ? そういえば)


 千花はずっと前の記憶を辿る。

 記憶喪失になる前、レヴァイアへ単身無謀に決戦をしかけた時、意識がなくなる直前誰かに抱えられた覚えがある。


(あの長い金色の髪、アイリーンさんにそっくりだった。いや、ちらっと顔も見えたような気がする)


 気のせいかとも思う千花だが、それにしてはやけに似ていた感覚もある。

 今度面と向かった時に聞いてみようかと顔を上げた千花は、ちょうどシモンと目があった。


(そうだ。もう1つ、聞きたいことがあったんだ)


 シモンが水没するギルドの中で千花を闇の沼から救ってくれた。

 それは間違いない事実だが、千花は1つ納得がいっていなかった。


『こんな世界、滅ぶんだったら勝手にしろって思ってた』


 命を賭してまで千花を守ってくれたシモンのセリフだとは今も千花は思えない。

 恐らく、触れてはならないことなのではないか。

 そう思いながらも千花はシモンの顔を見て口を開いた。


「シモンさん、ちょっと聞きたいことがあるので、訓練場に行きませんか?」

「なんだ? 特訓は今日は無理だろ」

「特訓じゃないです。ただお話したいだけ」


 千花の真剣な眼差しにシモンも何か読み取ったのだろう。

 マーサには必ず無理をさせないことを約束し、2人でここから向かいにある訓練場へと向かう。


「で? ここに来たってことは話しづらいことか?」

「はい。私が、というかシモンさんがですが」

「俺が?」

「シモンさん、私がパニックになってる時言ってたじゃないですか。俺はこんな世界、どうなってもいいと思ってたって」


 千花の言葉でシモンは思い出すように小首を傾げ、「ああ」と理解したようだった。


「じゃあ、どうして私に味方してくれるんですか? どうでもいいなら、なんで世界を救う手助けをするんですか」


 千花が話しづらいだろうことを恐れながら聞いているとシモンもわかったのだろう。

 呆れたように笑って千花にその場に座るよう促し、自身も横に腰掛ける。


「お前な、言葉を読み取れ。どうでもいいと()()()()だよ。過去形だ」

「今は、世界を救いたいんですか?」

「まあ、今でも正直そんなにこの世界を愛してるわけじゃねえがな。ああそうだチカ、お前、疑問に思ったことはねえか」

「何を?」

「俺、口わりぃだろ? なのに初対面で挨拶がどうのこうの礼儀にはうるさかったじゃねえか」


 それは確かに言われてみれば思う。

 特に気にもとめなかったが、一応頷いておく千花にシモンは更に答える。


「あれな、生い立ちが原因なんだよ」

「生い立ち?」


 聞き返す千花はその含みのある言い方になぜか背筋から嫌な汗が垂れる。

 千花の困惑した表情を読み取って、シモンは苦笑しながら口を開いた。


「俺な、奴隷だったんだよ」

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