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光の巫女  作者: 雪桃
第7章 ウォシュレイ
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海の魔王・レヴァイア

 興人は屋根伝いに飛び越えながら悪寒を感じていた。

 一度だけウェンザーズで経験した、脅威が迫っているような寒気だ。


(近づいてるな。カイト王子はいるだろうか)


 上からでは海の中までは覗けない。

 カイトの無事を信じてここまで進んできたが、もし敵と遭遇していたら戦闘が始まっていてもおかしくない。


(鱗は舌にある。一度飛び込んでみるか)


 海へ入れば身動きが取りづらくなる。

 それでも安否は確認すべきだ。

 興人が意を決して屋根から飛ぼうとすると、真正面から甲高い女の笑い声が耳を貫いた。


「もっともっと壊していくのです! 愚かな人間に悪魔の脅威を示していきなさい」


 興人の目の前には屋根の上で青い(ひれ)をなびかせながら座っている1体の人魚がいた。

 薄い魔力の膜で保護しているのだろうしなやかな体躯に整った目鼻立ち。

 今の状況さえなければ誰もが見とれただろうその姿に、興人は全身で悪寒を感じた。


(あれが、魔王レヴァイア)


 メイデン──否、レヴァイアは後ろに立っている興人の存在すら気づかないくらいこの惨状に歓喜している。

 指示を出しているということは周りにも敵が泳いでいるのだろう。


(あいつは1人。防御を張っているが、全力を出せば結界を破ることはできる)


 カイトを探そうとした興人だが、魔王の不意をつけるチャンスは逃してはならない。

 カイトの安全を願いながら音を立てないよう大剣を鞘から引き抜き、興人は狙いを定める。


(レビン!)


 大剣が雷を纏ったと同時に興人は地を大きく蹴り上げ、一瞬でレヴァイアとの間合いを詰める。

 その白い首を狙い大剣を振り下ろした瞬間だった。


「ギギャア!」


 興人とレヴァイアの間に、海に潜っていただろう悪魔の顔をした半魚人が飛び込んできた。

 咄嗟に身を引いた興人だが、大剣は半魚人の体を真っ二つに斬り、悲鳴を上げさせる。


「あら? お客様かしら」


 レヴァイアもその声はしっかり聞いていた。

 楽しんでいた表情のまま体を動かし、興人と目を合わせる。


(動けっ。早く!)


 全力をもって振り下ろした剣の反動ですぐに体が動かない。

 それもよくわかっているようで、レヴァイアは興人の大剣を片手で優しく握り、引き寄せる。


「私、1人で見物したい気分ですの。身を引いてくださる?」


 このまま大剣で振り払えば容易く斬りかかれそうな細く白い腕。

 だというのに、金縛りにあったように体が動かない。


(悪魔の瘴気か)


 体内に入り込み、魔力を奪っていく瘴気が大剣から流れてくる。

 興人は大きな目眩を感じながらも、両手で握っていた大剣から右手を離し、拳に炎を纏わせる。


「イグニス!」


 レヴァイアの顔目がけて拳は一直線に下ろされる。


「やめて!」


 炎が一瞬レヴァイアの頬を掠める。

 火傷にもならない程だが、レヴァイアは声を張り上げて尾ひれを使い興人を弾き飛ばす。


「私の美しい顔になんてことをするの!?」


 焦りと激怒を含んでレヴァイアは興人を睨む。

 その豹変ぶりに興人は足をよろめかせながらも弱点を理解する。


(美貌を誇る人魚に取り憑いたのは、美しさが目的か)


 ただ掠めただけでここまで感情を昂らせるのなら、剣で切り傷をつけた時には余裕すらなくなるだろう。

 興人は冷静に大剣で炎を操る。


(あいつは炎を避けた。触れられないから魔法で掻き消すこともできない)


 レヴァイアは下の黒い海には入りたくないようだ。

 泥や汚れが溜まった海には近寄りたくないらしい。


(動けなくしてやればいい!)


 興人は再度レヴァイアへ突進する。

 炎を目にしたレヴァイアは逃げ道もなく、奥歯を噛みしめながら叫ぶ。

 

「子ども達よ、私を護りなさい!」


 レヴァイアが命じると同時に、興人の目の前に先程の半魚人と同じ姿をした個体が数匹飛び出してきた。

 その鉤爪で襲ってくるのなら興人も斬りかからなければならない。


「私には手駒がたくさんいるのよ! 炎さえ使えばなんて浅はかな考え、通用するわけないじゃない!」


 この半魚人達も、本来は人質に取られた人魚や人間だろう。

 倒さなければならない罪悪感と、命を簡単に捨てていくレヴァイアへの怒りを込めて興人は大剣を振るう。


(次から次へと這い出てくる。レヴァイアはすぐそこにいる)


 半魚人の群れさえなくなればすぐにでもレヴァイアを倒す準備ができている。


(攻撃されたとして、レヴァイアを倒してしまえば)


 興人が足を踏み出そうとしたと同時に、レヴァイアが動きを読んでいたかのように大剣を掴む興人の手を水の縄で止める。


「!?」


 振りほどこうにも伸縮自在な水は斬ることもできない。


「なんて滑稽な姿でしょう。そのまま我が子に食われてしまいなさい!」


 大剣がなくとも襲ってくる半魚人を足蹴に弾いている興人だが、それも限界がある。

 後ろから全体重を乗せられ、抵抗する暇もなく海に落とされる。


(身動きが取れない……っ)


 息はできても攻撃のしようがなければ餌食になるだけだ。

 レヴァイアの命令通り視界を覆い尽くす程の半魚人が興人を殺そうと全力で泳いでくる。


「アクアアロー」


 興人の目玉を半魚人の鉤爪が抉ろうとする。

 だがその攻撃は水で出来た矢によって届かなかった。

 攻撃を受けた半魚人はそのまま崩れ落ち、興人は矢が放たれた方向に顔を動かす。


「カイト、王子」


 汚れた海に似つかわしくない、美しい容姿の人魚が、魔法を繰り出していた。

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