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光の巫女  作者: 雪桃
第7章 ウォシュレイ
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命拾いしましたわね

 殴られながらも人魚の姿を確認したユキはすぐに片手が空を掴んでいたことに気づいた。


(殴られた時? 雷で壊したというのですか)


 腹を殴るだけなら雷を纏わせなくとも良かったのに、と疑問に思っていたユキはその真相が理解できた。


「意味がよぉくわかりましたわ」


 ユキは初めて怒りを露わにしたように憎しみを込めて興人を睨む。

 カイトはユキに攻撃するとそのまま黒い海に飛び込んでいた。

 再度捕らえ直すとなると隙を興人に突かれる。


「もう一度言う。お前を倒す気はない。それでも戦う気なら今度は本気で殺しに行く」


 興人の警告にユキは淑女にあるまじき鼻で笑う行為で返した。


「王子が解放されたから優勢になったとでも? 人間如きが偉そうな口を叩かないでいただけますか。お遊びでなければあなたなんて一刺しで……」


 癪に障ったユキは狙いを興人に変え、殺害しようと魔法陣を展開する。

 しかしその魔法が発動される前に何かに止められたように制止した。


「え? いえ、対象ではありませんが。でも一瞬で終わりますから」


 ユキは空に向かって話しかけている。

 気でも触れたかとも考えられるが、見えない何かと話しているようにも思える。


「……承知いたしました。しっかり監視致しますので怒らないでくださいまし、お父様」


 言葉の意味を興人が図りかねている間にユキが魔法陣を消す。

 表情はまだ殺意を込めているが、突然戦う気を失くしたらしい。


「殺したくてたまりませんが、このまま遊んでいるとお父様からお叱りを受けますの。命拾いしましたわね」


 本心なのだろう。

 先程までの余裕そうな雰囲気はどこへやら、興人を殺せないことに酷く憤慨しているようで、爪を肉に食い込ませ自傷行為をしている。


「それではごきげんよう」


 興人がその豹変ぶりに戸惑っていると、ユキは無理矢理作った愛想笑いを浮かべ会釈する。

 彼女の周りに吹雪が舞い、止んだ頃には粉雪1つ残っていなかった。


「……そんなに王子を取り返されたのが嫌だったのか」


 攻撃されても怒らず、敵と認識されても微笑んでいたユキがカイトを奪われただけで興人に殺意を向けていた。

 宝物を取られた子どものように。


(そんなに怒るなら、どこかに隠しておけば良かったものを)


 見た目の割に幼そうなユキに振り回されながらも、興人は現実へと戻る。

 海に入ったカイトは無事だろうかと落ちないよう覗き込むと、顔だけ出してこちらを見ていた。


「大丈夫、ですか」


 仮にも一国の王子だ。

 興人は失礼のない言葉を選びながら話しかける。


「お前は、飛び込まないのか」


 こちらが先に聞いているのだがと興人は複雑な気持ちになるが、まともに会話ができるのなら外傷はないだろう。


「海の中で息ができないので、地上から援護しているんです」

「チカやユキはできるのにか」


 興人の返答にカイトは聞こえないくらい小さく独り言を呟く。

 目線を落としていたカイトは再び興人と視線を合わせ、片手で何かを飛ばしてくる。

 目視するにはあまりにも小さいそれを何とか掴んだ興人はそれが青い1枚の鱗だと気づく。


「飲み込まずに口に含んでおけ。鱗が舌にある限りは海の中でも息ができる」


 カイトが自分の鱗を剥がして差し出したことはすぐに理解できた。

 人魚の鱗など初めて見た物を口に入れる抵抗はあるが、背に腹は代えられない。


(変な感触が残るな)


 飲み込まないように気をつけながら舌に貼りつけると息が若干しにくくなる。

 気にしたら負けだと言い聞かせ飛び込もうとした興人だが、その直前で遠くから爆発音が響いた。


「あれはっ」


 肉眼でもわかるくらいに水しぶきが上がり、大きな渦が家を破壊していく。

 紛れもなくあれが魔王だろう。


「そこにいるのか」


 カイトも海の中から攻撃の音が聞こえたのだろう。

 忌々しそうに顔を歪めると、催促するように興人を目だけで追う。


「俺は上からあの場所へ行きます。カイト王子は」

「我も行く。そのために来たと言っただろう。それに」


 光の巫女(チカ)もいるから、と最後にカイトが口にした言葉を興人は聞き逃さなかった。


「田上のこと、知ってるんですか。あの、あいつは」


 興人は気まずそうに口を開きかけるが、その前に再び轟音が鳴り響いた。

 魔王は本気でトロイメアを破壊しにかかっているらしい。


「戦えるならお前も続け。敵のことは気にするな」


 カイトは先を急ぐとばかりに頭を沈めると音もなく黒い海を泳いでいく。

 行き先がわかっているのならわざわざ姿を確認せずとも安心できる、が。


「田上はいないんです王子。浄化する者は、もういません」


 女王を倒したとして魔王は滅びない。

 事実を知らないカイトが打ちひしがれる未来を想像し、興人は奥歯を噛んだ。

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