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光の巫女  作者: 雪桃
第7章 ウォシュレイ
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目的はお前じゃない

「イグニート」


 興人は鞘から引き抜いた大剣に炎を纏わせ、少女に斬りかかる。

 少女はその場から動かず氷の盾で防いだ。


「急に攻撃してくるなんて、無礼な方ですわね」

「王子を返してもらう」

「あら、騎士様(ナイト)がいらしたようですわ。カイト王子、間近で見ていてくださいな」


 少女は片手に球体を持ったままスカートの裾を持ち、軽く会釈する。


「ユキと申します。どうぞ、命尽きるその瞬間まではお見知りおきを」


 少女・ユキは、捕食者の目で興人を見据えていた。

 片手が使えない状態であればこちらが優勢だろうとは興人は思わなかった。

 突然の興人の攻撃を完璧に防いだユキが弱いわけがない。


(真っ向から斬ってもさっきの盾で防がれるか)


 興人は大剣を構え、集中する。

 その切っ先に電流が走った瞬間、呪文を唱えた。


放電(ディスチャージ)


 剣から放たれた雷は枝分かれするようにユキを囲む。

 火花を撒き散らす雷に触れれば火傷するだろう。


「あら、とっても綺麗ですこと」


 檻のように雷に閉じ込められるユキだが、余裕そうに魔法に見とれている。


(動きを封じるだけでは動揺すらしないか)


 興人は自身も被弾しないよう注意しながらユキとの間合いを詰める。

 大剣を振り上げると同時に目の前の雷も纏わせ、威力を増した攻撃がユキに斬りかかる。


「まあすごい! あなた、とっても鍛えられてますのね」


 その速さに喜ぶユキだが、片手で確実に剣の動きを止めている。

 振り上げられると思っていた興人の体は寸でで止められ、反動で痺れを起こす。


「く……っ」

「では今度は私から。フロスト」


 その華奢な手で捕らえた大剣はたちまち白い霜で覆われる。

 急速に姿を変えていく大剣はすぐに柄まで凍りつき、興人の手すら凍らせようとした。


蒸発(ヴァダンプ)!」


 凍結が起きる寸前で興人は慌てて大剣の内側から炎を燃やす。

 霜は水蒸気と化し、辺りを霧で埋め尽くした。


「ヘイル」


 何も見えなくなることすら予測していたように、ユキは口角を上げて呪文を唱える。

 霧はたちまち細かい氷の礫となり、興人へ飛んでいく。


「イグニート!」


 咄嗟に炎で礫を溶かしていくが、霧が全て襲いかかるのだ。

 防御しきれず、鋭い氷が体に突き刺さる。


「戦いというより一方的ないじめになってしまいますわ。降参してもよろしくてよ。深追いはしませんので」


 ユキが本心なのか挑発なのか定かではない言葉を興人に振りかける。

 細かい切り傷が出来た興人は余裕そうな態度を見せられながら眉根を寄せる。


(全力は一切出してない。実力が合ってないことはよくわかる)


 得体の知れないユキに付き合うよりも今は魔王退治が先決だ。

 だが、ここで足止めを食らうわけにはいかなくとも、ユキが捕らえているカイトをそのままにすることもできない。


(頭を使え。王子を救う方法を考えろ)


 正攻法で太刀打ちできないなら、と興人は再びユキへと走る。

 大剣の刃を下に向けている様子からユキはすぐに何をされるかわかったようで溜息をつく。


「私、学習しない方は嫌いですのよ」


 今度は猶予も与えず剣を壊してやろうとユキは片手で魔法陣を起動する。

 しかし興人は避けることなく突進していく。


(頭がおかしくなったかしら)


 ユキが容赦なく大剣を凍らせようとした瞬間、興人が予想していたように大剣を振り上げ、柄から手を離した。


「あら?」


 独りでに飛んでくる大剣が頬を掠めようとするためユキは静かに避ける。

 力が余りすぎて離れてしまったのかと考えるが、呑気なユキが次に目にしたのは拳を構える興人の姿だった。


「レビン!」


 拳は雷を纏い、ユキの鳩尾に直撃する。


「がはっ」


 小さく悲鳴を漏らすユキはそのまま屋根の向こうまで飛ばされた。

 間一髪屋根の瓦を掴まなければ黒い海へ落ちていた。


「戻れ」


 興人が手を向け呪文を唱えると、転がっていた大剣が戻ってくる。

 その隙にユキは腹を支えながら立ち上がる。


「流石ですわ。侮っていたこと、謝罪しなければなりません」


 失神する程度には威力を強めたつもりだったが、笑っているユキを見るとこれでも軽傷でしかないことがわかる。

 それでも興人は狼狽えなかった。


「さあさあ、今度は私の番ですわ。お覚悟なさいませ」


 嬉々として魔法を繰り出そうとするユキだが、興人は首を横に振って断る。


「……なぜですの。飽きてしまわれました?」

「もう戦う必要はなくなった。俺の目的は、お前を倒すことじゃないから」


 せっかくやる気になったのに、とユキが不貞腐れるが、興人は大剣を片手に止まる。


「せめて後数回魔法を出してくださいまし。殺さないように気をつけますから」


 急に戦闘狂になったユキに心の中で引きながら、興人は一度目を伏せ、刃先をユキの──後ろへ向けた。


「?」

「そんなに味わいたければくれてやれ」


 興人が向けている先を、首を傾げながらユキは振り向く。


「ハイドロボム」


 ユキは水で出来た球体に強く殴られた。

 魔法の主は、氷から抜け出したカイトだった。

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