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光の巫女  作者: 雪桃
第7章 ウォシュレイ
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足をすくわれますよ

 ウォシュレイへの行き方はよくわかっている。

 潮に身を任せていれば着くようにできているのだ。


(彼女は知らないでしょうが、ね)


 ユキは激しくなる海流にも動じることなく、薬も飲んでいないのにしっかりと呼吸をしている。


(この海流さえ落ち着けば後は小魚の進む方へ真っ直ぐ泳ぐだけ)


 潮が鎮まり、ユキは優雅に足を動かす。

 ものの数分でウォシュレイまで着くと、真っ先に神殿へ向かう。


(さて、周りには護衛がいるでしょうが、気にしない気にしない)


 神殿の入口は1つしかない。

 内部は侵入者が来ても対処ができるように迷路のような構造になっているが、ユキは構わず真っ直ぐ進む。


(あら?)


 ユキは違和感を覚える。

 魔王の根城に近づくまでに一切半魚人を見かけない。

 それどころか魔王特有の気配すら感じない。


(もしかして)


 ユキはそのまま階段を突っ切り、急いで女王のいる間に辿り着く。

 玉座まで足を運ぶが、そこには誰もいなかった。


「あらあら? どこに行ったのかしら」

「そこで何をしているんだぁ?」


 ユキが呑気に辺りを探索していると、背後からねっとりとした低い声が響く。

 目の前にはウォシュレイで見る初めての半魚人がいた。


「あら、いい所に。女王陛下はどちらへ?」


 突然現れた半魚人に臆することなく、ユキは好都合とばかりに手を叩いて喜ぶ。


「くひひっ。お前さては人間だなぁ? ざぁんねん、レヴァイア様は既に人間を殲滅しに行っているさぁ。遅かったなぁ!」

「レヴァイア……ああ、メイデン女王に取り憑いた魔王ですね」


 半魚人は当てを外したユキを嘲笑う。

 半魚人の返答に驚くでもなく、ユキはふむ、とその言葉の意味を考える。

 しかしすぐに糸で引っ張られたように、口の端を上げて笑った。


「そう。そういうことですの」


 ショックを受けると思っていた半魚人は楽しそうに笑うユキを見て首を傾げる。


「ふふふ。ああいえ、ありがとうございます半魚人の方。楽しくてつい笑みが溢れてしまいます」

「はぁ? まあいいさぁ。人間はいたぶって殺すのが楽しいんだぁ」


 半魚人は手に持っていた槍を構え、ユキに襲いかかる。


「そうですね。ご親切にお答えしていただいたもの。こちらも礼儀で返さなければ」

 

 矛先が自身に向いているというのにユキは呑気に独り言を呟く。

 配下と言えど海を治める半魚人のスピードは人間の比にならず、槍の先端がユキの肩を貫く。


「まず一突きぃ! 今度は足を刺すぞぉ!」


 ユキの肩からは血が迸る。

 半魚人は槍を引き抜いてケタケタと楽しそうに笑うが、すぐに違和感に気づく。


「ふふ、楽しそうですね」


 肩を抉られたユキは痛みに悶絶することなく、むしろ半魚人のはしゃぎように笑っている。


「でもいたぶるのもほどほどになさいませ。足をすくわれてしまいます」


 ユキは肩から血を垂れ流しながら、片方の手で半魚人の後ろを指す。

 その先を見ようとした半魚人は、突然背中から何かが刺さった感触に襲われる。


「がぼっ」


 状況を理解するよりも早く、半魚人は口から赤い鮮血を大量に吐き出す。


「あら、人魚も血は赤いんですのね」


 背中を刺している物は目線を下げると心臓を抉り出していた。

 その正体は、赤く塗られた氷柱だった。


「どご、がら……」

「ね? 敵はいたぶるよりも1発で殺した方が早いんですのよ」


 ユキは崩れ落ちる半魚人に刺さる氷柱を両手で掴み、前から勢いよく引き抜く。

 (くさび)さえなくなった半魚人の中心部分は虚しく穴が空いている。


「おまえ、なにもの……」

「憎き悪魔から人間を護る、正義の味方です。今は」


 ユキはニコニコ笑いながら氷柱を宙に浮かせ、矛先を再び半魚人に向けさせると、口から頭を貫いて絶命させた。


「さて、魔王はトロイメアに行ってしまわれたのですね。困りました。ローランド様になんと言い訳をしましょう」


 ユキはそれほど困ってはいない声音だが、誰に聞かせているのか悩む素振りを見せている。


「うーん……あ、そういえばウォシュレイの人魚はまだ生きているのですよね。彼女達を救えば巫女の役目を果たせます。それにトロイメアに送り込めば力になりますね」


 名案を思いついたとばかりにユキは手のひらを合わせる。

 その際に左手に血が流れていることに気づく。

 半魚人の血液は右手にこびりついているが、肩を刺された時の血が流れてきたのだ。


「危ない危ない。こんなべったり血がついていたら疑われてしまいます」


 ユキは海水を利用して血を落とす。

 全ては落ちきれないが後は泳いでいる間に落ちるだろうという算段だ。


「さてと、優しい正義の味方は可哀想な人魚達を救いに行きましょう」


 半魚人の残骸には目もくれず、ユキは遊びに行くような感覚で人魚が捕らえられている牢屋へ向かう。

 その左肩は、傷1つついていなかった。

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