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光の巫女  作者: 雪桃
第7章 ウォシュレイ
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神殿の中へ

 神殿までは人魚どころか敵さえ現れず、すんなりと泳ぎきることができた。


(猛獣の見張りも吸血コウモリもいない。騎士団が来た時に侵入されることはわかったはずなのに)


 メイデン女王の中に巣食っている魔王は見張りなどいらないと思っているのだろうか。

 確かに騎士団はあれだけの数がいて囚われているが。


(正面から行ってもきっと私は捕まるだけ。まずは周りを探ってみよう)


 千花は横に広い神殿をできるだけ音を立てずに泳いでいく。

 海の中だというのに石で出来た神殿はほとんど朽ちることを知らず、頑丈にそびえ立っている。


(窓、穴、裏口……1周まわってみたけど正門以外道はない)


 恐らく海底であると音もなく侵入されることもあるからわざと1つのみの通路なのだろう。

 理由は納得だが魔王に乗っ取られている今、意味を成していない。


(岩を壊して……いや、流石にバレるだろうし壊した所が運悪く敵の本拠地だったら命取り)


 大人しく正門から入るしかないだろう。

 神殿に入った瞬間敵を遭遇することは確実だ。

 千花は魔法杖を手に、呪文を1つ唱える。


風の防壁(ウィンドウォール))


 マーサから借りた本にあった攻撃を一度だけ跳ね返すことができる魔法。

 風属性だったため使えるか不安だったが、簡単な魔法だったのですぐに発動した。


(よし、行こう)


 千花は暗い神殿を泳いでいく。

 中はランタンこそあるもののその光も弱く、目が慣れるまでに時間がかかった。


(左右と前に長く続く道。時間はかかるけど、慎重に1つずつ探索していった方が良さそう)


 細部までは見れない薄暗さに建物内の構造もわからない今、千花が1人で道を覚えなければならない。


(左から行こう)


 千花は勘に従って入口から見た左側へと進んでいく。

 神殿の大きさから見て横には広いが奥行きはないだろう。

 千花の思惑通り、左に進むとものの数分で行き止まりに着いた。


(ここまで? 暗いから部屋を見落としてるかも)


 千花が今度は壁に手をつきながらゆっくり扉がないか確認すると、錆びた取っ手に触れた。

 水圧で開けにくくなっているが、両手と足を使って力いっぱい引くと何とか中を見ることができた。


(槍と、これは(もり)? ということはここは武器庫ってことね)


 地上ではよく見かける銃や弓はない。

 海の中では使えないのだろう。

 防御用の頑丈そうな盾もある。


(1つ借りて……重っ! だめだ、盾を持ってたら逆に不利になる)


 他にも防具があるが、これは付けるというよりも恐らく地上から降ってきた物を人魚が珍しさに保管しているだけだろう。

 すね当ても銅周りの鎧も人魚にはいらない。


(生身はすごく危険だけど、慣れない物を身につけてた方がいざという時に鈍くなるよね)


 掘り出し物があるかもしれないと淡い期待を抱いた千花だが、武器庫は諦めて出ていくことにする。

 次に見つけた扉を開けると金色に光る指輪や冠が無造作に床に散らばっていた。


(人魚がやった、というより戦いの末に崩されてしまった可能性が高い)


 すくい上げてみると素人に千花でもわかるような高価な装飾も見られる。


(あ、鷲の絵)


 トロイメアの国鳥とされている光の巫女の相棒だった鷲。

 友好の証なのだろう絵が描かれた分厚いブレスレットもある。


(無惨な置き方……思い出も何もかも魔王にはゴミでしかないんだな)


 背景を考えただけで胸がざわざわと締めつけられるが、いちいち気にしていては時が過ぎていくだけだ。

 心を落ち着かせて千花は次の道へ行く。


(これ以上こっち側には何もない。となると、今度は別の道を探すしか)


 神殿の入口まで千花は戻る。

 真ん中か右か、順当に行けば反対の右側に行くのがいいだろうが、千花は何か嫌な予感がしている。


(どっちにせよ行かなきゃいけないのなら、胸騒ぎも気にしていられない)


 千花は右の道に進む。

 こちらはすぐに不気味な理由がわかった。

 ただでさえ足りなかったランタンの灯りが更に数を減らしていき、建物内部も階段があるわけでもないのに徐々に体が下がっているように深海に進んでいる。


(何も見えない。こんな所で目の前から槍なんて突かれたら防御なんてできない)


 防御を張っているとは言え最悪の事態を想像して千花はさっと顔から血の気を引かせる。

 ほとんどランタンはなくなり、目の前すらよく見えなくなった頃、ようやく地面と呼ばれる所に足がついた。


(ここは)


 こんなことなら宝物庫から灯りになりそうな物を探ってくれば良かった──宝石に光の役割があるかどうかわからないが──と後悔した千花は、暗闇に目を慣らしながら手探りで中を見回していく。


(ザラザラした細長い棒が等間隔に何本もある。匂いは海だからわからないけど、多分錆かな?)


 左は空間が広がっているのか何も掴む物がない。

 先程の道とは違い、こちらは部屋と呼ばれる類のものはないらしい。

 千花が更に奥に進もうとした瞬間、突然手首を強く掴まれ引っ張られた。

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