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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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私、生きてるかな?

 千花は全ての力が抜けきったように、膝から崩れ落ちた。


(大口叩いて、何にも考えてない。薬だけもらったって強くなるわけないのに)


 静かな訓練場に項垂れた少女が1人。

 ずっとうずくまっていれば、いつか来る興人が心配して事情を聞いてくれるかもしれない。


(ああ、それじゃお人形なんだ。マーサさん……せめてマーサさんに相談して)


 千花は魔法杖を手に、よろめきながら訓練場を出ていく。

 マーサは、話は聞いてくれるが行動を決定することはない。

 せめて気持ちの吐き口になってもらえれば。

 千花が廊下を歩いていると、医務室より前に白い扉を目に入れる。


「シモンさん」


 心が苦しくなるため見舞いにほとんど行かなかったシモンが休んでいる部屋。

 無意識に扉を開け、彼の元へ歩く。


「傷、少し治ってる」


 記憶に新しいシモンは包帯だらけだったが、今では顔もほとんど見えており、手を握っても痛々しさを感じない。

 回復していることに少なからず安堵する。


「元気になってくださいシモンさん。まだお別れしたくないです」


 シモンの目が覚める頃はいつになるか。

 それまでにウォシュレイを救えているか──いや、シモンが目を覚ますより先に自分が死ぬ方が。


「……シモンさん、起きて。いつもみたいに軽口叩いて」


 シモンの手を握りしめてはならない。

 その一心で千花は下唇を強く噛む。

 切れてしまい滲んだ血を舐めとることもなく千花は掠れた声でシモンを呼ぶ。


「……行ってきます、シモンさん」


 千花はシモンから手を離すと、魔法杖を手に2階へと上がった。

 向かう先はもちろんイアンの部屋だ。


(きっとすっごく怒られるんだろうな。これまでないくらい、大きな雷が落ちてくる。興人も、一緒になって怒ってくるに違いない。でも……)

「イアンさん、ウォシュレイに行きたいです」


 千花はイアンの扉をノックし、行き先を伝える。

 部屋の中が青く光り、収束したと同時にドアノブを回して中へ入る。


(怒られる時、私生きてるかな?)


 千花は泣きそうになる気持ちを抑えて笑いながら新しい世界へ1人、吸い込まれていった。






 邦彦は王城の廊下を1人歩く。

 早急に水晶玉のことを説明し、シルヴィーに問い詰めたが、どうやら複製を作られていたらしい。


(たとえ女王がどれだけ制御していたとして、宰相の動きを封じることは不可能ということか)


 シルヴィーには千花があの映像を見てしまったことを伝えた。

 近いうちにウォシュレイに行くことも提案すると、申し訳なさそうに顔をしかめていた。


「おやおやごきげんよう邦彦様」


 もっとも会いたくない者ほど遭遇するものだ。

 いつにも増して上機嫌なローランドを無視して進もうとする邦彦だが、後ろにいた護衛2人に阻まれる。


「無視だなんて随分偉くなったものですなあ」

「……申し訳ありませんが、今日は世間話に花を咲かせるほど余裕がなく」


 邦彦が苛つく気持ちを何とか抑えながら淡々と離れようとするが、その抵抗が面白いらしく、ローランドは口を歪ませ、鼻息荒く顔を近づける。


「何があったんでしょうなあ? いやぁ大変大変。次はどちらへ行かれる予定で?」


 白々しいその態度に怒りが爆発しそうになる。

 暴発するだけ無駄だと自分に何度も言い聞かせ、醜い笑顔を見ないように邦彦は目を合わせないよう答える。


「機密事項ですので私の口からは伝えられません。他を当たってください」


 邦彦がボロを出さないため気を悪くしたのか、ローランドは顎の肉を手で弄りながら「ふん」と鼻息を吐く。


「そうそう、ウォシュレイに王国の騎士を配置してさしあげましたぞ。お役に立てたらと思います」


 ローランドの皮肉めいた言葉に邦彦は完全に我慢の限界だった。


「誰のせいで……」


 ローランドの襟に手を伸ばしかけた瞬間、背後の方で花瓶が割れるような鋭い音が響いた。

 見ればメイドがワゴンを柱にぶつけたようだ。


「貴様! 王城で粗相とは身の程を知らんか!」

「も、申し訳ありません」


 見たところまだ若い娘だ。

 新たな鬱憤の吐き口を見つけたローランドは怒りながらも嬉々としてそちらへ行く。


(彼女には悪いが、ここは標的をずらしてもらおう)


 あのローランドに玩具にされてはメイドの心が保つはずがない。

 だが、邦彦も庇えるほど時間はない。


(上手く行っていたのに。何も知らないまま、田上さんは魔王を倒すことだけに専念すれば良かったのに。国民の命など気にせずに)


 千花の役目は悪魔を根絶することだ。

 それ以上役割を与える意味はない。

 国の騎士が遠征に行こうが倒れようが勝手にしてほしいと何度も願った。

 だが千花は見てしまった。


(余計な真似を。田上さんがいなければ今頃世界は滅びていると何故気づかない。愚かな腰抜け共が)


 心の中で思うことは自由だ。

 邦彦はポーカーフェイスを貫きながらも心の中で悪態を吐き続ける。


(田上さんが今殺されれば、僕の計画は全て白紙に戻る。光の巫女を再び皆の元へ降ろさなければならない)


 邦彦はトロイメアの外れまで行かず、人気のない路地裏まで向かう。

 1つ、殺風景な無人の家まで着くとそのまま機関まで帰った。

少し中途半端ですが、次回から新章スタートです。

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