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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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見てはならなかったメッセージ

今年もありがとうございました。

「ホログラムってこういうこと!?」


 千花が段々歪んでいく水晶玉に焦るが、興人は真剣に様子を眺めている。


「水晶玉は遠くの国から手紙で伝えられないことを映像に残すためにある。城にあった物なら機密事項でもおかしくない」


 興人の冷静な考察に千花の心臓が跳ねるが、光の巫女だからと無理矢理正当化することにした。

 水晶玉が形を変えて数秒経つと、1人の女性が浮かび上がった。

 上は胸のみ水着で隠しただけのほとんど裸の状態だ。

 そして下半身は、魚のヒレになっている。


「メイデン女王!?」


 見慣れぬ姿に千花がポカンと口を開けていると珍しく興人が声を張り上げた。

 驚いて千花はそちらに目をやる。


「メイデン、女王?」


 トロイメアを統治しているのはシルヴィーだ。

 今ホログラムに映し出されている彼女も女王ということは。


「ウォシュレイの、人魚の国を統治する女王だ」


 七大国(セーミランターラ)が1つにして、魔王に支配された国。

 まさかこの場でその事実に直面するとは思わなかったが、魔王に乗っ取られたはずのメイデンがなぜ今になってメッセージを送れるのだろうか。


『お久しぶり……いや、はじめましてトロイメア女王陛下──』


 呆然としている間にもホログラムは映像を流し続けていく。

 その優しい微笑みに魔王に乗っ取られていることすら忘れる。


『あなた方からいただいたか弱き人間、我らの同士が悦んでおりますのよ』


 よく見たらメイデンの背後には兵士の格好をした人間体が立ったまま意識を失っていた。

 捕虜のような出で立ちに千花は寒気を覚える。


『可愛らしい人間たちですが、このまま海の中に入れておけば息も続かず魚の餌になってしまいます』


 その通りだ。

 だから早く眠っている彼らを解放してくれ。

 映像だというのに千花は早鐘を打つ心臓を押さえられず祈る。


『せっかくの貢ぎ物を殺してしまうのは可哀想ですので、私の子どもにしてさしあげます』


 メイデンは1人の若い兵士を連れてくる。

 シルヴィーに命乞いをする兵士に慈悲を与えるがごとく微笑みながらメイデンはその肩を掴み、呪文を唱える。


「やめ……っ」


 千花が映像に手を伸ばした瞬間、兵士の体が変形していき、半魚人のように歪んだ。


『やめてほしいかしら? では光の巫女を寄越しなさい』


 その変貌ぶりに千花が顔を引きつらせていると、突然メイデンから名前を呼ばれた。

 その顔は優しさを称えていない。


『仲間を連れてきてはなりませんよ。1人で来なさい。もし約束を違えば、次はトロイメアの人間も全て私の子にします』


 メイデンは消えていく。

 歪んでいた水晶玉は変哲もない球体へと戻った。


「魔王からの宣戦布告ってことか」


 隣で同じく何も発さずに聞いていた興人が忌々しそうに水晶玉を睨んだ。

 千花はその映像にショックを受け、反応することができない。


「先生も見てる可能性がある。正直に中身を見たことを話して対策を考えるぞ」

「……対策なんてないでしょ」


 興人が情報整理のために訓練を中断して出ていく準備を始める。

 しかし千花は目を合わせず俯いたまま低い声で呟く。


「私が行かなきゃ、全員死ぬんでしょ」

「お前が行っても全員殺される。光の巫女も殺して世界を滅ぼそうとしてるだけだ」


 興人の冷たい声に千花はぐっと奥歯を噛んで顔を上げる。


「話聞いてたでしょ? 私1人で行かないとトロイメアの人達が全員ああなるんだよ」

「田上1人で魔王が倒せるとでも?」


 その言葉に千花は心臓を酷く抉られる気分になる。

 怒りをどう爆発させたらいいかわからず、千花は興人の胸ぐらを掴むように詰め寄る。


「私が役立たずなことくらいよくわかってるよ! でも魔王は私がどうにかしないといけないの!」

「国を救うことと死にに行くのは違う」

「じゃあこのままあの人達を見殺しにしろって言うの!?」


 段々感情の制御ができなくなる千花を冷静に見下ろし、興人は大剣から手を離す。


「私が行かなきゃ皆死ぬの! 私が悪魔を殺さなきゃ人間が死ぬの! だから行かせて。あいつらを根絶やしに……っ!?」


 千花の言葉が乱暴になる。

 一線を越える前に興人は手刀で千花の後ろ首を叩く。

 脳への衝撃に千花は抗うこともできずに意識を手放した。

 力の入らなくなった体を興人はすぐに支える。


「落ち着け。必ず、先生が考えてくれるから」


 気絶した千花に言葉を紡ごうと反応はない。

 それでも落ち着かせるように興人は静かに諭し、訓練場を後にした。

良いお年を。

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