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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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得体の知れない水晶玉

「なんだ、魔水晶なんて持ってたのか?」


 この世界での水晶玉は全て魔道具になるらしい。

 マーサは何も違和感なく更に質問を返す。


「いえ、私が入れた物じゃないんです」

「リュックに入ってたのに?」


 訝しみながらも、マーサはその言葉だけで理解したらしく、ゴム手袋とトングをすぐに用意した。


「慎重ですね」

「魔道具は人が触れた瞬間発動する物が多い。医療室(こんな所)で爆発されたらたまったもんじゃない」


 マーサは誤って触れないように千花を遠ざけてから、トングで水晶玉を持ち上げる。

 すぐに布の上へ移動させるが、やはり特に何も起こらない透明なままだ。


「お城の中で間違って入ってしまったんでしょうか」

「厳重に管理すべきはずの王城でそんな凡ミスが許されるかね」


 マーサはトングで水晶玉を鳴らしたり、光の反射を確かめたりしている。

 万が一割れないかと千花が心配になる中でも、水晶玉は特に何も起きない。


「何かわかりますか?」

「いいや、私は医療のことしか頭に入らないからね。こういうのはテオドールか、城での出来事ならクニヒコが詳しいんじゃないかい」


 得体の知れない物を拾ったと報告すればまたどやされるだろう。

 面倒事に首を突っ込みたくないが、このままリュックに入っているのも邪魔だ。


「見せてきます」

「はいよ」


 マーサに丁重に水晶玉を入れてもらい、千花は軽いリュックを背負って邦彦の元へ向かうことにした。


 2階に上がり、邦彦の部屋の扉をノックする。


「安城先生?」


 応答はない。

 ノックが聞こえなかったかと声をかけてみるが、やはり部屋から人が出てくる気配はない。


「クニヒコなら出かけたよお」


 後ろから声が聞こえてきたため振り返ると、逆さに吊り上げられたライラックによく似た顔の黒髪の青年──テオドールが笑っていた。

 千花は一瞬心臓が止まる思いをしながら腰は抜かさずに済んだ。


「ら、ライラックさんに絞られたんじゃないんですか?」

「うん! 全身バラバラに刻まれた! でもすぐ治るから平気」


 想像しただけで吐き気を催すが、そんなことよりも叱られたなら仕事に戻ってほしい。

 ライラックの心労が募る。


「クニヒコに用事ぃ?」

「は、はい。この水晶玉を見てほしくて」


 千花がリュックの中を指すとテオドールは堂々と見下ろしてきた。

 マーサがテオドールも詳しいと言っていたが、前科があるため悪用されないか千花は心配する。


「ホログラムの魔水晶だぁ」

「ホログラム?」


 千花が聞き返すとテオドールは水晶玉に触れようとしてくる。

 千花は爆発を恐れて思わず手を引っ込める。


「あ、すみません」

「触っても怪我しないよぉ。人体と接触したら映像が流れ始めるだけだから」


 テオドールは特段気にする素振りもなく、宙を漂い始めながら千花に接し始める。

 千花の首が忙しくなるため降りてきてほしい。


「どこで拾ったのぉ? スラム街? 闇市?」

「そんな危ない所行かないですよ! お城から先はどこも行ってないのでそこしか選択肢はないかと」


 千花が出処を予測しながら小首を傾げていると、テオドールが愉快そうに笑いかけてきた。


「きっと刺激的な映像だよぉ。クニヒコに見つかる前に見たらいいよ。なんならオキトも一緒に」

「どんなホログラムかわかるんですか?」

「知らなーい」


 テオドールは無責任に答えるとそのまま向こうへ飛んでいってしまう。

 完全に彼のペースに流されたことに千花は拍子抜けしながら、水晶玉を見下ろす。


(安城先生はいないけど、テオドールさんがはっきり安全だって言うなら本当なんだろうな。わざわざリュックに入ったってことは見ないといけないかも)


 このまま放っておいて邦彦の帰りを待つのが最善だろうが、ここまで引っ張られて、そろそろ興味の我慢も限界に差し掛かっている。


(興人にも見せればいっか)


 共犯を作ればいい、と興人を犠牲にすることを考えた千花はその足で訓練場へ向かった。


 訓練場にはやはり興人がいた。

 座学に関しては興人の方がすぐに集中が切れると読んで正解だった。


「興人、ちょっといい?」


 素振りに集中していた興人は千花が声をかけてようやく存在に気づいた。


「課題は終わったのか?」

「こっちのセリフだけど」

 

 マーサにつつかれたというのに気づけばここにいる興人も立派な訓練バカだ。


「で、何か用か?」

「うん、一緒に見てほしいものがあって」


 千花はリュックに入ったまま水晶玉を見せた。

 爆発しないとは言え、触ると何かが起きる水晶玉を簡単には手放せない。


「お城でたまたま入ったみたいで」

「そんな偶然あってたまるか」


 興人にも同じことを言われたが千花も理解できていないのだからこれ以上説明しようがない。


「テオドールさんに聞いたらホログラムだって言うから見ようと思って」

「先生には確認したのか?」

「……テオドールさんがバレる前に興人と見ろって言うから」


 千花が目を合わせないように答えるため興人は眉を寄せて詰め寄った。


「俺を共犯にしようってことか」

「で、でも私の所に来るってことは全く無関係なものではないと思うの! 何にせよ見た方がいいと思って」

「……トラウマになる映像だったら?」


 興人の指摘に千花はうっと言葉を詰まらせる。

 怖いもの見たさと警戒心が入り混じっている。

 そんな千花の顔を見て興人は面倒そうに溜息をつく。


「危険だと思ったら見るのやめろよ」


 千花の好奇心を尊重してくれた興人は水晶玉を渡すよう手を出す。

 千花は不安半分で興人に水晶玉を見せた。

 水晶玉が興人の手のひらに転がり落ちる。

 その瞬間、球体が形を変えていった。

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