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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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巫女を邪魔する者

遅くなり申し訳ございません。

 多忙なシルヴィーが緊急で呼び出すことは珍しくない。

 手紙でやり取りできない内容もたくさんあるため仕方ないとは思うが、千花がいる時には勘弁願いたかった。


(すぐに話を切り上げて戻ろう。田上さんがあいつに唆される前に)


 重厚な扉を前に、邦彦は深く呼吸をし、態度を改める。

 いくら忙しくとも大人げなく不機嫌さは表さない。


「失礼いたしますトロイメア女王陛下。ただいま参りました」


 扉が自動で開き、邦彦は深く会釈をするとシルヴィーの元まで歩み寄る。

 シルヴィーは玉座に腰かけ書類の束を抱えていた。


「クニヒコか。よく来たな」


 書類から目を外し、シルヴィーは邦彦の言葉に返す。

 挨拶はそこそこに邦彦は本題を切り出そうとするが、シルヴィーの次の言葉は意外なものだった。


「お前の方から来るのは珍しいな。何か変わったことでもあったか」


 シルヴィーの質問に邦彦は耳を疑った。

 騎士に言われたことと矛盾が生じている。


「いいえ女王陛下。私は女王陛下が話があると言伝をいただきここまで参りました」


 邦彦の返答に今度はシルヴィーが首を傾げる番だった。


「私が? いいや、あれからウォシュレイの動きもなく、むしろ頭を悩ませていたところだ。何1つ報告などない」


 シルヴィーがくだらない嘘を吐くわけがない。

 表情からしても真実だろう。


「お話がなければこちらで失礼させていただきます」

「ああ……うん? そういえばローランドが何やら騎士に命令していたな。また良からぬことを企んでいるのではないかと警戒していたが」


 謁見の間を出る直前、シルヴィーが独り言のようにぼそっと呟いた。

 その言葉にパズルのピースが合ったように邦彦は目を見開く。

 同時に心臓が早鐘を打ち始めた。


「っ!」


 扉が閉まった瞬間、邦彦は王城でありながらも気にせず廊下を走り抜けた。

 途中注意を受けた気もするが、今は気にしていられない。


(嵌められた。絶対にあいつを近づかせない!)






「あ、あの……?」


 腰を引く千花に中年の男は顎の不要な肉を弄りながら品定めするように舐めた視線を向けてくる。

 千花が不快感を抱くには十分すぎる材料だ。


「駄目じゃぁないか巫女様? 目上の人に会ったら自分から挨拶しないと。そんなことも教わってないのかい?」


 男の後ろには屈強な騎士が2人、千花を睨みつけている。

 千花は訳もわからないまま反射的に頭を下げる。


「ち、千花です」


 心の中では声を張ったつもりだが、緊張で喉が渇き、実際は聞こえたかわからない声になってしまった。

 男はまるで揚げ足を取るように「ふん」と鼻で笑う。


「魔王を2体倒した小娘がどのような者か見に来たらこんな様とは。恥ずかしくて仕方ないねえ」


 邦彦に早く帰ってきてほしい。

 千花は切に願った。

 嫌味だらけの黒い感情に充てられただけで気分が悪くなってくる。


「あ、あの、私ここで失礼します」


 予定を伝えれば退いてくれるだろう。

 そんな甘い考えが通用するはずもなく、千花が動く前に後ろにいた騎士2人が行く手を阻むように千花を捕らえる。


「せっかくの機会だ。少し話をしようじゃないか?」

「し、知らない人にはついていかないって約束……」

「知らないぃ!? トロイメア国宰相であるこのローランドを知らないというのか!?」


 怒号混じりの声に千花は抵抗していた体を震わせる。

 その隙をついてローランドは彼女の手首を強く掴んだ。


「いっ……」


 手加減を知らない力に千花は顔をしかめて手を引っ込めようとする。

 その動きが更に癪に障ったのかローランドは反対に力を込める。


「は、離して」

「ただの小娘が調子に乗るなよ! ついてこい、これは命令だ!」


 ここは王城の廊下。

 足を動かしながらも野次馬と化しているメイドに千花は助けを求めようとするが、目が合うと気まずそうに逃げられてしまう。


「お前ら、この女を連れていけ」

「はい」


 手が解かれたかと思うと後ろにいた騎士1人に抱えられる。

 手足を塞がれるように担がれ、千花は恐怖に声すら出せない。


(助けて安城先生!)


 心の中で千花は悲痛に叫ぶ。

 その願いが届いたのかはわからないが、千花が目を強く瞑った瞬間彼女を抱えていた騎士が吹っ飛んだ。


「え、わっ!」


 腕から抜け出した千花はバランスを崩し転びそうになる。

 その体を優しく支える者がいた。


「お待たせしました田上さん」

「安城先生っ」


 安心させるように微笑む邦彦に千花は安堵と共に今までの緊張と恐怖から涙が込み上げてくる。


「ご安心ください。後は僕が代わるので」


 邦彦は着ていたジャケットを千花に被せ、背に隠すように立ち、ローランドと向かいあう。

 ローランドは鼻息荒く邦彦を睨みつける。


「会話中に割り込むとは何事か! 不敬罪で取り押さえられたいのか!?」


 ローランドは廊下中に響く怒号を出すが、邦彦は存ぜぬと言った様子で静かに答える。


「会話、であれば私も止める気はありませんが、男3人がかりで女性1人を攫おうとしているように見えたので」

「無礼な! その女が宰相であるこの俺に逆らったのだ! 礼儀知らずに教育して何が悪い」

「見知らぬ相手からは逃げるようにと教えました。今も間違っているとは思いません」


 感情任せに怒りを撒き散らすローランドと飄々と答える邦彦。

 千花はハラハラと様子を窺っていた。


「娘1人、と言うなら宰相自ら命令をくだせばよかったものを、護衛を連れていくのは悪意しか感じられません。その気になれば彼女に傷を負わせることも厭わなかったのでしょう?」


 千花からは見えなかったが、邦彦は口調こそ落ち着いていたもののその表情は憎悪と不信感に満ちていた。

 彼の顔を見て、ローランドは鼻で笑いながら口を開く。


「魔王を倒す実力を持ってしまった巫女が宰相を脅す、なんてことがないように配慮した結果だがね。猫かぶりの性悪女を信じるわけなかろう」


 邦彦は青筋を立てながらも千花の手前声を荒げないように注意する。


「私には彼女を保護する役割もあります。貴方がたに渡すことは不可能です。力づくで奪いたいなら、お相手になりましょう。もちろん、この場で」


 邦彦が好戦的なため千花は耳を疑う。

 王城の廊下で喧嘩などすれば悪評が立つに違いない。

 だが邦彦には思惑があった。


「もちろんここで戦えば喧嘩を売った私に非がありますが幸い人目は多いです。今頃ローランド宰相が少女1人に圧力をかけていると告発しているかと」


 邦彦の挑発にローランドはわざとらしく舌打ちをする。

 自分が不利なことはわかったのだろう。


「あーあ、残念ですな。せっかくウォシュレイの魔王について教えてさしあげようと思ったのに」

「魔王っ?」


 千花の反応にニヤニヤと笑いが止まらないローランドはそのまま踵を返した。


「いやー残念残念。それではさようならお二方、また会いましょう」


 ローランドはそのまま騎士を連れて廊下を歩いていく。

 その直前、騎士の1人が千花のリュックに水晶玉を入れた。

12月19日(月)の投稿はお休みします。

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