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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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あの人がいない

 おしゃれに無頓着な千花だが、何の手入れもしていない彼女の体をカルロはとことん改造していった。

 一括りにしただけの顔にかかる髪もアイロンで伸ばし、緩く結ってもらう。


「後はメイクね。チカちゃんには何が合うかしら」

「あの、そこまで派手な物にはしないでいただいても」


 手を尽くしてくれるカルロには感謝しかないが、この後帰ったら自分でしないだろう。

 頑張りすぎても申し訳ない。


「じゃあ薄くファンデ塗るだけにしておきましょうか。素材がとってもいいから手の加えすぎも良くないわ」


 カルロは小さなパクトを出すと、優しく千花の頬にファンデーションを塗っていく。

 千花は7歳の時、着物を着せられて美容師に散々メイクを施されたことを思い出した。

 あの時は退屈な時間だとしか思わなかったが今は心なしかワクワクしている自分もいる。


「さあできた。ファンデは水で落とせる物にしたからね。でも化粧水と乳液は毎日塗りなさい。あげるから」

「えっ、でも売り物じゃ……」

「いいのいいの」


 申し出はありがたいが、ここまでしてもらって無料は千花の方が心苦しくなる。

 せめてファンデーションは買うことにした。


「さあオキト! より可愛くなったチカちゃんをとくとご覧なさい」


 ハードルを上げられた千花は気恥ずかしさを抱きながら興人の元へ戻る。

 暇を持て余していた興人はようやく戻ってきた千花を一目見て口を開く。


「可愛くなったでしょ?」

「……ああ、はい?」

「なんで気づかないのよ!」


 カルロに叱られる興人だが、恐らく店を出ても気づかないだろうなとは千花も思う。

 特段変化した所はないのだ。

 先程よりは可愛くしてもらったが。


「これだから戦いにしか興味がない男は。チカちゃん、小さな変化にもちゃんと気づいてくれる人と結婚するのよ」

「は、はい」


 結婚なんていつの話になるか、夢のまた夢のような話をカルロにされ、千花はたじろぐ。


「さあ! おしゃれもできたことだし、楽しいお話でも」

「いや、そろそろ出ないと日没になります」


 ここからもう1つギルドに行きたい用がある。

 千花ももっとカルロに聞いてもらいたい話があったが、一度話に花を咲かせるときっと時間を忘れる。


「来たばかりじゃない! 門限なんて破ってなんぼよ」

「いや締め出されるんで」


 邦彦の雷が落とされることだけは千花も勘弁願いたい。

 ここまで良くしてもらってただ帰るのも嫌だが、千花は会釈してカルロに礼を言う。


「またすぐに遊びに来ます。ちゃんと、頑張ってお手入れしますね」

「もうっ、チカちゃんが言うなら仕方ないわ。おしゃれは1日にしてならずだからね。それが切れる前に必ずいらっしゃい」


 本当に店内は物色せず、楽しく話してメイクをしてもらうだけだったが、これまでで1番の息抜きになった。

 

 千花達は隠れ家を出て、喧騒の中へ混じっていった。


「次は?」

「ギルドに行こう。アイリーンさんに会いたい」


 先程より晴れやかな表情になっている千花を一瞥し、興人は足を進めた。


 日中ということもあり、ギルド内は賑わっていた。

 日も高いうちから酒を飲む大人のことはあまり尊敬してはならないと邦彦には言われているが、この賑わいが千花は懐かしく思う。


「あれ? アイリーンさんは?」


 ギルドを入って目の前にあるカウンターを覗くが、いつも笑顔で迎えてくれるアイリーンがその場にはいなかった。

 代わりに別の受付嬢が仕事をこなしている。


「あの、アイリーンさんはいませんか?」


 千花が声をかけると、アイリーンと同い年くらいの受付嬢は首を傾げて答える。


「3日ほど前から別の仕事が入ったとここには来てませんね。音沙汰もないので、どこに行ったかは」

「そうですか」


 千花が知らないだけでアイリーンは多忙なのかもしれない。

 久しぶりに近況を話すことができなくて残念な気持ちはあるが、個人の都合であれば仕方ない。


「次いつ帰ってくるとかは」

「何も聞いてないです。私もアイリーンさんが帰ってくるまでの代打で呼ばれただけなので」


 帰りの予測もつかない程忙しいのには少し違和感を覚える。


「興人は何か聞いてる?」

「いや、俺もギルドに来るのは久しぶりだからアイリーンさんがいないことは知らなかった」


 興人も知らないとなれば手がかりは0だ。

 元々アイリーンに会うためにギルドに来た千花は手持ち無沙汰になってしまった。


「もし時間が余ってるのなら1つ頼まれてくれないかしら」


 カウンター前で次を考えていた2人に受付嬢が声をかけてきた。


「依頼ですか?」

「そんなに難しいことでもないんだけど、城下の外れにある森で薬草を採ってきてほしいの。ビーストモンキーもいるからできれば冒険家に行ってほしいんだけど」

「それって」


 初めての任務と同じ仕事だ。

 日没まで時間がないとしても、ここから薬草取りまでそう時間はかからない。


「2人で探せば簡単だよね」

「そうだな」


 興人も了承したため2人で依頼を遂行することにした。

 初任務の時はシモンの魔法で飛んでいったが、歩いてもそこまで遠くない。


「誘惑に負けるなよ」

「流石に仕事が優先だから」

「じゃあ視線をこっちに向けろ」


 良い香りがする店に顔を向けている千花を叱りながら興人も一緒に進む。

 千花が何とか誘惑に負けなかったため、機関から降り立った場所までは30分もかからず着いた。

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