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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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トロイメアを知っていく

「雑貨屋?」


 外の熱気に包まれた後だと人が少ない店内は静かで落ち着いている。

 迷惑にならない程度に辺りを見回すと、これと言って売りだと思われる商品は見当たらない。

 千花が言ったように色々な物が売っている。

 バッグも服も食器も、よくわからない置物もある。


「なんで?」


 千花の素朴な疑問に今度は興人も答える。


「お前、この国の特徴言えるか?」

「リースの中心?」


 千花が首を傾げながら思ったことを口にするが、興人は思っていた返答と違うと否定する。


「そういう大きなことを言ってるんじゃない。この国の文化、好まれてる物、名産品、そういうのは知ってるか?」

「……食べ物だけなら」


 中には得体の知れない名前もあったが基本的にトロイメアの食材は口に合うものばかりだ。

 千花がまごつきながら答えると、興人は言わんこっちゃないと肩を竦める。


「せっかく遊びに来たんだ。他のことにも興味を持ってくれ。田上がもっとトロイメアのことを知れば、俺も案内しがいがある」

「……うん、わかった」


 興人の言うことももっともだ。

 千花は改めて店内を覗くことにした。


「と言ってもちょっと迂闊に触れそうにないんだけど。だってこれガラスでしょ?」


 まず目についた食器類に近づく千花だが、すぐにその素材が見覚えのある物だとわかった。

 実家にいた時に絶対に触らないでと言われていたガラスそっくりだ。


「別に鑑定しろとは言ってない。田上の言う通り、トロイメアではガラスの食器がよく使われてる。ほら、思ったより安いだろ」


 興人に指され、恐る恐る値段を見ると、今の千花でも買えるほど安い品物もあった。

 それだけ一般化しているのだろう。


「カップもガラス……あれ、鳥の絵が描いてある。こっちのバッグにも」


 大きく翼を羽ばたかせている鳥、千花は隣に置いてあった革製品らしきバッグや小物入れにも同じように描いてあることを見つける。


「なんでかわかる?」

「鷲が国鳥だからな。その昔、光の巫女が鷲を伝令役にさせてたらしい」

「私も従えた方がいいの?」

「今は遠くにいても会話できるだろ。昔は手紙でやり取りしてたからだ」


 千花はカップを慎重におろし、次の棚を見る。

 端から端というわけではないが、食品もよく並んでいる。


「調味料もいっぱい……あれ? でもカルロさんのお店では見たことない物も色々……」


 千花が独り言を呟くと、遮るように興人が「しー」と人差し指を口に持っていく。


「カルロさんのお店は基本的に珍しい物しか売ってないから。あまり大きな声で話すな」


 言われてみれば蜘蛛の卵を漬けた物を勧められた気がする。

 あれが日常食でないことは薄々わかっていたが、本当にそうであって助かったと千花は思う。


「確かに雑貨屋だけど服も売ってるんだね。これ、服だよね?」


 千花はマネキンに飾られているドレスのような服を見上げる。

 柄こそ小さな花やレースが散りばめられていたり、膨らみもあったりして可愛いが、丈が長すぎて千花が着ると必ず引きずるだろう。


「これ普段着? こう、結婚式に着るものに見えるんだけど」

「一応普段着だな。でも俺達がここに来る頃には皆働いてるから動きやすい仕事着しか見たことないな」

「日常生活で着るにはちょっとハードルが高いなぁ」


 千花は服から視線をずらし、隣に置いてあるアクセサリー類に目を向ける。


「帽子にピアス、ネックレス……身に着ける物はこっちとあんまり変わらないんだね」


 千花はふと気になったブレスレットを手に取る。

 小さく片翼の鳥があしらわれているブレスレットをじっと眺めていると、興人が入ってくる。


「気になるのか」

「可愛いなと思って。でもブレスレットなんてほとんどしないし」

「鳥のモチーフはこの国では魔除けに使われるし飾っておくのはどうだ?」


 言いながら興人はブレスレットを貸せと手を出してくる。

 その意図を理解しながら千花は首を傾げる。


「自分で払うよ?」

「俺が店に誘ったから。どうせまだ買い食いすんだろ。金なくなるぞ」


 興人の言葉に千花はギクリと肩をあげる。

 確かにそこまでお金は持ってきていない。


「じゃあお言葉に甘えて」


 千花がブレスレットを渡すと、興人はそのままレジの方へ1人進んでいく。

 残された千花はもう少し店内を回ることにした。


(この置物なんだろう。トーテムポールの小型版? こっちは、女性の像……あ、光の巫女?)


 教会の中心で手を組み祈りを捧げていた光の巫女の像。

 それに似た小さなガラス細工が目の前にあった。


(前に先生が信仰心が薄れてるって言ってたけど、こういうお店でもしっかり飾られてるんだなあ)


 世界の守り神であり、千花が求められている者。

 千花は無意識のうちに手を握る力を強める。


「田上、終わったぞ」


 考え事をしていた千花は背後から声をかけられ肩を跳ね上がらせる。

 振り返ると何食わぬ顔で興人が立っていた。


「あ、ありがとう興人。今付けてみてもいい?」

「ああ」


 興人からブレスレットを受け取り、早速身に着けようとする。

 だがつけ慣れていない千花は手間取る。


「難しいね」

「貸せ。手伝う」


 言われた通り渡すと、一瞬でブレスレットを付けてくれる。

 千花が不器用なだけだった。


「さて、早く教会まで行くぞ。こんな状態で行ったら目的地までいつ着くか……」

「あっちのクレープみたいなのも美味しそう!」

「おい」


 興人は今までで一番低い声で千花を引きとめた。

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