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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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ようやくトロイメアへ

 訓練を終えても体力が残っていると成長を感じる。

 千花は汗を拭い、普段着に変えると、すぐに2階へと向かおうとした。


「ああチカ、1つ伝えとく」


 出かける準備を終えた千花をマーサが引きとめる。


「オキトはよく知っているが、もし機関に戻ってくるなら日没までには必ず帰ってこい。門限だからな」

「ここに門限ってあるんですね」


 皆自由人なのになぜ制度があるのか不思議だ。

 門限を破るとどうなるか気になるところではあるが今は一刻も早くトロイメアへ行きたい。


「わかりました。行ってきます」

「気をつけてな」


 後ろ手で見送るマーサに挨拶をして、千花は扉の管理人、イアンの元へ向かう。

 急いで準備を終えたはずだが、扉の前には興人が待っていた。


「あ、まだイアンさんに行っていいか聞いてないんだけど」

「許可を取らなくても目的地を伝えれば行ける」


 邦彦が以前許可は取ってあると言っていたため、てっきり事前審査が必要なのかとばかり思っていた。

 別の意味だったのだろうか。


「……やってみるか?」

「いいの!?」

「名前と行きたい場所を伝えればな」


 興人が避けてくれたため、千花は胸の高鳴りを抑えながら扉の前に立つ。

 ただ目的地を伝えるだけなのに特別感がある。


「い、イアンさん。千花です。トロイメアに行きたいです」


 言われた通り一度ノックしてから、はっきりと聞こえるように伝える。

 しばらく何の返答もなかったため不安になる千花だが、程なくして扉の隙間が白く光った。


「つ、伝えられた?」

「ああ、光が消えたら行くぞ」


 感動している千花など気にせず、興人は慣れた様子でドアノブを回す。

 ドアから見えた景色はバスラの時とは異なり生い茂る木々の中だった。


「どこ?」

「薬草取りに行った時に使った森だ。トロイメアは近いから迷うことはない」


 そう言われても興人がいなければ森の中をさまよっていたことだろう。

 興人を見失わないように背中を見ながらついていくと、すぐにトロイメアの城門が目に入った。


「さて、最初に何する?」

「迷うなぁ。お店も回りたいし教会にも行きたいし、ギルドにも行きたい……あっ」


 邦彦と行くことばかり考えていたせいですっかり忘れていたが、興人であれば隠さず行ける所があった。


「カルロさんのお店に行きたい! 特に買う物はないけど」


 顔なじみの店には寄りたいと思っていた千花はすぐに提案する。

 興人は希望を叶えるように1つ頷く。


「全部反対側にあるな。大通りを歩きながら気になる所を回っていくか。それで、ギルドを最後にしよう」


 真ん中にあるギルドを終着点にする理由はわからないが、今の千花にはそんなことを気にしている余裕はない。

 日没までには帰らないといけないのだ。

 楽しいことは急がなければ。


「じゃあまずはあっち! 人がたくさんいるとこ」


 千花ははぐれないように興人の手を引きながら、人混みの中へと溶け込んでいった。






 シルヴィーから呼び出されることは少なくない。

 機密事項もある中、手紙でやり取りすると漏洩も危惧されるからだ。

 だが、緊急を要するほどの呼び出しは珍しい。


「突然の呼び立て悪かったな」

「いえ、お忙しい中にお時間をいただけること、光栄です」


 王宮にいると誰とは言わないが邪魔立てが入ることもある。

 決まり文句はさておき早く本題に入ってほしいと邦彦は心の中で思う。


(田上さんにも申し訳ないことをした。理解はしてくれていたが約束を破ったことに変わりはない)


 ようやく千花が自由に動ける日ができたというのに寂しそうな顔をさせてしまった。

 必ず埋め合わせはしなければならない。


「女王陛下、話というのは」

「ああ、以前話した王国騎士団の件だ」


 予想通りだ。

 ローランドが勝手に決めたウォシュレイへの遠征。

 無事に済むとは到底考えていなかったが、結果が出るのが早すぎる。


「まだ数日しか経っていませんが」

「私も報告を聞いて耳を疑った。いくら扉を使ったとて2、3日で大きな変化が起きるとは何事かと。だが、全ての人員が国内に囚われたという情報が入ったのも事実だ」


 ウォシュレイは海の中の国だ。

 今までの2つの国と違い国に行くまでが人間にとっては困難な土地だ。


「国内で、ですか?」


 海の中の国と言えど海全体が国というわけではない。

 内部に行くにはかなりの危険を要するが、国内に入れはしたのだろうか。


「先日、ウォシュレイの女王より伝令が来た。お前にも見せよう」


 邦彦は声こそ出さないものの目を見張ってシルヴィーが差し出してきた水晶玉を受け取った。


「お言葉ですが女王陛下、あちらの陛下は……」

「メイデン女王は、魔王に体を乗っ取られた。だからそのメッセージは、魔王からということだ」


 シルヴィーは怒りを堪えるように椅子の肘置きを強く握りしめながら答える。

 七大国(セーミランターラ)の中で女王が治めている国はトロイメアとウォシュレイのみ。

 3年前までは女王同士親交が深かったこともある。

 シルヴィーはより悪魔への憎しみが強いのだろう。


「拝見しても?」

「許可する」


 邦彦は水晶玉を覗き込んだ。

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