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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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一緒に行くか?

 バスラから帰ってきた後は邦彦の言葉通り心が軽くなった。

 身体的な体調もほとんど万全になったため、訓練により力を入れる。


泥団子(マッドダンプ)!」


 千花は両手のひらを目の前に出し、遠くにある的に向かって呪文を唱える。

 手のひらから繰り出された泥団子は一直線に的に向かい、粉々に割った。

 地面には破片のみ残っている。


「やったぁ! 興人見た? ようやく壊せたよ!」


 千花は魔法を撃てたことに喜び、隣にいたはずの興人へ呼びかける。

 だが目を向けた方に姿はなく、少し先へ進むと興人は真剣に素振りをしていた。


「見ててって言ったじゃん興人!」


 頬を膨らませて怒る千花に気づいた興人だが、全く申し訳なさそうに思っていない表情だ。


「30分も同じ動作を見てる方が時間の無駄だ。で? 何ができたって?」

「素手で的を壊せたの。ようやく」


 千花が指さしながら粉々になった的を見るよう促す。


「ああ、良かったな」

「頑張ったんだからもっと褒めてくれても良くない?」

「じゃあ俺と戦って勝ったらその分も褒めてやるよ」

「鬼!」


 余計な力がバスラに行ったことで抜けたのはわかった。

 それが理由かはわからないが、以前はボロボロだった魔法が素手でも物になった。

 魔法発動までに30分はかかるが。


「安城先生は変わらず褒めてくれるのに興人手厳しくなってる」

「先生は元からやった分だけ褒めてくれる人だ。でも田上は褒めたら付け上がるだろ」

「い、いつもじゃないから」


 褒められて油断したまま敵に遭遇したこともある千花は目を泳がせながら苦し紛れに否定する。

 興人は表情を変えず、大剣を鞘に収める。


「その先生だが、約束してたんじゃないのか? 昨日トロイメアに行くって嬉しそうに報告してたじゃないか」

「ああうん……えっと、トロイメアの女王様に突然呼ばれたらしくて今日は行けないことになったの」


 邦彦には今朝謝罪された。

 気分が上がっていた時に予定をキャンセルされると気持ちは沈むが、女王の命令を拒否できるとは到底思っていない。


「また行けるだろうから今は訓練することにしたの」

「そうか」


 千花が肩を落としているところを見下ろし、興人は顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 しばらくして口を開こうとした時、外からマーサが入ってきた。


「まだいたか。ほらチカ、望みの物だ」


 マーサは扉に背負っていた包みを破き、千花の目の前に持ってくる。

 それはゴルベル戦で折れた魔法杖だった。


「直してくれたんですね!」

「いや、かなり損傷が酷くて作り替えた。木材だが、一番丈夫だと言われてる木で作ったから魔法を受けてもそう簡単には壊れない」


 持ってみろと言われ、千花は受け取る。

 重さも以前のものとはほとんど変わらず、持ちやすさもてっぺんについている魔晶石もそのままだ。


「素手での訓練もやっておいて損はない。ただ修得するには時間がかかるだろうから実践には杖を使え」

「ありがとうございます!」


 マーサは受け渡しが済むとすぐに訓練場を出ていく。

 まだ仕事が山積みなのだろう。


「ちょうどいい所に杖が来たし、興人、模擬戦闘する?」


 最近は体術での戦闘のみだったため、千花は魔法杖を構えながら興人に提案する。

 そしてその返答は、予想だにしないものだった。


「ああいや、戦闘もするが」

「?」


 興人であれば喜んで応えるだろうと思っていた千花は、曖昧なその態度に首を傾げる。

 少しの間迷う動きを見せた後、ゆっくりと口を開いた。


「トロイメアに行きたいんだったら俺と行くか? 大事な話があるならともかく、遊びに行くだけなら俺だって付き合える」


 目を逸らしながら誘う興人に千花は口をポカンと開け、時間をかけて理解していく。

 要するに今日遊びに行けなくて落ち込んでいた千花を気づかっているということだろうか。


(ツンデレ?)


 ぶっきらぼうに見えてこういう優しさもたまに見えるのだからまだまだわからないことだらけだ。

 千花が口を緩めてにやけていると、その意図を理解した興人が睨んでくる。


「行かないならいい」

「い、行く行く! 喜んで!」

「……訓練が終わったらな」


 食い気味に応える千花に誘った張本人が引きながらも、束の間の休息を楽しむために訓練に励むことにする。


「さて、杖も戻ってきたことだ。久しぶりに本気で戦ってみるか」

「死なない程度でお願いね」


 手加減が苦手な興人だ。

 先に断っておかなければせっかく取り付けた約束もヘトヘトになりすぎて動けなくなることがある。


「出かける前にボロボロになりたくないからね」

「そうだな……じゃあ本人同士の攻撃はなしにしよう」


 興人は的が設置されている前に移動し、千花にも命じる。

 自分の的を壊されないように相手の的を壊す訓練か。


(これなら余分に傷つかなくて済むか)


 合図はなく、2人同時に武器を構える。

 何度となく訓練しあった2人だ。

 これくらいであれば息も合う。


(興人に体格差では勝てない。だから素早さで勝つ)


 千花は間髪入れず杖から魔法陣を繰り出すと泥団子を作り出す。

 泥団子は宙から銃弾のように興人に発射される。

 普段なら軽々と避けてカウンターに入る興人だが、今日は大剣で弾く。

 避けたら的に当たるからだ。


泥の海(マッドシー)!」


 その動きを予測していたかのように千花は興人の頭上に泥を降らせる。

 これは大剣で弾くことができず、興人は体を捻って避ける。


(チャンス!)

「リーフカット!」


 興人から的が逸れたことを見計らい、千花は鋭い葉を数枚発射する。

 炎を出しても全ての葉は燃やせないと勝ちを確信していた千花だが、興人は全く動じず、むしろ大剣を手放した。


「え?」

「イグニート」


 手放された大剣からは炎が舞い、葉が全て燃やされる。

 だが大剣がなくてどうやって的を壊すのかと千花が思っていると、そのまま興人が間合いを詰めてきた。


「借りるぞ」

「あっ!」


 一言告げると興人は呆然としている千花の魔法杖を奪い取り、的に向かって魔法陣を発動する。


「フレイムボール」


 千花が奪い返す間もなく、興人は杖から炎の玉を出すと、千花が守っていたはずの的をあっという間に壊した。


「俺の勝ちだな」


 魔法杖を返しながら興人は結果を淡々と告げる。

 だが千花は受け取れない。


「武器を奪うなんてあるの?」

「当たり前だろ。慣れた武器よりは使いづらいが、素手よりかは何倍もやりやすい」

「教えてよ……」

「見て学べ」


 いまだ興人に勝てたことのない千花は肩を落としながら杖を受け取る。


「ほら、しょげてないで訓練終わりにするぞ。トロイメアに行くんだろ」

「行くけどさぁ……」


 ようやく勝てると思って期待を裏切られた千花は重いため息を吐きながら訓練場を出ていった。

 その姿を上から眺め、リンゲツは音を立てないように拍手する。


(巫女様も頑張りました)


 戦闘のプロから褒められる千花だが、それが伝わることはなかった。

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