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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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また、夏休みが終わったら

 シュウゲツは話が終わるとそそくさと自室に戻っていった。

 千花にお礼を言ったものの気恥ずかしかったのだろう。


「ミツキ様達はまだ話してるんでしょうか」

「うん……」

「風間先輩?」


 シュウゲツよりも今は唯月の様子が気になる。

 先程からよそよそしい態度をとられるのはなぜだろうか。


「シュウゲツは一度嫌いになった人には一生態度を直さないんだ。それがこの数分で軟化したのが意外で」

「頑固な所は2人とも似てるんですね」


 千花の指摘に唯月はうっと言葉を詰まらせる。


「似てるのは仕方ないんだよ。僕達はずっと、一緒にいたから」

「じゃあなおさらシュウゲツさんが怒るわけですね」

「うん。強引になりすぎたことは反省してる」


 強引にした原因は千花でもあるため、執拗に責めることはできない。

 それでも仲を取り持つことができたのは良かった。


「それにしてもバスラは不思議な国ですね。ウェンザーズと全然違う」

「ああ、ヴァンパイア自体が他人と関わることをあまり好まない種族だからね。嫌いなわけでもないけど」

「観光向きではないっていうことですか?」

「霧の中を歩くだけは楽しくないと思う。その点では地球に行けたことはいい機会だよ」


 本当にその通りだ。

 唯月は楽しそうで何よりだと千花は思う。


「また、学校で会える日を楽しみにしてるから」

「はい」


 微笑む唯月に千花も返す。

 優しい彼が失われなくて良かったと千花が思っているところに、扉がノックされる音が聞こえた。


「風間君、田上さん、お話は終わりましたか?」


 その声は紛れもなく邦彦だった。

 唯月は迷わず扉を開け、邦彦の姿を確認する。


「お父上との時間をいただきありがとうございます」

「いえ、僕の方こそ色々とお世話になりました」


 唯月と話した邦彦は次に視線を横にずらした。


「田上さんも満足に話せましたか? 2人とも万全の状態ではありません。まだ話し足りないでしょうが、残りは夏休みが終わった後にしましょう」

「安城先生ももう大丈夫ですか?」

「ええ。ミツキ様も回復なさったらすぐに実務に戻るそうです」


 流石は国を束ねる1人だ。回復速度も然ることながら、すぐ動ける姿も感心する。


「帰りましょうか、田上さん」

「はい」

 

 千花が部屋にいる唯月に礼を述べ、改めてミツキにも挨拶をした後、その足でバスラを出ていった。


「田上さん、風間君の部屋で何かありましたか?」

「え?!」

「叫び声が聞こえたので」


 このビルは壁が薄いのか、いや、唯月の声量を考えたら隣にる邦彦達に聞かれてもおかしくない。

 今頃唯月も問い詰められているのだろうか。


「大体事情はわかるので隠さないように」


 そして千花が誤魔化そうとするのもバレていた。


「風間先輩の幼馴染の方が部屋に入ってきまして。一悶着ありました」

「ああ、例の。会ったことはありませんが、話は聞いています」

「ただその場で説明して納得してもらえました。痛い目には遭ってないので」


 ここにはいない彼を庇う千花に邦彦は苦笑する。


「別にこちらからやり返そうなんて気持ちはありません。状況確認だけしたかったので」


 千花は内心ほっとする。

 邦彦が本気で仕返ししようとしたら想像ができないからだ。


「それより、田上さんも大分表情が柔らかくなりましたね。心配事が減ったからでしょうか」

「え? 変わってます?」


 確かに無駄な力みはなくなったが、目に見えて大きく変化したとは思わなかった。


「元の田上さんに戻ったと言う方が正しいですね。たくさん心配をおかけしてすみません。明日からは回復のペースが良ければトロイメアに戻りましょうか」


 邦彦の提案に千花は顔を輝かせた。

 その表情を見て邦彦は吹きだすように笑った。


「どこに行きたいですか? 田上さんは頑張ってくれたので遊ぶ時間も必要です」

「色々。教会もまた行きたいし、人通りを通ってお店も寄りたいです。あ、でもギルドが一番かな。アイリーンさんにも会いたいですし」


 千花のお願いに邦彦は相槌を打っていたが、最後の言葉で表情をなくした。

 だが浮かれている千花は気づかない。


「……できる限り、叶えましょう」

「楽しみです」


 千花の嬉々とした表情を壊さないように邦彦は努めて冷静に返した。

 だが、それを叶えることはできないと、心の中では諦めていた。

先々週からお休みしていますが、今回から水曜日更新はなくなります。

楽しみに待っていてくれている方、申し訳ございません。

週に2話のペースでお楽しみください。

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