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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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瘴気から放たれたバスラ

「……ちょっと、見通しがいい?」


 千花は霧に目を慣らしながら辺りを見回す。

 相変わらず目の前はぼやけているが、以前よりは先が見える気がする。


「気のせいですか?」

「いいえ。田上さんが言っていたのは霧に混じってゴルベルの瘴気もあったからです。魔力の混濁で足元すら見えない状態だったのです」

「完全に浄化ができたから」


 ここでゴルベルを倒したという証明が見えて、千花は若干の安堵を覚える。


「ただ、視界が不自由ということは変わりないので、僕の腕を掴んでいてください。バスラまではすぐそこなので」


 邦彦の言う通り、千花は腕を伸ばす。

 足を進めていくと、森のような土の感触から少しずつ固いタイルに足元が変わっていくことがわかる。


(私、風間先輩の家からそのまま廃墟でさらわれたし、あんまりバスラの様子はわからないんだ)


 初めから切羽詰まった状況にいたため、ウェンザーズの時のように地形を把握する時間はなかった。

 せっかく来たのだ。霧の中でも少しくらい国を堪能しても怒られはしないだろう。


「田上さん、ここからバスラですよ」

「本当だ。黒い門がある」


 霧が立ち込めていても圧倒的に目立つ黒い門。

 まるで大きな屋敷にそびえ立っているような重厚感がある。


「勝手に入って大丈夫なんですか?」

「ヴァンパイアは基本余所から来た人を追い返す真似はしません。歓迎もしませんが」


 基本的にヴァンパイアは家から出ず、国は閑散としているらしい。

 国というより、ヴァンパイアが平穏に暮らせるような居住空間がバスラなのだろう。


「その中でも、やはり不満を抱く方は一定数います。意見をまとめて、新しい改革を提案するのが中央の塔にいるヴァンパイアです」


 唯月の父親含め4人がいた塔だ。

 戦った際に壊してしまったことを千花は今になって申し訳なく思う。


「そういえば風間先輩も言ってました。ヴァンパイアは悪魔に乗っ取られたらそっちに適応し始めたって」

「ええ。良くも悪くもヴァンパイアは強い方へなびきます。その安定さと賢さが役に立つこともあるんです」


 その中で普通を壊して変えてきた光の巫女が現れたとあればそれこそ追い出されてしまうのではないか。

 千花が一気に緊張状態に入ると、邦彦が安心させるように微笑む。


「2日前までは皆さんドタバタしていましたが、元は悪魔に乗っ取られないで生活していたんです。無関心ではありますが、決して嫌われてはいないですよ」

「そ、そうであればありがたいです」


 種族が違えば客人に対する態度も違う。

 国のしきたりなら従うしかない。


「ところで今どこに向かってるんですか? 中央の塔って、壊されてる気がします」

「田上さんの言う通り、ゴルベルの最後の魔法によって塔は打撃を受けました。なので、バスラを統治している最高権力者、ミツキ様の元へ向かいます」

「ミツキ……もしかして風間先輩の?」

「お父様です」


 ちょうどそこまで話したところで邦彦が足を止めた。

 千花が前を見ると、そこにはエントランスと思われる透明な扉があった。


「田上さんは一度来ているでしょう。風間君の家に」

「そこに行くんですか」


 唯月も一緒に療養していると聞いた。

 ゴルベルに乗っ取られていたミツキにも話を聞け、同じように唯月の様子も確認できるため一石二鳥だ。


(あれ? でも、風間先輩の家って高い所にあったような)


 唯月から逃げる時は死に物狂いで階段を駆け下りたが、思い返してみれば何往復と回った気がする。

 体力があるとしても、階段を延々上らされるのはハードな訓練よりきつい。


「田上さん、こっちですよ」

「え? エレベーター?」


 千花が顔を引きつらせながら階段を見上げていると、邦彦が更に奥の灰色の扉を指した。

 それは日本でもよく見られるエレベーターだった。


「この世界にもあるんですね」

「風間君のようにヴァンパイアの中には素性を隠して地球に来る方もいます。その知恵を引っ張ってきたようですね」


 ヴァンパイアは浮くことはできるそうだが、こちらの方が楽だと気づいたのだろう。

 安全管理などは魔力を流しているというので本当に技術を真似しているらしい。


「ちなみにこのマンション、何階建てなんですか?」

「30は越しているかと」


 上が見えないわけだと千花は1人納得する。

 エレベーター内に乗り込むと、邦彦は迷わず20のボタンを押し、扉を閉める。


「ミツキ様はどんな人なんですか?」

「冷静で、真面目で、頭が良く、少し気難しいところもありますが、国民の幸せを第一に考えるお方です」


 気難しいというところを除けば、それは唯月も似ている。

 親の背中を見て育った良い例だろう。


「私のことはどう思ってそうですか?」

「それは自分で確かめてください。でも、悪いようには一切取っていませんので」

「あ、良かった」


 仕方ないとは言え初対面から死闘を繰り広げた相手だ。

 ウェンザーズにレオ王の時は感謝してもらえたが、今度はどう出るかわからない。


「さあ着きました。そうだ、廊下内はお静かにお願いします。ヴァンパイアは騒がしいのが苦手ですので」


 邦彦に従い、千花は無駄な会話を止めて後に続く。

 エレベーターを降りると長い廊下に一定間隔で並んでいる扉がいくつもある。


(そういえば機関も似たような構造だな)


 声にこそ出さないまでも千花は変わり映えしない廊下を見回すように顔を動かす。

 ちょうど真ん中あたりで邦彦が足を止めた。


「ここがミツキ様のご自宅です」

「じゃあ風間先輩も」

「風間君は隣です。ヴァンパイアは基本1人1部屋なので」


 道理で部屋数が多いわけだ。

 千花は部屋の内装を思い出し納得する。


「ミツキ様。邦彦です」


 邦彦は静かに扉を2回叩き、中にいるであろうミツキに声をかける。

 しばらくの後、扉が独りでにゆっくり開いた。

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