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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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寂しくないですよ

 その後、興人も訓練をしに来たということで簡単に模擬戦闘を行った。

 興人の動きは見えてもすぐに反応できないことから前線に復帰するのは早計だったとわかった。

 そして日を跨いだ翌日。

 マーサに体の調子を診察してもらっていた千花の元に来客が現れた。


「失礼します。田上さん、体の調子はどうですか?」


 部屋に入ってきたのは邦彦だった。

 少し疲れているような様子が見て取れるが、きっと地上で重い仕事があるのだろうと千花は推測する。


「おはようございます安城先生。もう元気です」

「そうですか。それは良かった」


 簡単に返す邦彦に2人の様子を見ていたマーサが呆れたように鼻で息を吐く。


「そうですか、ってあんたね。巫女の保護者代わりを名乗るんなら毎日様子を見に来たって良かったんじゃないか?」


 マーサに小言を言われ、邦彦は苦笑しながら肩を竦める。


「マーサさんの言い分ももっともです」

「あ、あの! 安城先生は地上でたくさん仕事があるんですよね。私、安城先生がいなくても大丈夫でしたよ。寂しくなかったですよ」


 間で邦彦が責められていることに気づいた千花は庇うように捲し立てる。


「……」

「安城先生?」


 口を止め、千花を凝視する邦彦に尻込みする。

 直後、糸が切れたように邦彦はくすくす笑い出した。


「隠し事が下手な子だねえ」


 千花の隣ではマーサが今度は彼女に向けて呆れた視線を送る。

 よくわかってない千花は戸惑いに顔を動かして様子を窺う。


「すみません田上さん。今度は、寂しい思いをさせないようにしますので」

「え? いや、私別に……」

「さて、元気になったようですが少し体を動かしますか? すぐに復帰は難しいでしょう」


 即座に話を進めてしまう邦彦だが、千花は返答に困る。

 秘密にしているがここ2日、着々と鍛錬はこなしていた。

 どう説明するかと悩んでいる千花にマーサが割って入る。


「巫女なら軽い運動をさせたからある程度は動けるさ。医者(わたし)の許可ありだから反論はさせないよ」


 マーサが若干強引に助け船を出してくれたことで邦彦からの言及は免れた。


「わかりました。では本題に入っても大丈夫ですね」

「本題? 様子見に来ただけじゃなくて?」


 邦彦は仕事の合間に体調を確認してにきてくれたのではないか、と千花が首を傾げると邦彦はゆっくり首を横に振る。


「そこまで元気になったのであれば地上に降ろせます。田上さん、バスラの様子をずっと気にかけてくれていたでしょう」

「行ってもいいんですか!」


 邦彦の言葉に千花は目を見開き、力強く何度も頷く。

 そのために体力をつけていたようなものだ。


「あれから数日経ち、バスラも復興が進んでいます。今なら安全に案内できますので」


 地上に降りることに関してマーサも了承を出した。

 邦彦との話が終わった後、千花は急いで外へ出る仕度を始めた。


「地上へはどうやって降りるんですか?」

「扉を管理している者がその場で開けてくれます。既に許可は取っていますので向かいましょう」


 邦彦の後に続いて千花は2階へと上がる。

 地上の扉の維持を全て任されているということは年中無休で仕事をしているのだろうか。


(寝ることも休むこともできないって辛そう)


 それこそ人間の為すことではない。

 ということは今から会う者も人間ではないだろう。


(むしろ人外だから色んな知恵があるんだろうな)


 2階のワープゾーンから左に4つ目。

 邦彦はそこで足を止めた。

 その隣がライラックの部屋であるため千花は少々複雑な気持ちを抱く。


「イアンさん、邦彦です。バスラへの道を開いてください」


 考え事をしていた千花ははっと我に返り背筋を伸ばす。

 また新しい機関の者と会うのだ。


(……あれ?)


 身構える千花だが、邦彦は一向に扉を開けない。

 そうしているうちに白い扉の隙間から薄緑の光が一瞬差し込んできた。


「さあ田上さん、ここを抜けたらバスラですよ。ああそうだ、薬飲んでおいてくださいね」


 バスラにいた時に飲まされた青黒い液体の薬を渡される。

 千花はそれを受け取りながら戸惑いの表情を浮かべる。


「中には入らないんですか?」

「僕も20年在籍していますが一度も部屋に入ったことはありません」

「今イアンさんって」

「皆がそう呼ぶだけで、本当に実在しているかもわかりません。もしかしたら扉の名前がイアンなのかもしれないですね」


 まさかの展開に千花は目を丸くする。

 存在しているかもわからない者もいるとは。


(いや、もう驚くのはよそう。これが機関の当たり前。郷に入っては郷に従え)


 千花は首を横に振って気持ちを切り替えると、激苦の薬を一気に飲み干し、邦彦に続いて扉を潜り抜ける。

 扉の先は、真っ白な霧の世界だった。

明後日水曜日はお休みします。すみません。

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