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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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この世界は厳しすぎる

短めです。

「マーサさん、入りますね」


 邦彦が一言告げて扉を開ける。

 マーサは初めに会った時のように書類の束の前で仕事をしていた。


「案内は終わったのかい?」

「ええ。少し無理をさせましたので、今日はこのまま安静にさせようと思います」


 医者のマーサが外に出ても問題ないと言ってくれないか。

 そう願っていた千花とは裏腹にマーサは納得したように頷く。


「それがいい。完治までには後2、3日かかるだろう。外に出るのはそれからだ」


 そんなに待っていなければならないのかと千花はうんざりとした気持ちを顔に表す。

 邦彦はマーサの話に頷いた後、千花に向き直る。


「そしたら僕は仕事に戻ります。田上さんは、今は何も考えないよう努めてください」


 それだけ言うと邦彦は足早に部屋を出ていってしまった。

 体が休まるまで側にいてくれると思っていた千花は期待はずれに肩を落とす。


「ま、何も考えずに休むなんざ今の巫女には無理だろうね」


 てっきり仕事に戻っていたと思っていたマーサが隣に来た時には驚いた。

 マーサは白い錠剤が入った瓶と水を差し出してくる。


「人体に損傷はないが、少し強めの睡眠薬だ。2粒飲んで横になりな。すぐ眠気が襲ってくるから。クニヒコには内緒にしなよ」


 千花は恐る恐る瓶を受け取り、錠剤を口に入れる。

 眠れずベッドで悶々としているよりかは薬で眠らされた方が精神的にいい。


「気分が悪いなんてことがあったらすぐ呼びな。無理は禁物だよ」

「はい」


 怖い人だと思っていたが、単にマーサも口数の少ない親切な人間なのかもしれない。

 そう思いながら千花はベッドに入る。


(皆、生きてて良かった。でもシモンさんはまだ起きない。私が、もっともっと、戦える人間にならないと)


 何もしないと余計なことを考える。

 強く目を瞑り、これ以上情報を入れないようにする。


(早く回復して、早く動けるようになってバスラに行かないと。この目で、安全を確かめないと)


 休めよう休めようとするが体は緊張している。

 本当に睡眠薬は効くのかと一度深呼吸をすると、一気に眠気が襲ってくる。


(あ、抗えない。確かに薬の効果あったんだ。これなら、すぐに、眠れそう……)


 仕事に集中していたマーサは背後から一定の息づかいを耳にし、振り返る。

 顔を強張らせていた少女は、今は力を抜いて夢の中へ入り込んでいる。


「無理させすぎなのさ。この世界は、子どもに厳しすぎる」


 千花を起こさないように小さく呟き、マーサは仕事に戻った。






 木々が燃え、草原が燃え、無数の死体が地面に転がっている。


『殺せ! 殺せ! あの方を誑かした女!』


 死体を踏みにじりながら歩く黒い悪魔達。

 剣を持ち、槍を持ち、刃向かう敵をなぎ倒していく。


『我らの安寧を脅かす神共。1人残らず殺せ。全てはあの方のために』


 命が消し去られていく。

 それも全て、自分がこの世界に産まれたがために。


『もうやめて。罪のない者達を、苦しめないで』


 檻の中で惨劇を見ていることしかできない。

 目の前で斬られていくもの、血がほとばしる世界。

 皆戦っているのに、自分は無傷で、それこそが罰なのだ。


『目を逸らすな。お前が私を拒絶した。その結果がこれだ』


 頭の中に悪魔の囁きが頭痛と共に襲ってくる。

 耳を塞ごうと悲鳴も囁きも収まることを知らない。


『私の元に来い。これ以上命を散らしたくなければ、この世界を捨てるまでだ』

『私は……』


 涙を出しすぎて目はもう開かない。

 それでも悪魔が目の前にいることはわかる。

 顔を上げ、ぼやけたその正体を見、手を出す。


『あなたとは、生きられない』


 手からは眩い光が溢れ、世界を包んでいく。

 全てを覆うその光は、彼女と共に悪魔を消していった。


『まだ、抗うか。破滅の道を選びし巫女よ』


 目の前から消えていった最愛の者を、悪魔は恨めしそうに記憶に留めた。

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