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光の巫女  作者: 雪桃
第6章 機関へ
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機関ポラリス

「機関って、いつも話に出る?」


 千花がすぐに聞き返すと、邦彦は1つ頷く。


「我々の本拠地、通称ポラリス。悪魔にこの世界を乗っ取られないようにするために創られた機関です」


 いつか来れることを願っていた場所だが、案外早く案内されたことに千花は驚きを隠せない。


「私、来ても良かったんですか?」

「ええ。本当はすぐにでも連れてきたかったのですが」

「やめた方がいい。まともな人間はいないからな」


 言葉を濁す邦彦の後ろでマーサは遠慮なく言い放つ。

 確かにバスラに来る前、興人にも同じようなことを言われた気がする。


「あんた、リンゲツに会ったんだろう? ああいう、人と関わることを得手としない奴らばかりだ」

「り、リンゲツさんはいい人でしたよ。呼んだらすぐ来てくれました」

「それが仕事だからだ。本性を暴いてなお同じことが言えるかな」


 マーサは千花の言葉を否定していく。

 2人の間に険悪な空気が流れる中、邦彦が仲介する。


「2人とも、落ち着いてください。田上さんもまだ聞きたいことがあるでしょう?」


 邦彦の声に我に返る。

 まだここが機関であることしかわかっていない。


「……わたしゃ別の所で仕事するから、ゆっくり話でもしておけ」


 千花が引きとめる間もなくマーサは再び部屋を出ていってしまう。

 千花はその姿に落胆したように肩を落とす。


「生意気なことを言ったから嫌われたんでしょうか」

「いいえ。むしろ好評ですよ」

「……あれで?」


 好評という意味を見失いそうになる千花に邦彦は何も問題はないというように笑う。


「さて、機関の説明を続けましょう。ここの外観は僕も知りませんが、予測としては飛行船と考えられます」

「安城先生も知らないんですか?」

「知っているのは機関長ノーズと古株の者だけです」

「安城先生は古株じゃないんですか?」


 千花の問いかけに邦彦は滅相もないと言うように首を横に振る。


「僕はたった20年しかいませんよ。一番長い人は900年以上在籍しています」

「900年!?」


 つまりこのリースの半分を生きていた者が中にはいるということだ。

 途方もない数字に千花は声を張り上げてしまう。


「に、人間?」

「ええ。どれだけ否定されようとも、彼らは人間です」


 戸惑う千花に邦彦は表情を少し暗くしながらも肯定する。


「機関に在籍している者は僕が知っている限りでは10人です。少ないですが、皆測り知れない強さを持つ者ばかりですよ」


 千花は話を進めていく邦彦に何とか平静を取り戻して聞く体勢を作る。


「私が知っている人だとマーサさんとリンゲツさん?」

「ええ。日向君と僕は機関に所属しているとは言え見習いのような名目なので数には入っていません。後シモンさんは一応機関の人間ではないので彼も含め、ですね」

「シモン、さん……」


 千花はまるでトラウマを思い出したかのように体を硬直させる。

 一番に聞かなければならないことをどうして忘れていたのか。


「シモンさん! 今どこにいるんですか!? 私言わなきゃいけないことがいっぱい……」


 千花は我を失ったように叫び、ベッドから立ち上がる。

 しかし筋肉が衰えた体は上手く機能せず膝が崩れる。

 邦彦が抱えてくれて転ばずに済んだ。


「逸る気持ちはわかります。でもあなただって軽傷ではないんです。落ち着いて話を聞いてください」

「……ごめんなさい」


 千花は心配とやるせなさを抱えたように表情を落とす。

 彼女の顔を見て邦彦はしばし考えた後、ふう、と一息吐いた。


「本当は機関の説明をしてから案内したかったのですが今のあなたに心の余裕はなさそうですね。ゆっくりでいいので立ち上がってください」


 邦彦が立ち、両手を差し出す。

 千花はおずおずとその手を取り、今度は慎重に足を地につけて動かす。

 まだ震えてはいるが、支えがあれば立てないことはない。


「内部を案内します。辛かったらすぐに言ってくださいね」

「内部って?」


 邦彦に体を支えられながら千花は部屋の外に出る。

 自分が裸足だったことに気づいたが、その時には邦彦にサンダルを用意してもらった。


「心配いらないかとは思いますが、僕からは離れないようにお願いします。内部は複雑な形になっていますので」

「あの、内部って、これのことですか?」


 千花が指したのは白い壁だった。

 左右に続く通路以外、目の前は傷1つない壁がそびえ立っている。


「白い壁の向こう側は吹き抜けになっています。3階構造になっていますがこの壁のせいで全体像はわからないです」


 以前興人から聞いた話を思い出しながら、千花は周りを見回す。

 先程邦彦に言われた通り人が少ないからなのか辺りは静けさに包まれている。


(ちょっと不気味かも……)


 邦彦が安全だと言っているのだから何も心配はいらないはずだが、心の準備もないまま見知らぬ土地に降り立つのは言いようのない不安が芽生える。

 千花ははぐれないように邦彦の腕を掴みながら1歩ずつ進んでいく。


「機関の方々は普段何をされてるんですか」

「基本的には仕事をしています。日向君から少し聞いたかと思いますが、空間同士を繋ぐ扉や記憶の管理を行っている者は無休で仕事をしなければならないので部屋にこもっています」

「苦痛は感じないんですか?」

「さあ? 本人達は楽しそうにしてるので気にしたことがありません」

「楽しそうに?」


 とんだワーカホリックか虐められることが好きな人なのか、千花には想像がつかなかった。


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