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光の巫女  作者: 雪桃
第5章 バスラ
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後は任せて

短めです

 部屋の中でうずくまっていたシュウゲツは何かに気づいたようにばっと顔を上げる。

 その足で迷うことなく窓を開ける。


「どうしたシュウゲツ。危険だから窓を開けるのは」


 落ち込んでいたシュウゲツの豹変に同じく部屋にいたアキヅキは驚きながら止める。

 しかしシュウゲツは外の変化に気づいていた。


「コウモリが、来ない。霧も戻ってる」


 シュウゲツの言葉にアキヅキも恐る恐る窓の外を見る。

 しばらく待ってみるが吸血コウモリが襲ってくることはない。

 それに、今までゴルベルの瘴気も混ざっていた霧も浄化されている。


「どういうことだ。魔王の威力が弱まったのか?」

「イツキ……イツキが」

「落ち着けシュウゲツ。この異変に気づいている奴が他にもいるかもしれない。お前も、仲間を呼んで様子を見てきてくれ」


 アキヅキが先に外に出ていく。

 シュウゲツはしばらく呆然と立った後、拳を握りしめて外へ向かう。


(イツキ、お願いだから生きていて)


 あの塔で、最悪なことが起きていないように、シュウゲツは祈ることしかできなかった。






 瓦礫だらけの広い部屋は、先程までの乱闘が嘘のようにしんと静まりかえっている。

 ただ1つ、少女の苦しい息づかいだけは響いていた。


(倒れちゃだめ。まだ、やることがある)


 千花は全身に汗をかき、意識も朦朧とする中、杖を支えにギリギリ立ち上がる。


「ゴルベルは……消えた?」


 千花はその足取りで唯月の元へ向かう。

 浄化した時確かにウェンザーズと同じ手応えはあった。

 唯月の首に手を置いてみると、しっかり息をしている。

 死んではいないようだ。


「良かった」


 だが安心してはいられない。

 千花はぐっと体を起こし、今度は反対方向へ歩く。


「シモンさん……シモンさん」


 千花は血だまりに体が汚れることも厭わずその場に座り、倒れているシモンに呼びかける。

 この出血量では息絶えるのも時間の問題だろう。


(早く、早く止血しないと。でも、どうやって?)


 こんなに重傷を負った人間の応急処置は知らない。

 助けを呼ぼうにも向かっている間にきっと──。


(嫌だ。こんな所でお別れは嫌だ。巫女の力なら、治癒くらいできてよ……)


 シモンの血だらけの手を掴み祈る。

 それしかできないことが死ぬほど悔しい。


「誰か……誰か?」


 絶望する中で千花は気づく。

 まだ1人、動ける者がいる。


「リンゲツさん、シモンさんを助けてください。まだ、この人を失いたくない」


 先程もシモンが叫んだ瞬間、魔法が発動された。

 千花は一縷の望みをかけてリンゲツを呼ぶ。


「お願いします。これ以上、苦しめたくない」


 千花は空に向かって頼み込む。

 今日会ったばかりの人間に従ってくれるか、賭けではあるが、今の千花にはそれしかできない。


「──目、瞑って」


 しばらく沈黙が降りた後、高い声が頭上から響いた。

 千花が驚きながらも言う通りにすると、隣から人の気配を感じる。


「リンゲツさん?」

「助けを求めてくれてありがとう。これで、私も動ける」


 千花がそのまま目を閉じている間にもリンゲツと思わしき人物は行動を始める。

 言うことを聞いていなければならないにしてももどかしい時間が流れる。


「リンゲツさん、私もお手伝い……」


 千花は痺れを切らし、目を開けて手伝おうとする。

 しかしその直前で杖が再び真っ二つに折れ、支えを失った体は床に倒れる。


(ゼーラが、時間を戻すって。こういうこと?)


 倒れたら最後立ち上がることができない。

 そう思っていたから頑張っていたのに。

 悔しそうに千花が顔をしかめていると、目の前に下駄を履いた足が見えた。


「後は任せて、あなたは寝ていて。光の巫女」


 リンゲツの顔が見えるギリギリで視界が霞む。

 意識を失う前に見えたのは、緑色の長い髪だった。


「よく頑張ったね」


 完全に気を失った千花の頭をリンゲツは優しく撫で、瓦礫だらけの部屋に1人立ち上がった。






「良かったですわね。巫女様が負けず、バスラも元に戻ったようです」


 ゼーラは霧が立ち込めるビルの屋上に座り、一件落着とでも言うように微笑んでいる。

 その手には水晶玉が握られている。


『ゼーラ、貴様、光の巫女に近づいたな』


 水晶玉の中には黒いフードを被った正体不明の何かが映っていた。

 何かはゼーラを責めるように言葉をかけるが、当の本人はどこ吹く風だ。


「だってここでやられたらせっかくのお楽しみがなくなってしまうでしょう? 光の巫女が現れるのも何百年ぶりですわよ」

『何のためにお前を自由にしていると思っている。勝手な行動を許す気はない』


 怒りを隠さない何かに対し、ゼーラはわざとらしく肩を竦める。


「わかりました。次は無闇に近づきませんから、鎮まりくださいな、お父様」


 ゼーラはこれ以上父の機嫌を損ねないように当たり障りのない返事をして、その場を後にした。


次回より新章です。

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