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光の巫女  作者: 雪桃
第5章 バスラ
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優勢か劣勢か

「あのガキ共よりは大分マシに動ける奴じゃねえか。褒めてやるよ」

(魔王に言われて嬉しくなる奴があるか)


 口角を上げてシモンに対峙するゴルベルは余裕そうな表情を見せている。

 一方のシモンは息を切らせていつ攻撃されてもいいように構えている。

 力の差は一目瞭然だ。


「ウィンドスラッシュ」


 シモンは魔法陣から風の刃を繰り出す。

 突風を巻き込んで巨大化した刃は人間であれば太刀打ちできない威力だが、ゴルベルは真っ向から迎え撃つように手を向ける。


「トルネード」


 ゴルベルが繰り出す竜巻はいとも簡単に刃を飲み込むと、そのままシモンに攻撃を仕掛ける。


土壁(マッドウォール)


 急いで土壁を作り防御したシモンは間一髪攻撃を逃れる。

 辺り一面に泥が散らばる。


「土くせえなあ」


 ゴルベルは被弾してきた土を払う。

 シモンが攻撃した右肩が動かせないのか片手しか使っていないが、それでこの強さだ。


(ウェンザーズの時は随分舐められてたから、オキト達でも攻撃の隙が見えた。だが今は違う。口調こそふざけているが、警戒は緩まらない)


 巫女を軽視する発言、だらけた態度、一見すればこちらの力など何も意味していないことを伝えているようだ。

 しかしこちらが攻撃するとすぐに反抗してくるため、警戒を怠っていないことがわかる。


(せめて一発、あいつを怯ませる攻撃さえできれば)


 シヅキと戦った時も苦戦を強いられたが、ゴルベル戦は比にもならないくらい隙が見えない。


(感覚を1つなくして……いや、短時間で何度も感覚を奪えば戻らなくなる。それに、身体強化したくらいでこいつとの溝が埋まる可能性は少ない)

「お待たせしました」


 1人で全てこなすのは不可能だ。

 シモンが何か策はないかと考えていると、タイミング良く唯月が隣まで来た。


「お前、チカはどうした」

「できる所までは回復させました。ただ、いえ、今は休んでもらっています」


 唯月が言いかけた言葉をシモンは何となく理解する。

 千花の心を傷つけないためにも、シモンは話を区切る。


「会ったばかりで悪いが、俺に合わせてもらうぞ」

「もちろんです」


 唯月は準備はできていると言うように血の結界を展開させ、シモンを守護する。


「僕の父を、どうか救ってください」

「ああ」


 シモンは防御を固めながら手に雷の剣を握り、ゴルベルに斬りかかる。


「うっぜえなあ。何人かかろうが何も変わんねえんだよ!」


 何をしても諦めず、むしろ闘志を燃やす人間に珍しくゴルベルが声を荒げながらシモンの攻撃を防ぐ。


「諦めるのは死ぬ時だからな」

「じゃあ大人しく死んどけよ!」


 ゴルベルはもう一方の手に風を集め、シモンの脇腹を狙う。

 しかしシモンは防御を取らない。

 結界が守ってくれることを知っているから。


「初めての共闘にしては中々いいコンビだな」

「うぜえうぜえうぜえ! 弱者は地面に這いつくばってればいいんだよ!」


 ゴルベルは先程までの余裕はどこへ行ったか、思い通りに事が運ばないことに癇癪を起こす子どものようだ。

 冷静を欠いた相手に負けるシモンではない。


泥の中の蔦(マッドアイヴィー)


 シモンは状況を見ながらゴルベルの足元に泥を生み出す。

 泥の中から伸び上がった蔦はゴルベルの腕を頑丈に縛り上げ、身動きを封じる。


「ああ?」


 ゴルベルが青筋を立てて蔦をちぎろうとするが、その前にシモンが剣で脇腹を切り裂き、腹を蹴り飛ばす。


「メテオ」


 よろめくゴルベルに間髪入れずシモンは鋭い岩を素早く繰り出す。

 ゴルベルは咄嗟に魔法を使わず素手で受け止めるが、無傷とは行かず深い切り傷が残る。


「うざってえなあ!!」


 痛みに悶えると言うよりも人間側が調子よく自分を攻撃していることにプライドが耐えられないゴルベルは髪を掻きむしりながら竜巻をシモンに放つ。

 しかし余裕のない魔法を威力も劣る。


血の槍(ブラッドスピア)!」


 シモンが反応する前に後ろで防御魔法を打っていた唯月が槍を飛ばす。

 槍は竜巻を巻き込みながらゴルベルの鳩尾を突き刺す。


「ごふっ」


 ゴルベルは初めて血を口から吐き出し、衝撃と共に後方へ吹き飛ばされる。

 竜巻により部屋中瓦礫まみれになった。


「お前、父親の体に容赦ねえな」

「ヴァンパイアはある程度の傷なら自分で修復できます。乗っ取られた父も理解してくれるはずです」

「ああそうかい」


 優しい表情をしているがそこはヴァンパイアだなとシモンは心の中で思う。

 否、ゴルベルに父親を乗っ取られた者としては冷静な判断だ。


(さて、ここまで重症化させれば魔王の魂が出るはず。チカも戦わずに済むか)


 シモンは瓦礫の方へ近づく。

 仮に魂が出てこなくともゴルベルの動きを封じなくてはならない。


「……か」


 シモンが強力な蔦を地面から生やし、ゴルベルの体に巻きつけようとする。

 その瞬間、ゴルベルの魂が出てきた。


「!!」


 シモンは禍々しいその気配に一瞬で身の危険を感じ後ろに飛びずさる。

 その間にも黒い魂は形を成していき、コウモリのように霧散しながら飛びかかってくる。


『こいつが駄目ならお前にすればいいか』


 コウモリになった魂はそのままシモンの体を乗っ取ろうとする。

 急いで魔法を撃つシモンだが、左右へ自在に飛ぶゴルベルに当てることはできず、目と鼻の先まで追い詰められる。


(まずい……!)


 魔王に体を乗っ取られれば戦える間がいなくなる。

 シモンが息を呑んだその瞬間、自分の体を押し退け唯月が魂の前に出た。


『……まあ、お前でもいいか』


 唯月が抵抗する間もなく、ゴルベルはその体に魂を捩じ込む。

 唯月の体は数度痙攣した後動かなくなる。


「おい! 正気に戻れ!」


 シモンが慌てて唯月を呼ぶが、次に顔を上げた時には既に優しい表情は消えていた。


「さあて、第2ラウンドといこうか?」


 唯月を乗っ取ったゴルベルに、シモンは顔を引き攣らせた。

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