伯爵令嬢の復讐は国を変える
なぐり書き上等、今回もさらっとどうぞ。
追記:6/21 第一王子→第三王子に変更しました。
「エリザベス・ゴルドー!貴様との婚約を破棄する!私の愛するミレーを虐め、更には殺そうとしたそ!いまここで断罪する!」
わたくしはエリザベス・ゴルドー。伯爵家の人間です。
1週間前、魔法学園の卒業パーティーの場で、この国の第三王子の婚約者の座を降ろされ、冤罪でしたが国外追放を言い渡されました。その罪とは第三王子の真実の愛のお相手、元平民のミレーヌ・ノイマン男爵令嬢を虐め害そうとした……。わたくしはそのようなことは一切していませんが、今まで仲良くしていたご令嬢達が証言したようです。彼女たちはわたくしを裏切って、何を手に入れたのでしょうか。ああ、あんなに仲良くしていたのに。悲しいですわ。
国外追放を言い渡されましたが、1週間猶予を与えられました。卒業パーティーで断罪されたあとすぐに伯爵家のタウンハウスへ戻り、これからのことを考えることにしました。タウンハウスにはこの国の物流を支えているお父様と、魔術に長けた一族出身のお母様、それにお兄様がいたのですが、伝達魔法で既に冤罪事件の詳細はご存知でした。
これからわたくしがやりたいことを家族に相談すると喜んで力を貸してくれると言ってくれたのは、とても嬉しかったですわ。その一言でわたくしはこの冤罪事件に関わった全ての人に復讐を誓ったのです。
まず、わたくしを裏切ったご令嬢たちへの復讐ですが、内容はシンプルですわ。その家、分家を含め行っていた、伯爵家からの融資の打ち切り、商会への出入り、冒険者ギルドへ依頼の禁止のみです。
ゴルドー伯爵家はこの国で一番の商会と冒険者ギルドを運営しており、国民の殆どが利用していますわ。潤沢な資金もあり、貴族の方のみにはなりますが、融資も行っております。ですので、それらを禁止するとどうなるでしょうか。子供のしでかしたことは親の責任でもありますから。
ふふ、命までは奪いませんわ。ただ今後の生活を改めないと……ねぇ?
次は殿下のご友人、改めお馬鹿なご子息達ですわ。こちらもご令嬢と同様に融資の打ち切りと商会、ギルドの使用禁止に加えてもう一つあります。ご子息達の家は大声では言えない黒いことをされているようですので、そちらを包み隠さず告発することにしました。わたくしがお伝えしても握りつぶされるだけだと思いましたので、こちらはお父様にお願いすることにしました。
内容ですが、権力のある公爵家は禁術と言われている魔法で国家転覆を図っている、宰相様の侯爵家は敵国と繋がっており、国の重要な情報を横流し、ある伯爵家はこの国で禁止されている人身売買、所謂奴隷を売り私腹を肥やしていること、またある大きい商会は違法薬物を売っているとか……まあ、これで関わっていた貴族達は芋づる式に罰を受けるでしょうね。膿は出し切りませんと。
最後は殿下とミレーヌ様への復讐ですが……こちらはわたくしが直接することになりました。けれどこれといって凝ったことは致しません。
「エリザベス、おまえのような罪人を国外追放だけにとどめてやった俺の優しさにいつまでも感謝するといい」
「あんたの代わりにアタシがこの国の王妃になって、みんなを導くわ!あははっ、あんたを踏み台にして幸せになっちゃってごめんなさぁい」
「ええ、そうですね。おかげで今日という素晴らしい日が迎えられたのですもの。ふふ、命ある限り感謝致します」
今日、わたくしは国外に追いやられるのですが、わたくしの最後の姿を見て優越感に浸るお二人が、わざわざ伯爵領までやって来ることは想定の範囲内でしたので、ありがたく復讐の場として使わせていただきます。護衛が少ないのは嬉しい誤算です。
お二人の言葉に心から感謝をすると、予め仕掛けておいた魔法陣を発動させます。わたくし、お母様一族の血を濃く引き継いだのか魔法が得意ですのよ。地面が淡く光り浮かび上がる魔法陣を見てお二人は慌てはじめましたがもう遅いのです。抑えきれない喜びに思わず顔が緩んでしまいました。
いけない、最後までやり遂げるのよ。魔法陣の発動が完了したのを確認して、わたくし自身の足元にも魔法陣を展開させます。
「おい、これはなんだ!王族の俺に何をする気だ!」
「わたくしがこのような目にあっているのに、あなた達が幸せになるなんて許せないですわ。殿下のように心が広くないですから。わたくしからの最後の贈り物です、受け取ってくださいね。あなた達二人に幸多からんことを。それではごきげんよう」
お二人に祝福の言葉をかけ丁寧にカーテシーをし、わたくし自身は準備期間で用意した場所へ行くために転移魔法を使い、その場を離れました。
あのとき、殿下達にかけた魔法はシンプルなものですわ。それは“他人の心の声が聞こえる魔法”。あのお二人にはこの復讐が一番だと思いましたの。プライドが高い方たちでしたので国民の批判を直接、寝ても覚めても聞いていれば良いのです。どんなに辛くても自害できないおまけも付けて差し上げました。
王族にこれだけのことをしましたが、家族に対してのお咎めはなかったようです。もしそのようなことがあればお父様は仕事を部下に引き継ぎ家族皆でわたくしがいるところに亡命するつもりだったと言っていましたわ。
その後、祖国では大半の貴族が罰せられ、この騒動の元となった王族は国民からの支持が得られず失脚、さらに貴族制度というものもなくなり、『共和国』になったようです。
「ベス、こんなところにいては風邪を引くよ、そろそろ戻ろう」
「旦那様、わたくしこれでも身体は丈夫なの。風邪なんてひきませんわ」
「では訂正しよう。私が寂しいから一緒にお茶でもしませんか、愛しの君」
「ふふ、喜んで」
転移した先で、冒険者ギルドで魔導師として仕事を請けた侯爵家の嫡男である旦那様と知り合いました。今は旦那様と娘と共に幸せに暮らしています。
元婚約者様方に幸あれ!
ありがとうございました。