【鴻門之会現代パロディ】公園之会
時代は現代日本。東京にヤンキーたちが多く存在していた頃。
東京都の中心部には、三大国と呼ばれる、池袋国、新宿国、原宿国というヤンキー集団があった。
しかし、その頃全体を統治していた新宿国は、ヤンキー同士の争いや、学校間でのトラブルなどで内乱が発生し、新宿国は壊滅状態にまで追い込まれた。
王がいない東京都は治安も荒れ放題であり、身の危険はすぐそこに待ち構えている状態となるだろう。そこで、なんとかしてこの東京都のヤンキーを統治する国を決めなければいけない。新宿国のてっぺん、もとい大王は、
「この新宿国に最初に入ったものをこの東京都の次の大王としよう」
という約束を各国と約束した。
この約束を受けた池袋国の王「項羽」は北から、原宿国の王「劉邦」は南から新宿国の入り口を目指した。二国以外の軍も血の気をたぎらせて、西から東からと責め立てていた。
しかし、池袋国の項羽が率いる軍勢は、400人。それに比べて、劉邦率いる原宿国の軍勢は100人。
普通に考えて、300人の差で挑むことは馬鹿であり、喧嘩をするのもとるにたらない。
項羽は、この東京都で一番の軍勢を持っている。項羽は自分が王となることを確信していた。
慢心している項羽の矢先、先に新宿国を突破したのは、劉邦の原宿国であった。
劉邦は新宿国の入り口にある第一公園に軍を置き、他の国の軍を抑えようとした。
項羽はすぐにその情報をSNSから聞き入れた。項羽は怒りを抑えることができなかった。項羽はすぐに400人の軍勢で第一公園を突破した。
さらにそこへ原宿国劉邦の左腕である「曹無傷」が「劉邦は王となろうとしている」とDMで密告があり、項羽の側近である「范増」も「劉邦は王になろうとしているだろう」と言ったため、項羽は劉邦を喧嘩で討つことを決心した。
以前、劉邦の側近「張良」に命を助けられたことがある、項羽の親友「項伯」はそのことを張良へ伝えた。張良から「今、項羽が怒りをたぎらせて、ここに向かってきている」と聞いた劉邦は、翌日の早朝軍を率いて、第二公園へ向かった。
第二公園で待ち構えていた、項羽の前に劉邦は跪き、謝罪して言った。
「項羽様。自分は決して下心があってここに参ったわけではありません。
項羽様に比べれば、部下のように身分が低い私が王だなんて、とんでもない。
そもそも、最初に新宿国になんか入れるわけがないんですよ。
自分はこれまで、項羽様と協力して新宿国を目指してきたつもりです。
項羽様は北から、自分は南から戦いましたでしょう。
それは、項羽様のお手をこれ以上煩わすわけにはいかないと思ったからなんですよ。
なのに、最初にここにたどりついてしまうとは、本当に自分は身の程知らずです。
しかし、ここで項羽様と再びお会いできるとは、思ってもいませんでした。
ですから、どこのつまらん奴が自分が王になろうとしているなどと口走ったのか…。
この東京区の王は当たり前に項羽様だろうが…。
この私と項羽様とのけんかをご所望みたいだが、やめといた方がいいと思いますよね。」
それを聞いて、項羽は言った。
「つまらん奴?お前、誰がこれを密告してきたのか存知得ないのか。
はっはっは。よほど脳が硬いんだな。お前の左腕だよ左腕。
曹無傷だよ。じゃなきゃ俺はここまでこんわ。」
項羽はその日、そこで劉邦をひきとめ、一緒に飲み(ジュース)会をした。
なぜかって?なんちゃって花見だよ。いい気分だろう、桜を見ているのを想像するというのは。
公園にブルーシートを引き、項羽、項伯、范増、劉邦の席に座布団が敷かれた。
項羽、項伯東を向いて座り、親友に次いで信頼する側近、范増は南を向いて座った。
劉邦は北を向いて座り、側近の張良は西を向いて控えていた。
東京都ヤンキーのしきたり、「宴席には喧嘩を持ち込むべからず」を守るように、彼らはお互いに
喧嘩を吹っ掛けないことを意識してこぶしを握り締めた。
しかし、范増だけは違った。范増は、項羽に「劉邦を討て」と目配せをしていた。しかし、項羽はそれを無視し続けた。あまりに反応がないので、范増は「劉邦を討て」とLIMEを項羽に三度もした。
しかし、項羽は既読無視を繰り返した。項羽は、「謝ってきた奴を無下にすることができない」タチである。一度は許してしまう心が優しいところではあるが、ここでは無用である。
しびれを切らした范増は、宴席を立ち自分の軍が控えている場所へ向かい、項羽のいとこである「項荘」を呼び寄せた。そして、決してそこにいる宴席の面々にばれないように言った。
「項羽様は謝ってきた奴を一度許し、無下にすることができないタチだろ?だから、項荘お前にたのみがある。お前は、あの宴の中に入ってSNOUで記念撮影をしろ。現代のしきたりだし、なんてことないだろ。
それが終わったら、項羽様にお前が得意な空手の型を披露することをお願いしろ。それで、座っている劉邦にうまいこと喧嘩を吹っ掛けろ。じゃなきゃ…わかるだろ?この軍はあの劉邦ってイキリやろうの手下だ」
項荘は范増の言う通りにしかがった。SNOUで記念写真を撮り、空手の型を披露するお願いをした。
「項羽様、今は喧嘩戦争のまただ中でなにも用意してもおりませんので、私の得意な空手の型を披露していそれを一つ楽しみしていただきたいのですが」
項羽はそれを聞いて
「いいぞ。お前の芸は俺も認めているからな」
と承諾した。ちなみに、項荘は空手で全国一位の成績をおさめている。
項荘は、こぶしを握り構えると、項伯も一緒になって向かい合わせにして構え、演舞をはじめた。
項荘はどうにかして一撃くらわしたいが、項伯が常に劉邦を守ってしまう為、項荘の目的を果たすことはできなかった。
そうしているのを見て張良は自分の軍が控えている公園の外へ向い、張良の親友「樊噲」に会った。
樊噲は、張良の緊迫した様子を見て「今日の宴会はどんな感じだ」と聞いた。張良は答えた。
「ああ。宴席は緊迫状態だよ。桜も咲いていないのにブルーシートを引いて宴を開き、空手をしているシュールな絵になってるのはさておき、項荘の空手の披露は劉邦様への喧嘩の吹っ掛けを意識して行っているものだ。劉邦様も肝は座っているものの、喧嘩っ早いのはヤンキーのタチそのものだ。大喧嘩になってもおかしくないぞ」
それを聞いて樊噲は、「それは差し迫った状態だな。俺が宴席に入ろう。俺はお前も大事だが、劉邦様の舎弟だ。状況をお前と劉邦様の両方と共にしよう」
樊噲はそう言って手にトゲ付きブレスレットをはめ、盾代わりの木の枝を持って公園の入り口に佇む項羽の舎弟の元へむかった。こんぼうを持つ番兵は樊噲を止めようとしたが、木の枝を斜めに構え、番兵の攻撃を華麗によけ、突き倒して中へ入った。
樊噲は、ついに宴会場へ着いた。西を向いて立ち、ブルーシートの外から項羽をにらむ樊噲の髪は怒りゆえに逆立ち、目は張り裂けるほどに見開いている。項羽は、いつでも喧嘩ができるように構えて尋ねた。
「お前は何者だ」
その言葉に樊噲の代わりに張良が答えた。
「劉邦の舎弟であり、私のダチの樊噲であります。」
項羽はそう言った、張良をちらりと見てから、樊噲をもう一度見直して言った。
「ふんっ。立派な男だな。こいつに、二リットルの炭酸ジュースをやれ。」
項羽の言葉で、項羽の舎弟から樊噲に二リットルの四つ矢サイダーが与えられた。
樊噲は、お辞儀をして立ち上がり、そのままサイダーを一気飲みした。ゲップもでないのである。
少し驚いた項羽は、今度は「こいつに焼いたボンレスハムをやれ。」と言った。
今度は、焼いたボンレスハム一つが樊噲の前に置かれた。
本家では、生の豚の肩肉が与えられるのだが、現代世の中生肉なんか食べさせたら問題だ。
樊噲は、この後持っていた盾をまな板代わりにし、刀で生肉をさばき、そのまま食らう。
だが、現代世の中盾も刀もない。というより、銃刀法違反である。
そもそも持っているのが木の棒。
故に、どうしようもない。
それを差し置いても、これを読んでいる人たちはたとえ焼いたボンレスハムでもそのまま切らずに食べることはいたことがある人は少ないだろう。
樊噲は、与えられたボンレスハムを切ることもせずかぶりついた。
項羽は「立派な男だな。まだ炭酸も飲めるか?」
樊噲は答えて言った。
「おれは、社会的にも身体的にも死ぬことなんか避けませんよ。こんなうまい炭酸もどうして辞退することがあるんです?ないですよね。新宿の王は虎、または狼のような方だった。何人もの舎弟もヤンキーたちも病院おくりだ。やり残した人がいないのか心配になってしまうほどでしょう?新宿国のあの王は『先に新宿を突破し、第一公園に入ったものが次の王だ』と言ったでしょう。今、劉邦様率いる私たちの軍が項羽様を抜き、ここに入り、私たちはここで劉邦様が到着するのを待っていたんです。ここに舎弟を置いていたのは、他でもなく何か非常事態があった時に対処をしなければいけないためです。こんなに優秀な指示をまわすことができる劉邦様のはずなのに、舎弟がふえることも、治められる地域が増えるわけでもなく、挙句の果てにはつまらん奴の密告のせいでこんな仕打ち。こんななら、新宿国の二の舞になるでしょう?俺ぁ、あなたのために言っているのですよ」
項羽は、樊噲の言葉に何もいう事ができなくなってしまった結果、「とりあえず、すわれ」と樊噲を促した。樊噲はそれに従って座った。それを見てすぐに、劉邦は「手洗いに行ってくる」と言って樊噲を護衛として、席を離れた。
劉邦は、手洗い場が公園の外についていることを知っていたため、そこへ歩いて行くふりをして、公園の外へでてそのまま宴席を後にした。あまりに帰ってこないと思った項羽は、下っ端の舎弟に劉邦を呼びに行かせた、そのころ、劉邦は張良、樊噲と帰りの道を急いでいた。
「今、宴席を後にしてきてしまったが、挨拶もしないで来てしまったな。どうすべきか」
と樊噲に聞いた。
樊噲は、「緊急事態でしたし、あのままあそこにいたらあの范増とやらに喧嘩吹っ掛けられて終わりですよ。そんな小さいことは気にしないでい大丈夫です。大きいことになりかねないんですから、小さい礼儀の有無なんか今は気にしている場合じゃないはずです。例えるなら、私たちは餌。あっちは調理側ですよ?なんで礼なんかしなきゃいけないんです?無礼なのはあっちですよ」といった。
劉邦は、その言葉でそのままさることを選んだ。
張良は、劉邦に「劉邦様、項羽様とお会いなさる時に何か持ってきたものはありましたか?」と聞いた。
劉邦は、「ああ、項羽はシルバーアクセサリーを好むと聞いたが、ピアスは開けてないと言ったから、ピアスに見える高級なイヤーカフをプレゼントしようかと思ってはいたんだよな。しかも、范増にこの上なく信用を置いているらしいから、ペアにしてプレゼントしようと思ってな。問答無用でキレられたもんだから、それもプレゼントできなかったんだ。張良、お前が行ってくるか?」と言った。
張良は、「御意」と言ってきれいに包装された項羽あてのプレゼントを受け取った。
このとき、劉邦の軍と項羽の軍は20kmくらいまで離れていた。
劉邦は、樊噲含め四人の舎弟を連れて軍へ戻ることにした。
張良が「ここを通れば本来の道だと20kmある道のりも10kmの道のりになります。自分が項羽の元へ到着する頃合いを見て、合流してください。」
と言っていったので、その道を通り劉邦はこっそりと軍へ戻った。
張良は、張良に跪き、謝罪して言った。
「劉邦さまは、これ以上飲むことも食べることもできなくなり、別れの挨拶さえもできませんでした。
そこで、挨拶もできなかった謝罪の証として、このイヤーカフをペアで使えるとおっしゃっておりました ので、お二人に送り届けて来いと命じられて、ここに来た次第であります」
項羽は「劉邦はどこにいる」と張良に聞いた。
張良は、「項羽様が劉邦に怒りを抱いていると聞き、抜け出して一人で帰りました。すでに軍に到着しているころでしょう」と答えた。
項羽は、張良の差し出したものを座席のそばに置いた。
それに対し、范増は張良の差し出したものを床に投げ捨て、足で踏みつけて壊して、
「ふん、張良。お前は相談するに足りない。王になるのは項羽様だ。その地を奪うのは、まぎれもなく劉邦 だろ。そうすれば俺らは劉邦の舎弟だ。」
そのころ、劉邦はすでに軍に入り、曹無傷が項羽に密告した罪をとがめていた。
劉邦の怒りに触れた曹無傷は直ちに追放された。




