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第37話 ホテルを作ろう


「オレ達が保有するダンジョンを、ですか?」


「そうだ。どうだろうか?」


 思わぬ皇帝からの提案にオレは僅かに怪訝な表情をする。

 こちらとしては別にそれでも問題はない。

 しかし、なぜオレのダンジョンを? いや、そもそもなぜ帝国側がオレがダンジョンを保有していることを知っているのか。

 そうした疑問が沸き立つが、ここで拒絶すると帝国との仲をオレ自ら閉ざすことになり、ひいてはそれがオレや王国側に取って帝国との共存の道が絶たれることになる。

 それを考えれば下手に拒絶するよりも、ここはカイネルの提案を受け入れるべきだ。


「分かりました。帝国側がそれをお望みでしたら、ダンジョンの共有を許可いたします」


「感謝する。ホープの領主よ。君は想像以上に話のわかる人物のようだ」


 そう言ってカイネルは僅かにオレに頭を下げ、後ろに控えていた帝国兵達を呼び出しなにやら打ち合わせを始める。


「……トオル様。よろしいのですか?」


 と、皇帝が兵士達と話している隙にセバスがオレの耳元で問いかける。


「構わないさ。仮に帝国がオレ達のダンジョンを探索したとして、それほどこちらが不利になるとは思わない。仮にそうした場面が起きたとしても、そのときは改めて対処すればいい」


「……はっ、確かに」


 オレの返答に納得したようにセバスが下がる。

 確かにセバスの心配も最もだ。

 考え過ぎかもしれないが、あの皇帝が何らかの策や思惑を持っているとするのなら、注意するべきだが、すでにオレが保有するダンジョンはクラトス達によって五階層を突破し、あのダンジョンは正式にオレの街ホープの住民のものとなった。

 このため、ホープ側が許可すれば帝国側もダンジョンに入れる。

 そして、もし帝国側が何らかの怪しい行動を取れば、すぐにダンジョン共有を打ち切ることも出来る。

 とはいえ、それは出来るだけしたくない。

 お互いの信頼関係もそうだが、先にも言った通り、オレはできるなら王国帝国両方と和平なり同盟を結びたいと思っているのだから。


「では、ホープの領主よ。早速で悪いのだが、我々帝国兵と冒険者あわせて五百人ほどそちらのダンジョンへ探索に行かせてもよいだろうか?」


 そう言ってカイネルは背後に控えさせた軍勢の中から数百人ほどを前に出し、それをオレに確認させる。

 なるほど。そのためにこの大人数でここまで来ていたのか。

 この軍勢は戦闘のためではなく、最初からオレの街のダンジョン攻略のために用意された部隊ということか。


「ええ、構いませんよ。ただいきなり五百人だと色々と後がつかえると思いますので、まずはオレの街のギルドがダンジョンまで案内しますので、最初は五十人ほど中に入って、徐々にダンジョン内を探索する部隊を増やしてもらう方向でよろしいでしょうか?」


「ああ、構わないよ。こちらも初めてのダンジョンにいきなり全部隊で向かうつもりはない。それから彼らはダンジョン攻略のためにしばらく君の街に厄介になると思うが、構わないかね?」


 カイネルの提案にオレは僅かに迷う。

 無論、街に厄介になるのはいいのだが、人数が人数だ。

 五百人ともなるとホープにある宿やホテルなどで足りるだろうか。

 今は王国など他からの旅人や冒険者で溢れている状況だ。やはりこれは早急に新しい宿や施設を作るべきか。


「それは構いませんが、五百人も宿泊する施設となると用意するのに時間がいります。少しだけその時間をもらっていいですか?」


「ああ、構わないよ。なんだったら彼らは野宿でも構わない。こちらもそのつもりでテントなり宿泊道具は用意してきた」


 そう言って後ろに控えた兵士や冒険者と思わしき人物達が背中にからっていた荷物からテントや野営道具を取り出す。

 準備がいいな。とはいえ、さすがに帝国からの使者を野宿というわけにもいかない。

 オレは「なるべく早く用意します」と伝えて、セバス達と共に一度街に戻ることにした。


◇  ◇  ◇


「さてと、とりあえずホテルをいくつか作っておかないとな」


 そう言ってオレは財布から一円玉を複数取り出す。

 これまでは街の住人達の自立や発展を促すため、あえてオレが新しい建造物を作るのは避けていたが、さすがにこの状況ではそうも言っていられない。

 オレは街の外れに一円玉を放り投げると、そこに高さ五十メートルにもなる巨大な建造物。

 豪華絢爛なホテルを建設した。


「よし、あとは宿もいくつか作っておくか」


 帝国の兵や冒険者を泊まらせるならこのホテル一つでも十分だろうが、今後王国や帝国からも多くの旅人、冒険者、使者が来るのであればホテル街のようなものは作っておいたほうがいい。

 ついで温泉付きの宿など、それこそ観光目的の施設もここで作っておこう。

 そう思ってオレは複数の一円玉を同時に投げる。

 すると、そこに次々と旅館、温泉、宿、お土産屋、様々な施設が生まれる。

 先程までは閑散とした一角が一瞬にして、観光客用のホテル旅館施設となった。

 うーん、久しぶりに使ってみたが、やっぱこの神の通貨はすごいなー。

 それを隣で見ていたカテリーナさんはオレ以上に驚いた様子であった。


「す、すごいです! トオル様! 今のは一体どういう魔法で……!」


「あ、いやまあ、ちょっとしたスキルみたいなので詳しい話はあとで」


 そういえばこの人にはまだ説明していなかったなと思いつつ、キラキラとした目でこちらを見るカテリーナさんにオレはなんとかそう誤魔化すのであった。


◇  ◇  ◇


 トオルがカイネル達から離れ街へ向かってからしばらく。

 平原で待機していたカイネルの元に小柄な影がどこからともなく現れる。


「カイネル様」


「カエデか。それでどうであった?」


 カエデ。そう呼ばれたのは全身を黒装束でまとった、いわゆる忍者のような姿をした少女であった。

 顔には黒いマフラーを巻いており、その素顔ははっきりとはわからなかった。


「はっ、先ほど例の領主を観察しておりましたところ、なにやら奇妙な通貨を使い、それが地面に落ちると同時に次々と奇妙な建造物が生まれました」


「ほお?」


「見るにあれは宿やホテル。それに温泉なる湯ではないかと。おそらく我々が宿泊する施設を一瞬にして創造したと思われます」


「ば、バカな!? いくら魔術やマジックアイテムとはいえ、そのような建造物を一瞬で生成などできるはずがない! 何かの間違いではないのか!?」


 忍びの報告をすぐ傍で聞いていた帝国の兵が思わず声を荒げるが、しかしカイネルは落ち着いた様子のまま頷く。


「いや、その報告が本当なら逆に納得だ。確かにそのような能力がなければ、この場所に街はおろかダンジョンが出来るはずもない」


「はっ」


 忍びからの報告に納得するカイネル。

 そして、その瞳は目の前のホープでも、ましてダンジョンにも向かっていなかった。


「謎の通貨か……」


 呟き、カイネルは策謀と陰謀に満ちた感情をその顔に映した。

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