Ep.3 彼はモテた
僕は僕だ!
俺は、北海道にある普通の高校に在学している、青春中の男子高校生だ。
どさんこだよ?雪ん子が住んでるんだよ?(たぶん)
大雪山には、イエティやビッグフットが住んでいるに違いないと思ってる、生粋のどさんこ高校生なんだよ?
まあ、そんな俺には、思春期の男子らしく、好きな女の子がいるんだ。
入学したての頃に好きになった子がね。
その子の名前は、佐藤奈々。
大きなお胸を持っていて、綺麗な黒髪をふんわりボブにしている愛嬌のある子だ。
言い換えるのだとしたら、ハムスターみたいな可愛らしさと、カンガルーのような戦闘力を併せ持った最強の個体、とも言えるだろう。
まあ、そんな彼女なので、学校の中でも当然凄い人気があるんだ。
だから、彼女に告白してはフラれ、告白してはフラれる男子が、入学したての頃は多かったみたいだ。
まあ、俺は告白しなかったけど。
いや、だってね。
告白したところで、俺なんかにオーケー出してくれるわけないじゃん?と。
俺の前で散っていった男どもの中で、何人も俺よりも容姿も心もイケメンの奴が居たってのに、それでもオーケーが出なかったんだから、そりゃあ、告白とか、しないよね。普通。
まあ、そんなわけで、見かけたら彼女のことを目で追っかけてみたり、むしろ自分が勉強に追われたりとかしながら学校生活をエンジョイしていたりして。
まあ、気付いたら、なんかよく分かんないけど、高校二年生になってたんだ。
驚きだよね。
彼、一ノ瀬悠は、そんなことを心の中で独りごちていた。
高校の3年間という時間の三分の一を適当に浪費し、将来のことから何度も目を逸らして、今この瞬間を必死に楽しもうとする普通の男子高校生だ。
その普通の男子高校生は、今日もいつものように学校から家に帰っていた。
彼はノー部活を信条に部活に入ることなく、颯爽と家に帰っては、勉強をせずに帰宅部仲間と家の中で遊んで楽しんでいた。
そして今日も例に漏れず、彼はその友達と一緒に帰っていて、今日はなにするー?だの、新しい漫画でも買いに行くー?だの、とりとめもない話をしながら、帰路を歩いていた。
「悠、今日発売のゲームあるから、ちょっと一緒に寄ってかない?」
彼の帰宅部仲間兼幼馴染である、鈴木結衣は不安げに彼に聞く。
「ど、どうかな…」
結衣は、長髪を一括りにして纏めてるポニーテールガールである。
勿論、例に漏れず美少女であり、学校内でも人気があるのだが、いかんせん、その強気な瞳と長身の彼女から発せられるツンデレオーラにて、人を寄せ付けないところが告白できない理由の一部分である。
ただ、それ以上に残念な部分があり、前述した通り、彼の幼馴染という属性が彼女に男を寄せ付けないもう一つの大きな要因である。
もう、なんか会話や仕草なんかを見ているだけで、あ、これテンプレなヤツや。と悟る男子が多く、一ノ瀬を呪わんとする男子達がかなりの人数でいるのだ。
え、悟る内容?それは、ほら。悟ってください。
では、取り敢えず。
一ノ瀬悠に呪いあれ!そこ代われ!
「そうだなぁ、まあ、暇だし良いよ。丁度通り道にあるし」
「やたっ!」
彼女は小さな握りこぶしを作って、とても幸せそうな雰囲気を纏った。
数刻が過ぎ、帰宅への道すがらに存在する“大きなゲーム屋”というゲーム屋さんに足を運んだ彼らは、肩を並べて目当ての商品を物色していた。
「ーん、何処にあるんだ?」
「あ、あそこじゃない?ほら、“新入荷‼︎”って大きく書いてるとこ!」
そう言って結衣が指をさした先には、なるほど確かに。
天井からぶら下がっている一枚の紙に、大きく、新入荷‼︎と書かれている。
早速彼らはその目印に向けて足を進め、目的のブツを手に取る。
「ふぁー。これこれ!これが欲しかったのー!」
「って、やっぱり乙女ゲームかよ。男ばっかいて、なんか面白いのか?」
結衣が手に取ったゲームのタイトルは、“男子校に私が転校!?~高校最期の3年目~”というシリーズ物のゲームである。
昨年に、“男子校に私が転校!?~ドキドキの男装生活~”というタイトルが発売されて以降、そのタイトルから滲み出るドキドキな内容と、グラフィックと声が高評価を受けた。
それ自体はシリーズではなく、それ単品で完結するものであったが、続編が欲しいという購買者の声が多かったので、新しい舞台を迎えて、シリーズ物として新たに制作したものが、コレなのである。
「ま、どうでもいいか。んじゃあ、さっさと買って帰らないか?」
「そだね。ありがと。付き合ってくれて、さ」
どうやら、彼らは会話を終えたらしい。
悠と結衣が肩を並べてレジに向かっていく。
「ところで、さ。悠、明日ひま?」
「どうしたんだ?」
「いやー…ええっと、遊びに行ってもいいかなってさ。ほら、明日は土曜日だし。今の内に約束しておこうかと」
「あ、そーゆーことね。まあ、分かった。いつでも来ていいよ。特に準備することもないし」
「じゃあ、昼過ぎに行くね!」
結衣はそう言うと、丁度着いたレジの前に立ち、例のブツを店員に渡す。
いらっしゃいませー。
これ、お願いします。
分かりましたー。
ッピ。
6580円です。
それじゃあ、7080円を。
はいー。7080円のお預かりで…はい、500円のお釣りです。レシートは要りますか?
ああ、…はい、お願いします。
分かりましたー。…ありがとうございましたー!
悠はそれを見届けた後、結衣の近くに駆け寄る。
「よし、帰るか」
「そうだね」
結衣は、またもや小さなガッツを作った。
お?これってもしかして、最後まで一緒に帰るパターン?
ラッキー。
片方はそんな思いを秘め、店から出る二人。
「ねえ、明日何やる?」
「え、ゲームじゃねぇの?」
「え、折角集まるのに?…それじゃあ、一緒に対戦ゲームしようよ!ほら、あれ、なんとかパーティってやつ」
「ああ、ウインパーティね。四人で熾烈な争いを繰り広げ、その中で最強のミニゲーム王者を決める、あの殺伐としたやつ」
「そうそう、それそれ。それでね…」
時刻は午後5時。
太陽がギリギリ頑張って大地を照らしている時間だ。
そんな、明るいのに仄暗い光を背に、彼らは二人肩を並べて帰路を歩く。
その途中のことだった。
「うわっ」
咄嗟に僕は声が出た。
悠と結衣を観察していたら、突然地面が光りだしたのだ。
どどど、どういうことだ。
今まで、地面が光るなんて聞いたことないぞ!
「おい、どうした、ヒロト!」
「え、ヒロト…その光は…?」
自分を呼ぶ声を聞いて咄嗟に顔を上げると、少し前を歩いていた、悠と結衣が急いでこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「おい、ヒロト!掴まれ!」
悠がそう叫ぶと同時に、腕を突き出してくる。どうやら、掴まれということらしい。
というか、何故に僕はこんなに冷静な行動がとれているのだろうか。
これは、あれか。
俗に言う、走馬灯、というものではないだろうか。
だから、僕は至って冷静に。
そう、僕はあくまでも冷静に、彼の腕を掴んだ。
「おまッ、引っ張りすぎだ!」
僕はどうやら悠の腕を強く引っ張ってしまったらしい。
僕は悠を引っ張れるほどの力を持ってはいなかった筈だが…ああ、これは、俗に言う、火事場の馬鹿力、という奴ではないだろうか。
僕は何てことをしてしまったんだ。
これでは、悠に助けてもらうどころか、悠を巻き込んでしまったではないか。
そして、悪いことって立て続けに起こるものだ。と、僕は沈着な頭で考える。
「悠!ヒロト!大丈夫!?」
結衣が遅れて駆け寄ってきて、光っている地面の内側に入る。
しかしこれも、仕方ないのかもしれない。
僕が悠を強く引っ張ったせいで、悠が僕を押し倒した形になってしまった。
心優しい彼女のことだ。どこか体を地面に打った?と、心配をして近くに寄って来たに違いない。
「うん、大丈夫だよ、ありがとう」
僕はそう言いながら、未だ継続している馬鹿力を使って無理矢理体を起こす。
悠は、うぉっと声を上げて僕の腕にしがみついた。
どうやら、また力を入れすぎたみたいだ。
そうして、僕が起き上がったと同時に、地面の光の輝きが更に増した。
どうやら、抜け出すには時間をかけ過ぎたみたいだ。
だんだんと、僕の意識がどこかに飛んでいくのを感じる。
これは、まるで、寝入る寸前の感覚のようで。
それでいて、後戻りのできない不安と、非日常に向かうような興奮が、僕の中を渦巻いた。
そうして、僕の意識は途絶えた
先にカキコミを。
誤字脱字報告ありがとうございます!