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Ep.2 国王アルベル

真面目艮鏡は次回から取り外します。


国王アルベルは一晩中迷っていた。


はたして、このまま異世界の者達を迎え入れても良いのだろうか。

我らが人類の滅亡の危機が迫っているとはいえ、何も関係の無い、異世界の住人を呼び出してもいいのだろうか。

もし、その異世界の者に、家族や親友、親戚がいたならば、戻る事が出来ないと知った時に抱えるだろう絶望を取り払う事が出来るだろうか。


 ◇◇◇◇◇


彼は、決して賢王と言われる人物ではなかった。


「国王たる者、非情であれ」

彼は幼き頃から、国王であった彼の父親に、そう教えられて育った。


「一人よりも百人を選びなさい」

彼は幼き頃から、国王から教育係を任命された教師に、そう教えられて育った。


「反乱の芽は早々に潰せ」

彼は幼き頃から、国王の側近の口癖であったその言葉を聞きながら育った。


「お前は特別なんだよ」

彼は幼き頃から、自身の母に、そう言い聞かせられて育った。


彼自身、子供の身であった事もあって、これらの言葉は正しいと心から信じて疑わずに育っていったのだ。


15歳の、成人の儀の前までは。




成人の儀とは、宗教施設である教会が主導して行う儀式である。


15歳になる子供が、自分たちより小さい子供たちに施しを作って与えたり、神官たちが主催のお祭りを開いたり、と、教会毎にその内容が違う、地域色溢れる小さな催しが午前中に行われる。

これは、教会に祀る唯一神へ送るメッセージのようなもので、私たちは豊かに暮らしていますよ、というアピールをするための神聖な儀式である。

そして、それが見事に唯一神へ届けば、一年は消えることの無い巨大な聖域が天幕のように町を覆い、実体を持たない光の粒が虹色に輝きながら人々に加護を与えるために、ゆっくりと大地に降り注ぐのである。


老若男女問わず楽しめる催し。

そこには、人々の笑顔と唯一神であるメイプルの加護で溢れた、何物にも代え難い至福のひと時がある。


その時が過ぎて午後になると、教会には成人になる15歳の子供たちが続々と集まってくる。


神官は、子供たちがある程度教会に集まると、神に捧げる祝詞を読み上げる。

そこには荘厳な空気が存在し、子供たちは眠る事なく粛々と神官の祝詞を聴くのだ。


その祝詞の意味がわかる子どもは殆ど居ないが、祝詞に反応して強かになってゆく、唯一神が持つ聖なる力である神力を肌で感じ取り、少しずつ心が惹かれていく。


……………


神官が祝詞を唱え終わると、子供たちはふと我に返って、違和感を覚える。

そしてそれが、唯一神の神力によって与えられたということと、その違和感の正体も、本能的に感じるのだ。


それが、魔力である。


魔力が与えられた子供たちは一人づつ、神官にその力の使い方を教わる。

というのも、一人一人得意不得意があるものの、祝福を与えられた全ての者は、ある程度の力を等しく扱えるので、生活するのに便利な魔法を教わるのである。


こうして子供たちは魔法を使えるようになるのだ。




後の国王となる、彼、アルベルも、例に漏れずこの成人の儀を受けることとなった。

そしてそれが、彼の人生の最大の転機となるのだった。


 ◇◇◇◇◇


うひゃーーーーー!


その日の少年アルベルは、朝から興奮して胸を躍らせていた。


勿論、彼は次期国王であるので、この興奮は心の中に仕舞っている。

他人に、自分の醜態を晒すわけにはいかないのだ


ところで、彼は何故そこまで興奮しているのだろうか。

それには、彼なりの理由が存在していた。


成人の儀という、一生に一度しか体験できない大イベントであるのも一つの要因であるのだが、もう一つ、大きな要因が存在した。

それは、初めて自分と同い年の人と会うということだ。


昔から国王になるための教育しか施されず、会うのは自分よりも大きな大人たちのみ。

その昔、世界には自分より大きな人しか居ないんだ、と勘違いを起こしてしまう過去がある程に、外界との交流が無かったのである。


出会いの縁が無かった、と言うべきか、単に運が無かった、と言うべきか。

少年アルベルは、自分と同じ時を生きる“他人”という存在に、強く、心惹かれていたのだった。


だからこそ、なのだろう。


ーー教会総本部である、王国中心部に位置する聖地ミンパラにて。


午後になって、黄金の馬車に乗ってここまでやってきたアルベルは、目をまん丸にして目の前の光景を見ていた。


そこでは、平民町人貴族関係なく、教会の奥に祀られている唯一神メイプルの偶像を前に、皆跪き、顔を上げて手を合わせてお祈りをしていたのだ。


彼は小さい頃から、平等を目にした事が無かった。

寧ろ、平等というものは、存在すらしないのだと。そう思っていたのだ。

しかしそれは、彼の境遇を考えれば仕方の無いことなのである。


王族の間に長子として生まれ、小さな時から黒い部分に晒されて育ったのだ。

それが当たり前の世界で、それが可笑しいことだと、誰が思うだろうか。


そう。思うはずがないのだ。


だからこそ、その、“身分”という人々を明確に分ける線引きがありながら、皆等しく神の前に跪くその光景を見て、彼の世界に罅が入る。


それは、刹那のことだった。

しかしその、一秒にも満たないその時間に、彼の世界に新しい光が射し込んだのだ。


 ◇◇◇◇◇


それからである。


彼はこの後二十年後の三十五歳に、国王となる。


その働きぶりは、歴代の国王達と大した差は無い。

国内の治安維持に政治、他国との貿易など、特に映えることの無い国王であった。


しかしながら、二点ほど、目立つ功績を残している。


一つは、優秀な者ほど出世がしやすくなる成果主義の導入を各方面に急かせたことである。


これは、彼の幼少の記憶が深く関係している。


あの時入った罅は、彼の人生に大きな影響を与えた。

国内の上層部に蔓延る黒い部分を見て。

成人の儀を受けた後に通うことになる高等学校にて、同年代の自分よりも優秀な人を見て。


彼は、国王になるその時まで、何度も考え、悩んでいた。

それは、現在の身分制度についてである。


これがあるから、国は発展を妨げられるのではないか。

これがあるから、黒い部分は深まりを見せる一方なのではないか。


その想いは日に日に積もり、彼が国王となった後、身分制度の改革を行った。


そしてこの改革は大成功を収めた。

国は短時間で成長し、考えられないほどの繁栄を成し遂げる。


手に取る武器は、昔と同じ値段で昔の数倍の威力を発揮する。

普段使う魔法技術は、昔の数十倍の効率で発動できるようになった。

生活力は、貧困層が殆ど無くなるほどに成長した。

他にも、この制度によって様々な成長を成し遂げた。


これが示すことは、彼の考えが正しかったということに他ならなかった、ということである。

能力のある者が出世が出来ない、という状況にいち早く気付いた彼は、紛れもなく天才であった。

しかし、それは国王の才における才能、即ち状況判断の才能であり、寧ろ、それ以外の才はからっきし無かったようだ。


そんな彼だからこそ成し遂げられた改革。


そして、だからこそなのだろう。


彼が、魔王軍が復活した、という報せを受けたのは、改革から四十年。

御年80歳になった彼に、最後の大仕事がやってきた。


 ◇◇◇◇◇


国王アルベルは、目を手で覆い隠していた。


王城にある大広間の端に彼は居た。

目の前では、とある儀式の準備が着々と進められている。


彼は、これから行う、自身の愚行の結果を間近に見て、二の足を踏んでいた。

いや、傍目から見れば、それは愚行とは全くかけ離れたものであり、英断とも呼べる行為である。

しかし、彼の心の主柱となっているものが、それを認めるのを許さないのだ。


だからこそ、彼は自身の決断を後悔しているし、後戻りできない状況に仕方がないんだと思うようにしている。


「アルベル様、準備が全て整いました。どうか、ご指示を」


彼の隣に控えていた側近の一人が、国王に指示を仰ぐ。

それを聞いて、覆っていた手を下ろしたときに見えた彼の目は、決意がこもっていた。


「では、術式の展開を開始しなさい」


その言葉を待ちわびていたように、地面に描かれた術式に光が帯びる。

青、赤、緑、黄、黒、白の様々な色の魔方陣に光が灯り、この大広間の中心部に強大な魔力が集まっていく。


さて、これ以上嘆いていても仕方がない。

彼は気持ちを無理矢理切り替える。


そのとき、術式が全て展開され、光が室内に溢れかえっていた。


…さあ、いよいよだ。


彼が心で呟くと同時、光の奥に三人の人影が現れる。


シルエットから見て、一人は長身の女性で、もう一人はスラっとした細身の男子。そしてもう一人は少女であり、その男子にぴたっとくっ付いていた。


強い光が少しずつ収まり、完全になくなった頃に、アルベルは彼等に話しかける。


「ようこそ、異世界の者達よ」



 ◇◇◇◇◇



こうして、勇者達の物語は始まった。


先に書いておきますね。


誤字脱字報告ありがとうございます。

とても感謝しております。

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