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2 ミリスvsアレン 開戦

その姿は暗がりにかき消えるようだった。

小柄で細身。目にかかる黒髪を払いもせず、悠然と立ち尽くし、優しげに笑って妖しく眼だけを光らせる様子は、さながら闇で獲物を狙う猫のようだ。

「のこのこと僕のテリトリーに来るなんて、よっぽどのバカが来たと思ったら、案の定バカでしたね」

 悪魔の一人――アレンだった。

 うっせー黙れガキ、と湊は吐き捨てる。

「気色悪ィ悪趣味なガキが」

「悪趣味? あなたの横にいる女のほうがよほど悪趣味なんですが」あちこちに穴の開いたジーパンを抑えながら、大げさにケタケタと笑う。

「それよりその男性を僕にくれませんかね。そちらの方には荷が重いでしょう?」

 悪辣な物言いで、アレンは嘲るようにミリスに目を向ける。

「いやだね。これは俺が取った獲物だ」

 湊は男をその場で落とすと、片足で腹を踏みつけ睨む。「苦労して取った獲物、だ」

「そうですか。いえ、拒否するなら構いませんよ。無理やり奪うまでなんでね」

 その眼に迷いは見られない。それはそうすることが当然といったようなものだった。

「仕方ねー。じゃ、あとよろしく」

 湊はこちらも当然というようにミリスの肩をたたく。

「は? 何よここまで出しゃばった癖に最後に逃げるわけ?」ミリスは置かれた手を払って憤慨した。

「逃げるわけじゃねーよ。ただ化け物の戦いに付き合ってるヒマはねーし」

「何よ、それ」似つかわしくない呆れた顔でその〝化け物〟は失笑した。「化け物はないでしょう」

「それに素手で倒せるわけじゃないんだろ? 一応、悪魔なんだし?」

「――仕方ないわね。後で子どもを連れてきなさい。穢れのない、純清な子どもを」

 湊はヒューッと派手に口笛を吹いて、手を叩く。

「子どもの喰い放題ですか。了解です、お嬢様」

ミリスは殺すわよ、と呟くと目の前の優男に目を移す。

「とりあえず時間を止めましょうか」

 湊が一歩後ろへ下がったのを見て、ミリスは自然な仕草でゆっくりと目を閉じる。そして数秒後眠りから覚めるように静かに目を開けた。

 その間に消えた木のざわめき。微かな風も、うだるような暑さも消えた半透明で静謐な空間の中に、対峙する二人だけが突然放り込まれる。

「その男にいいように操られていますね。時を司る悪魔なのに」

 ミリスによって周囲のすべてが動きを止めた世界。その空間の中で、二人の間に交わされる視線だけが熱を持つようだった。

「うるさいわ」

「わかっていたんでしょう。僕を殺さないといけないって」

「そうね。あなたは私にとって邪魔だもの」

「だから口車に乗せられた、と」

「そういうわけでもないけど」

「悪魔で殺し合いなんて、誰が始めたんでしょうね」

 互いの言葉の投げ合いに、アレンは突然、独り言を呟きはじめる。

「本来は七人で均衡が保たれるはずだった悪魔のバランスを崩したのは誰なんでしょうね。すべての原因を作った裏切り者……。

しかしそれを考えることは無意味。殺し合いは始まった。そうでしょう?」

そう言うとアレンは体勢を低くし、ミリスと動きを止めて固まる湊の二人を見据えるようにした。

「彼に危害は加えませんよ。ただ、あなたには死んでもらいましょう。異端児(イレギュラー)である、あなたには」

 次の瞬間、何の前触れもなく彼の手に剣が握られる。鮮やかな色彩を放つ、大きな鞘に収まった剣。アレンは自分の身長とそこまで変わらないほどのそれをゆっくりと引きぬき、その重さなど全く感じていないかのように悠然と眺める。そして一撫ですると、ひとりごちる。

「これ、何の剣だと思います? かのアーサー王の伝説の聖剣エクスカリバーですよ。魔法は使えるのかな」

 剣に装飾された宝石が暗闇で怪しく光る。

「歴史への介入――またあなたはそうやって時間をいじくって余計な介入をしているのね」

「余計? 僕は悪魔ですよ。何を決めようと僕の意思次第でしょ?」アレンは大げさな仕草で肩をすくめる。

「人間と同じね。自分の欲望に忠実で、抑えることもせず、それだけに心を支配される。反吐が出るわ」

「僕から見れば、あなたの存在のほうがよほど反吐が出ますよ。自らの欲望を押さえつけるなんて、悪魔らしさを放棄しているに等しいってね!」

 次の瞬間、人の目には止まらぬ速さで、アレンが剣を突きだす。それが本当の殺し合いの合図だった。


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