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ようこそドリームランドへ!

夏のホラー2017に応募した作品です

是非とも、夢のようなひと時を

 「なあショウタ、いいじゃん! 行こうぜ! 親友だろ?」

8月の猛暑日。僕らは照り付ける太陽を避けて、コンビニで買った昼食を木陰でとっていた。夏休みを利用して、都内にあるスケボーエリアに滑りに来た僕たちだったが、暑すぎてほとんど人がいなかった。好都合ではあるが、親友のマサキがこんなことを言い出してから全く集中できなくなった。


 それは、「裏野ドリームランド」の肝試しに行こう。という話だった。


 「裏野ドリームランド」は十年前に閉園した遊園地なのだが、閉園の理由が穏やかではないのだ。

 「園内で度々子供が行方不明になる」だとか、「閉園後のメリーゴーラウンドが独りでに動き始める」とか、「ミラーハウスで人の中身が入れ替わる」、「園内の中心地にあるドリームキャッスルには拷問部屋が存在する」だとか。その後営業不振で廃園になった後は、夜な夜な何者かの叫び声が聞こえるという証言が多発して、恐れられている心霊スポットになっていた。


 普通なら「そんなのただの噂じゃん」と言いたいところだが、僕はこう見えて怖いものが大の苦手なのだ。ついでに怖いものが多い。

 幽霊に始まり、クモ、ゾンビ、高い場所、数えたらキリがない。それより何より怖いのがピエロだった。 そして、「裏野ドリームランド」は名前に反してかなりアメリカ式の遊園地だったそうだ。つまり、絶対にピエロがいたのだ。あの薄気味悪い笑い声の赤鼻が園内を間抜けに闊歩していたのだ。そんなとこにどうして自ら飛び込むのか。入る奴はバカだ。


 「あ、ちなみにお前の好きなアキちゃんは来るってさ」

 「うん、行くわ」


 一週間後。夏休みも終わりに近づいた涼しい夜だった。

眼前に、くたびれた文字で「裏野ドリームランド」と書かれた大きな看板が現れた時、本気で帰るか迷っていた。ただ、隣には中学から好きだったアキちゃんがいる。ここで「帰るわ」なんて言ったら失望もいいとこだ。どうしても前に進まなければいけない場面が来たとき、人は思ったより強くなれるものだ……。

 

 「やっぱ帰っていい? 夏休みの宿題が……」

 「お前初日に宿題終わらせる人間だろ」


作戦は見事に失敗した。マサキに服の襟を掴まれたまま園内に引きずられていく。

 「ショウタって怖がりなんだね」

 そう言って笑うアキはめちゃくちゃ可愛いが、今のは失望したってことなのかもしれない。

 「ま、まあたまにホラー小説とか読むけ……」

 「マサキ見て! コーヒーカップだ!」入ってすぐに設置されていた寂れたコーヒーカップのアトラクションに向かって無邪気に走っていくアキ。

彼女の後姿を眺めながら、僕の恋も終わったか……そう思った時。

 ――それは一瞬だった。


ばしゅ。


 最初は何か風船でも破裂したのかと思った。ただ、ふと口の中にじんわりと広がる、味わったことのある風味に疑問を覚えた。

 「あれ、鼻血?」

 気づくと、目の前に「アキだった物」が膝から崩れ落ちるのが見えた。

 「え……っとアキ?…だよな?」

 「は?」

 顔にヌメヌメした物を感じ、手で拭ってみると、真っ赤なペンキの様なものがべっとり付着していた。ただ、ペンキとは違う不快な臭気が漂ってくることで、二人ともそれが先ほどまでアキの体内を巡っていたものだと認識するのに、そう時間はかからなかった。


 『うわああああああああああ!!!』僕らは二人同時に叫ぶと、同時に入口まで全力で走り出した。

 「おいショウタ!! どうなってんだよ!! なんでアキの頭が無くなってるんだ!?」

 「知らねーよ!! ああああクソ! なんでアキが……!」

 入口に着くと、マサキがタックルするように扉を押した。だが開かない。

 「おいおい、何で開かねーんだよ!」

 「と、というかちょっと待て、俺たち来た時に扉閉めたっけ? てかここ立ち入り禁止なのになんで鍵開いてたんだ?」

 「知るかよ! んなこと考えてる場合かよ!」

 「いやいやいや考えるべきだろ!! 誰かがここに入れるように最初からカギを開けてたんだ! そして俺らはまんまと引っかかった! ここはイカれた殺人鬼の縄張りなんだ!」

 どんどんと、マサキだけでなく自分自身の顔色が青ざめていくのを感じた。

 門及び壁は人が飛び越えたり、よじ登るための凹凸等もない。完全に閉じ込められてしまった。そしていつまた殺されるかも分からない。興奮を抑えられないまま、周囲を警戒しながら僕らははしごを探すことにした。



 ――当然のごとく従業員入口は閉じられていた。鉄製のドアに鍵。蹴ってもタックルしてもびくともしない。ハンマーでもあれば何とかなったかもしれないが、ここは遊園地だ。工場じゃない。

 「十年経ってもまだ、ここまで厳重とはな……」

マサキは完全に生きる気力を失くしている様子だった。

 「そうだ、警察! 電話すれば……」僕はポケットからスマートホンを取り出す。

 「駄目だよ。どうしてか分からねぇけど、ここは圏外になってやがる。入る前は電波五本立ってたのによ」

 「クソ、連絡手段もなしか……」

袋小路というのはこのことだ。

 「とりあえず、武器になるものを探そう。木の枝でも何でもいいから。ほら、マサキ、行くぞ!」

 不思議と前に進もうとする自分がいた。怖いのは怖いのだが、以前の自分ではないような気がした。人は好きな人を目の前にした時より、追い詰められたときに真価を発揮するのかもしれない。

 アキを失った悲しみは大きかったが、今生かされていることの方が更に大きな恐怖だ。奴らはどうして僕らを殺そうとしないのか。これは遊びなのだろうか。

 殺人鬼側の考えはどう頑張っても分からない。

 「行こう」

二人は重い足取りで歩み始めた。

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