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クロス・ワールド  作者: 永津 剛士
序章
17/17

オカルト研究部と親友



ランニングとは違い、ほぼ全力で駆け抜けて来た長月紗英は息を切らしながら、自分の高校へやって来た。伊藤があまりにもバカな行動をしたからだ。


『ごめん!今旧校舎に向かってるからこっち来て!先にオカルト研究部の部屋行っておくから!』


そのメールを見て何故、こんなに焦ったのかは分からなかった。ただ、一人で行かせちゃダメな気がしての行動だった。


市の図書館から学校までは歩いて20分程。長月紗英はメールを見てからここまで約10分で来た。それまで伊藤を見なかった事から既に旧校舎に向かっているはず。


旧校舎へ向かうついでに息を整える。まだ少し寒いが走ったおかげで火照った体には汗で服が張り付いていた。


そんな扇情的な格好であるが、気にせずに旧校舎へ向かう。


新校舎の奥にある木造の旧校舎は午後の為誰も居なくなったせいで異様な雰囲気を醸し出していた。


その旧校舎の扉をゆっくり開く。そして、伊藤が居ないのを確認して、さらに奥へ向かう。無言でいるのも怖くて、結衣ー!と声を出しながら。


火曜日に来た時と何も変わっていない旧校舎の一階の奥まで来て、二階から足音が聞こえて、一瞬身構えて息を止めてしまうが、それが伊藤だと分かるとふぅ、と息を吐き出した。


「どうしたの?そんなに汗かいて。ゆっくり来ても良かったのに。」


そんな呑気な事を言ってきて少しカチンと来たが、それを押し込め、詰め寄る。


なぜ来たのか、先生に場所を聞いてからと言っていたのに、と。その質問に対しなんでもないような顔で紙を見せて答える。


それは金曜日帰りのSHLで渡されたプリントにある先生の携帯番号。今日先生に電話して確認したそうだ。先生が土曜日にこっちへ帰って来ている事はクラスのみんなが知っている。水曜日にそう言う話があったからだ。だが、行動が早すぎると溜息しか出てこない長月紗英だった。


「それで場所を聞いたらすぐに確認したくて今日来たってわけ。」


さも当たり前でしょ?みたいな顔で言われた長月紗英は言葉も出ない。仕方ないかと思う事すら出来ないのだ。


とにかく帰ろう!と説得するものの、頑なに首を縦に振らない。いつもならなんだかんだで諦めてくれるのに今日に限っては折れてくれないのだ。


「もういい!それなら一人で行くよ!」


そう言って階段を上って行ってしまう。あぁ、もう!と右足で廊下を踏み鳴らす。そのまま帰ってやりたいが不安な気持ちはますます大きくなるばかり。どうしてこう、調べたがるのか理解出来ない長月紗英は二階へと上った伊藤を追って階段を駆け上がった。



そこまで離れた訳ではなかったため、二階の廊下を見ていない事を確認してからすぐに三階へ上がる。不気味な雰囲気にさっきまでの怒りがなりを潜めた。一階や二階の比ではない程暗く感じる廊下の真ん中に伊藤が立っている。何か奥をジーっと見ているような気配を感じ、小さな声で声を掛けた。


すると、ビクッと肩が揺れすぐに振り向く。そして、長月紗英だと分かるとはぁと溜息を吐いた。


「ビックリさせないでよ。ただでさえ怖いのにそんな囁くように名前呼ばれると余計怖くなるでしょ!」


どうやら、伊藤も怖くて一人で先に行けないらしかった。たがこの雰囲気だ、気持ちは痛いほどわかるというもの。無理して行かなくてもと思ってはみたものの聞かない事はさっきのやり取りで分かっている。ならば、一緒に行って自分の中にある不安を少しでも和らげる方が良いだろうと考えた。


「さっきみたいな事はもうやめてよね!」


伊藤が少し怒ったように言うと手を差し出してくる。長月紗英は頭に?を浮かべてその手を見た後首を傾げた。


「怖いから手を繋いで!」


ふふっと異様な雰囲気の中で笑ってしまう。怖いなら一人で行かなければ良いのにと先程の言い合いの仕返しとばかりに言う。長月紗英も怖いのだが、今は自分の中の不安が膨れ上がるばかりで、怖いと考える余裕が無くなってしまっている。


「だって、確かめないと胸のモヤモヤが消えないの!特に今日は行かなきゃいけない気がしてしょうがないのよ!」


ここに来た理由を明かす伊藤だが、最初から確かめたいと言っていたので特に疑問を持つ事も無くはいはいと聞き流し伊藤の手を取る。


「なんだか手を繋ぐの久し振りね。」


そう?と返事を返し、少し考えてから小学生以来かな?などと一人思い出す。


そろそろ三時に差し掛かる時間だろうか、ゆっくりと進む二人は薄暗い廊下を言葉少なげに歩く。木造の廊下を踏むとギシィといやに響く音がする。三階ということもあり、真っ暗という程ではないにしても、埃の舞う薄暗い廊下は不気味で仕方なかった。


ギシィ、ギシィとゆっくりと歩みを進めると廊下の一番奥に辿り着く。そこには扉が一つあり、元々教室では無いのだろう横にスライドするタイプの扉では無く、ドアノブのある普通の扉があった。


「ここね。」


その扉は他の部屋と同様にボロボロになっており、形を保っているのが不思議なほどだった。『オカルト研究部』と書かれた紙が貼られていて、その紙が目的地だと伝えていた。二人は顔を見合わせ、深呼吸すると伊藤がドアノブを回す。


その後ろに立つ長月紗英は開けられた扉から少し中の様子を確認しようと伊藤の頭上から中の様子を見た。


廊下とは段違いに暗い部屋の中、きっとカーテンが締め切られているのだろうその部屋の中はその部屋を隔てて全くの別世界に思えた。


伊藤が一歩部屋の中へ足を踏み入れ立ち止まる。その後ろにいる長月紗英は部屋に入らず、その深淵を目を凝らして見ていた。数秒、または数十秒の後伊藤がポツリと呟く。


「あそこがすごく気になる。」


その呟きを聞き、しまった!と言う顔をしたが、時すでに遅し。伊藤がそのままゆっくりと部屋に入って行ってしまう。声を掛ける事も忘れる程今の状態は良くはない。それは冷静になって戻って来た恐怖心である。ホラーが苦手な長月紗英は恐怖心で声を掛けることすらも忘れてしまうほど怖がっている。そして、走った事による汗とはまた別の汗が頬を流れた。


伊藤が手を離し奥へと進む背中を見失わないように

見える位置にて後を追う。一歩部屋へと入ると空気が変わるのを感じた。その事により恐怖心は和らぎ、好奇心が膨れ上がる。伊藤の背中ばかり見ていた視線を周りへと向ける。暗くてよく見えないが、思ったより目が慣れたのだろう輪郭だけは見えるようになっていた。


左から右へ視線をゆっくり動かし銅像のような輪郭を見つける。なんだろうと目を凝らすと伊藤の声が聞こえた。


「これって・・・」


この声が聞こえた方へ視線を動かそうとして、その銅像の様な輪郭が動くのを見た。それにビクッとしてサッと目を向ける。すると部屋全体を照らす様な光が溢れ、その輪郭がはっきりとした姿を見せる。


その姿に長月紗英は驚愕の顔で見ていた。目を覆う様に腕らしきもので覆ってはいるが、異形のものであるのは間違いようがなかった。本や漫画なんかで出てくる様な悪魔と表現すれば分かってくれると思う。


しかし、伊藤の事を思い出した長月紗英は急いで振り返る。光の発生点は伊藤の声が聞こえた位置からで間違いないのだ。そして、伊藤が光に呑まれるのを見て急いで手を伸ばす。


「紗英!」

「結衣!」


そして、消えた。





_________________________



伊藤は右から左へと視線を動かし、『オカルト研究部』の部屋を見回した。すると一箇所だけなんの輪郭もない空いた空間があるのを見つける。


少し怖かったものの、気になる。何かあると自分の勘が言っているのだ。これは確かめないと、と思い長月紗英に一言言って歩き出す。


部屋に入った時も感じた違和感をその空いた空間に近付くとより一層感じる。後ろから長月紗英が付いて来ているのを感じ、手を離した事で自由になった手をその空間の床へと伸ばす。床の木の感触を感じると共に違和感も膨れ上がる。指を床に滑らせ、埃を払う様にして、そして気付く。


「これって・・・」


床には埃一つ付いておらず、何か粉の様な物を指の感触が伝えてくる。目を更に凝らしてみると薄っすらとだが、白いもので何かが書かれている。それはオカルトでよく見る、魔法陣の様なものだ。その中央には何か石の様な物が置かれていた。


その石へ手を伸ばす。恐怖心より、好奇心が勝っている今、知りたいという欲求を抑える事が出来ずにいた。そして、指がその石に触れる。途端にその石が光を帯び始め、瞬間的に光が奔流となって溢れ出した。


その光に視界を奪われそうになるのをなんとか掌をかざす事で回避する。しかし、魔法陣が光を吸収するかの様にその白い線が光を帯びて、光が膨れ上がる。その光に驚き魔法陣の中でペタンと座り込んでしまっていた伊藤。腰が抜けたのか両足に力が入らない。ヤバイと感じて咄嗟に親友の方へ向き、手を伸ばす。


「紗英!」


振り向き右手を伸ばした手。それを親友が必死に取ろうと手を伸ばす光景が見えた。


「結衣!」


その光景を最後に伊藤の視界は光に呑まれた。




体と意識が切り離された様な感覚を感じる。上に向かっているのか、下に向かっているのか、もしかしたら前かもしれないし、後ろかもしれない。


そんな進んでいるのかわからない状態で意識だけが目の前の状況を理解しようとする。 フワッとした感覚の中、手に残る親友と繋いだ手の感触。いつ以来だったろうか。小学生の時の遠足だったかななんて考えて、涙が出る感触を感じる。


そして、今この状況は夢なのだと理解する。理解するとなぜだろうか、少しずつ意識が浮き上がるような感覚を感じた。そして、ゆっくりと目を開けた。


「おはようございます。体に異常はありませんか?"新たな巫女様"」


声の主はツインテールの小学生位の少女だった。



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