異世界人と疑問点
「簡単に説明が出来れば良いのですが・・・そうですね、他の世界へ行く為に他の者と入れ替わる際、必要なモノ、こちらでは魔力と知識を、そして多分あちらへ行った者は知識と声を手に入れたと考えます。」
そう説明するがセイルも纏まっていないらしくハルクに説明出来るほど深くは理解できていなかった。
「どうも理解が出来ないな、世界を渡るには人が入れ替わらなきゃならねぇのはわかった。だが、それと声を失って魔力を手に入れた理由にはならないぜ?」
「こればかりは私も理解が追いついていないので仮説と言いますか、なんと言いますか。」
難しい顔でうーんと考え込むセイル。仮説はあっても実感が無いからなんとも言えないのだろうとハルクは考え、アサギリへ説明を求める視線を飛ばす。
『この世界と別の世界の人間は文化、法則、成り立ち全てが違う。この世界にもパズルがあるわね?それと同じ。例えば世界は一万のピースという人で出来ていて、別の世界のピースを嵌めると世界は歪んでしまう。そこに嵌る筈だったピースの代わりに別のピースを綺麗に嵌めるには削ったり付け加える必要がある。』
パラっと紙の束をめくり次の紙にサラサラっと書いていく。
『削ったり付け加えたりしても、背景が違うから歪んでしまう。だから色を塗り直す必要があるの。ピースが人だとすれば、私というピースは入れ替わったピースの代わりとして不老を受け取り、声を削り、魔力を付け加え、知識を塗ったという事です。つまりこの世界での役割を入れ替えたと考えてください。』
入れ替わった者と立場すらも入れ替わる。その世界に必要な者が付け加えられ、不必要なものは削り取られ、立場という色を塗られる。
「ならこの世界から元の世界へ戻ったらまた変化するのか?元の世界の役割に戻れるのか?」
『正直わかりません。ですが、何もやらない訳にはいかないのです。』
沈黙が場を支配するが、サラサラっという音だけがその場に響き渡る。
『ですが、この儀式があるという事は他の世界のものにも何かしらの役割があるのだと考える事も出来る。それがこの国の運命を左右する程の事であれば尚更です。』
「それはどうやって分かる?役割だなんだと言ったって俺たちは普通に生きてきた。それが役割の為だったなんてのは正直反吐が出る。」
「多分全ての者には影響は無いのでしょう。入れ替わりによって、その者を世界が受け入れる為の"役割"なのでは無いでしょうか。実際、アサギリさんと入れ替わっただろう者を私達は認識する事は出来ません。そこにいるのはアサギリ・ライムという一個人であり、それ以上でもそれ以下でも無いのでしょうから。」
話が纏まらず話が逸れていく。ただ、儀式を行う事だけが決定しただけの会議だった。誰もが主張する事はあるし、守るべき者がバラバラなのだ。王はこの国を、アサギリは二つの世界を、巫女は各領を、守り手は巫女を。それぞれがそれぞれを守る為に譲れないものがあるのだ。
ガチャ、と入口が開く音がする。皆が皆会議は無駄だったと考え始めた所だった為沈黙の中ハッキリと音が響く。
「お連れしました。」
そこには執事のスタルと車椅子に座る年老いた女性が座っていた。
「おお、来ていただき感謝致します。この方は先程話した占い師である。我に助言を下さったお方だ。」
王は駆け寄り、その女性の手を取り握り締める。その行動によりどれだけその人を信頼しているかがわかった。その女性はもう声を張ることが出来ないのか、王の耳元で何かを話す。
「わかりました、ではどうぞ。」
スタルが車椅子を押し、王が先程まで居た場所へと向かう。そして、アサギリに耳打ちする。と、アサギリが持っていた紙に文字が浮かび上がる。それは魔力を使った簡単な術式と特殊な紙があればこの世界の人間ならば可能なものだ。
『初めまして、私が今回ここへ来た理由はわかるかと存じます。なので、要件だけを掻い摘んでお話し致します。』
スラスラと文字が浮かび消えていく。誰もが口を挟む事なく浮かび上がる文字を読んでいた。
『一つ、この世界の崩壊。
二つ、崩壊した場合のあちらの世界への影響。
三つ、世界の法則。
今挙げた中で今、最も重要な部分は世界の法則です。世界を移動する事によって"役割"を授かるのは理解していますか?』
全員が無言で頷く。それを目だけを動かして確認した老婆は少しだけコクリと頷くと話を続ける。
『私も元はあちらの世界の人間です。アサギリさんに出会ったのはもう何十年も前の事。私の力は未来予測、ただそれだけです。そして無くしたのはあちらの世界での思い出です。』
なるほど、とセイルが頷く。流石に他の者も理解しているのだろう事は空気で伝わってくる。
「つまり、貴女の未来予測によってこの国を、そして世界を崩壊から守る為に王は動いていたと?」
「いや、我は国の為だと聞いていたが?」
王は困惑していたようだ。国の為に占って貰っていたのに実は世界の崩壊を止める為に動かされていたという事実にだ。
『私とアサギリさん、そして数名のあちらの世界の人間で行動していました。王様、騙すような事をして申し訳ありません。私達は元の世界へ帰りたいという気持ちが強かった。だけど、その為にはこの世界の崩壊を止める必要があったのです。』
「いや、良い。我は少し動揺しただけだ。話を続けよ」
『ありがとうございます。そして、崩壊を止める手段、それがこの儀式なのです。私の未来予測は確率の高い瞬間を見る事が出来ます。それによれば、儀式は成功する事になっています。問題は誰が犠牲になるかわからないという事です。これだけは全員に可能性があると暗示されているのだと考えています。』
「振り出し、ですね。これでは堂々巡りではありませんか?儀式は成功するというのであれば行うのに疑問はありません。ですが、誰が犠牲になるかわからないのではアサギリさんに絞る事が出来ません。」
「これじゃ話が纏まんねぇな。あークソ!いっその事その世界と"通路"で繋がってれば行き来出来んのによ!」
ハルクのその言葉に全員が苦笑する。それが出来ればこんな話にはならないだろと。だが、その中で一人だけ思案顔をする者がいる。
「出来るかも知れません。」
数秒の沈黙の後声を発したのはセイルだ。苦笑していた全員が一斉にセイルを見る。
「確実ではありません。それに犠牲になった者がどうなるのかわからない以上可能性は極めて低いですが。」
『それはなんですか?』
「はい。前提としてあちらの世界とこちらの世界に魔法陣がある必要があります。そしてある程度魔法陣に詳しいとなお良しですね。」
「回りくどい。ハッキリ言えよセイル。」
「そうよ、貴方の悪い癖だわ。」
ふぅ、とセイルは息を吐く。
「同じ世界の人間の魔力で転移魔法陣を書き直すのです。きっとあちらの世界にも何処かに魔法陣があるのでしょう。だからこちらの世界とあちらの世界が繋がった。しかし二つの魔法陣は形も使った力、つまり、エネルギーが違います。だから歪なんです。正しく同じ転移魔法陣で同じエネルギーこの場合は魔力を使えば通路が確立する可能性があります。」
『なるほど、あちらの世界の魔法陣の中をこちらの世界の力で満たし、その魔法陣の中をこの世界として見るわけですね?』
「はい。ですがその為には一度こちらの世界の者があちらの世界へ行き、魔法陣を見つけ書き直し、魔力で満たす必要があります。簡単では無いでしょう。」
『その魔法陣の場所には心当たりがあります。』
アサギリの言葉を見て全員が注目する。
『きっとあの学校の旧校舎のどこかでしょう。』
そう言ってアサギリは笑った。
これで最低限の情報の確認は終わった。あとは運次第というところだった。そして、最後に老婆が話をする。
『皆様ご協力ありがとうございます。元の世界へ戻る為に今までやってきた事が漸く実を結びます。皆様には深い感謝を。』
「どうって事ねえさ。俺たちだって世界が滅んだらどうにもならないんだ。お互い様じゃねえか!」
『はい。ありがとうございます。』
「所でバアさん、あんたの名前聞いてなかったんだがなんて呼べばいい?」
『王様、私の名を伝えてなかったのですか?』
「いや、我は伝えたぞ?こちらの世界の名は。聞いていなかったのか?」
ハルクの言葉に老婆が王を責め、王はハルクに言葉と共に訝しげな視線を飛ばす。
「いや少し考え事しててな。んで名前は?こっちの世界の名前とあっちの世界での名前、二つもあんのか?」
『そうですね。私はその人の記憶を頂いたみたいですので、そちらの名の方が良いかと思っていたのです。私の名前はマーカス・Vb・ローザ。元の世界ではクラハラ・エリカと名乗っていました。』