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クロス・ワールド  作者: 永津 剛士
序章
13/17

会議と懐疑



暫く無言が続き、ガチャリと入口が開かれると王が入ってくる。その後ろには見慣れない服を着た女性と執事のスタルが付いていく。


「待たせたな、ではこれより巫女達に行ってもらう儀式について話させてもらう。」


自分の席まで来て開口一番にそう口にする王。その瞬間その部屋には緊張と不安が混じった空気が充満する。

スタルは王の命で巫女達へ紅茶の様なものを作り配っていく。それが終わるまで王は一言も喋らず、隣にいる女性は我関せずを貫いた。


「どうぞ。」

と朱雀領の巫女に紅茶モドキを渡し王の右後ろへ戻る。それを巫女達八人が見送ると、王が話し始める。


「ではこれより新たな巫女を召喚する為に必要な事を話す。と、その前に紹介しておこう。こっちが執事のスタル、そしてこちらが私の相談役アサギリ・ライムだ。では話をーーー」


「待ってください。相談役のアサギリ・ライムさん、貴女の事は少し話を聞きました。が、信用が出来ません。貴女の出身はどちらですか?名前を聞く限りこの王国の者では無いのでしょう?もしかすると、敵国の間者かも知れないという不安は取り除いておきたいのですが説明を要求してもよろしいでしょうか?」


セイルは王の話を中断させるとライムに説明を求めた。王は一度ライムに目を向け、無言で一つ頷くと、ライムが一歩前に出てくる。


『私の出身は言った所で理解出来ないわ。だけど、話を聞けばと答えが分かるわ。この儀式の目的は二つ。

一つはこの国が攻勢へと転じる為。

もう一つは私の存在理由と最終目的の為に必要な人材を呼び寄せる事。

それ以外にもあるけど、概ねこの二つが大きな理由。信用するかは貴方達次第よ。』


紙にすらすらと書いて全員に見せると、ライムは一歩後ろに下がり元の位置に立つ。


「取り敢えずはこの説明で良いか?白虎の巫女の守り手よ。」


「はっ、取り敢えずは。所で、ライムさんは何故紙に字を?」


「声を出せぬのだ許してやってくれ。」


「分かりました。話を折って申し訳ありません。」


アサギリ・ライムの事情にはそれほど関心が無いのかあっさりと引き下がり、話の続きを聞く姿勢に戻る。


「よい。では話を続ける。今ライムが説明した通り、我々は漸く攻勢に出る手段を手に入れた。その為に必要なのは四人の巫女による儀式と、そしてーーー」


言葉を区切る。巫女と守り手全員を見回し、言葉を続ける。


「生贄だ。」


その言葉に王達三人と白虎領の巫女以外が息を呑む。ここにいる誰かが為さねばならぬその役割。誰もなりたくはないし、なってくれと頼まれて二つ返事で答えられるものでもない。誰も言葉を発する事なく王の言葉の続きを待った。


「その贄は誰にするのじゃ?妾は断るが?」


と、誰も言葉を発せない所に白虎領の巫女ユークリフトが言葉を発する。


『生贄は選べない。儀式の時に選択される。だから誰になるかはわからない。』


その質問に答えるのはアサギリ・ライムだ。だが、その返答により場が騒然となる。


「誰になるかわからないだと!?ふざけるな!そんな儀式聞いた事ねえよ!」


「もし、その生贄に巫女達が選ばれたらどうするのよ!各領にとって巫女がどういう存在か貴方達知らないわけじゃないでしょ!?」


「そもそも、その儀式で新たな巫女を確実に呼ぶ事が出来るのか分かっているのですか?そんな不確定なものを巫女達にさせる事は出来ません!」


「そそ、そんな、儀式が、ああ、あるなんて、き、聞いた、事、無いです!」


特に巫女の守り手四人は相手が王という事を理解していても、語尾が強くなるのだった。守り手四人は"巫女を守る"事が任務であり、巫女を犠牲にするその計画を承認出来ないのだ。


「攻勢に出る為の犠牲だとしても納得いかねえよ!守り手が巫女を犠牲にするなんてのは論外だ!この話は終わりだ!」


「待て、最後まで話を聞け。その犠牲者をライムがやると言って聞かないのだ。だが、誰が選ばれるかわからない。その為にお主らには知恵を借りたい。その為の場だ。」


そして、場は静まり返る。全員がライムの掲げる紙を見ていた。


『私は為さねばならない事がある。その為にこの儀式が必要。私にとっては世界を超える為の手段なの。』


「世界を超える?どういう事だ?」


「言葉のままの意味だ。アサギリ・ライムは異世界の人間であり、何故かこちらの世界へやってきた。アサギリを帰すにはこの方法しか無い。」


だが、と続け王は周りを見渡し

「その儀式はどの異世界へ行くかわからない。無数にある異世界の中でアサギリのいた世界へ帰すのは難しい。だが、巫女達の力を借りれば、新たな巫女を呼ぶと同時にライムを帰してやれるやも知れん。」


この国で最も儀式に精通しているだろう巫女達。その巫女達が四人いればアサギリの世界を捉え、移動させる事も可能かもしれないと思ったのだ。


「だが、巫女達による儀式は一度の例もない。今回が初の試みである。何が起こるか分からん。それでも、行動せねばならぬのだ。」


「何故です?実験を繰り返せば時間は掛かっても出来ない事は無いと思いますが?」


『理由はありますがもう一つ、私の精神が持ちません。私がこの世界へ来たのはもう百年を超えて居ます。それでも肉体は老化をせず、精神だけが擦り切れているのです。』


百年。その途方も無い時間を守り手達は考える。もし自分がそうなればおかしくなってしまうかもしれない。精神的に保てる保証もない。何も知らず、誰も知らず、訳の分からぬまま世界を彷徨う。襲われるかもしれぬ恐怖と、誰にも頼れぬ不安。それだけで自殺しなかったのは一重に希望があったのだ。


『ですが、この百年余りの時間の中で、私と同じ世界の人を見つける事も出来たのです。私にとって、それは同じ言葉を理解してくれる同郷の人間であり希望です。その人達の為に私は私の世界とこちらの世界を繋げる必要があると考えました。だから、私はあちらの世界へ向かわねばなりません。』


「ちょっと待って。アサギリさんが向こうの世界に行く事は理解しました。けれど、新たな巫女とはまた別問題ではないのですか?」


そういえば、とシンクが王とアサギリへ向かって言う。そう、巫女を呼んだのは新たな巫女を召喚する為の儀式をすると伝えられていたからだ。なのに、蓋を開けたら全く違う内容なのだ疑問が出て当たり前だった。


「そうだ、王国全体を守る結界を張れるほどの力の持ち主である巫女を呼ぶと俺は聞いたぞ。それについてはどうなんだ?」


「そうだな。スタル、呼んで来てくれ。」


「はい。少々お待ちを。」


スタルが部屋を出て行くのを王が確認し、説明する。


「我はある人物に占いを頼んだのだ。この国が攻勢に出る為にはどうすれば良いかと。その者によれば、明日日が落ちる前太陽が赤くなる時刻に儀式をする事だった。」


「つまり、アサギリさんを元の世界へ送るにはあちらの世界から誰かを呼ばなければならない、しかも、攻勢に出る為にはその儀式を明日の夕刻に行う必要があると?」


「そうだ。アサギリを帰すと同時にこちらの世界へ新たな巫女を呼ぶ必要がある。それに成功すればこちらは目的を達する事が出来る。」


「ですが、その確率は低いんですね?条件が揃った所でその儀式が成功するかわからないのと、その巫女が本物なのかどうか、そして、何も力もない人間をアサギリさんのようにこの世界へ呼んで良いのか。」


問題は山積みだった。結果で言えば儀式を行う方が良いに決まっている。ただ、実際にアサギリを生贄に出来る確率とこちらへやって来る者が本物の巫女か否か、そして、儀式が成功するのか否か。


「力に関して言えば問題ないだろう。アサギリはこちらの世界へ来る際声を失ったが代わりに知識と魔力を得たそうだ。この世界とは法則が違うからこそだと我は考えたのだが・・・」


『私の考えは少し違います。私自身を例に挙げると、この世界に来た時入れ替わった者と交換したのだと思います。それも、この世界で必要なものを。』


「なるほど、少し理解できました。」


王とアサギリの説明をセイルのみが頭一つ分理解できた。他の者に至っては理解できずに困惑している者と興味のない者がいる。



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